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悪役令嬢、チュートリアル担当の騎士と結婚したら破滅回避できました 〜攻略難易度★☆☆☆☆の彼が最高の旦那様でした〜  作者: 梅澤 空


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新学期、デュエルフェスタ開幕 4

秋晴れの空の下、学院の闘技場には、朝から多くの生徒たちが集まっていた。ざわめきと高揚感が入り混じる空気の中で、そっと胸に手を当てる。


(……大丈夫。落ち着いて。これまで、頑張ってきたんだから)


頭に浮かぶのは、剣を握った日々。カイルとの特訓。光魔法を何度も練習した時間。


高台に立った学院長が、手を掲げた。一瞬、場の空気がぴたりと静まる。


「王立魔法学院・秋の魔法決闘祭(デュエルフェスタ)、これより開幕する!」


宣言と同時に、盛大な歓声が広がった。


控え場所――闘技場の裏手に設けられた、試合出場者専用の待機スペース。木造りのベンチと仮設テントの下で、出場者たちはそれぞれのやり方で試合に備えていた。


わたしたちも、その一角にまとまって座っている。


「緊張してる? いつも通りのフィオナで大丈夫だよ!」


カイルが、にっと笑って親指を立てる。


「……緊張、してないわけじゃないけど」


「ふふ、まぁ、フィオナのことだから、なんとかなるでしょ」


シルヴァンが軽く肩をすくめた。わざと明るく振る舞ってくれているのがわかって、少しだけ心がほぐれる。


「どんな状況でも、落ち着いた判断こそが勝利への第一歩ですよ」


ユリウスはいつもの落ち着いた調子で助言をくれた。その理論的な言い方が、彼らしい。


「うん。ありがとう」


小さく頭を下げる。

隣にいたジュリアンが、そっと小袋を手に握らせてくれた。ポプリの、ほのかに甘い香りが漂う。


「これ、お守り。怪我しないでくださいね」


「うん。ありがとう、ジュリアン」


ジュリアンの静かな声に、胸の奥が温かくなった。

少し離れたところでは、アレクシスが腕を組み、こちらを見ていた。 眉間のしわが、言葉にしなくても

「無理はするな」と語っている。


「大丈夫。みんながいるから」


ぎゅっと拳を握り、笑ってみせた。


(頑張らなくちゃ)


控え場所の端で、くじ引き開始の呼び出しがかかる。それぞれ立ち上がった。

くじ引き台には、たくさんの小さな筒が並べられている。ひとつずつ、中に番号が記されているらしい。


(お願いだから、あんまり強い人と当たりませんように……!)


心の中でこっそり祈りながら、ひとつを引き抜いた。ころりと掌に収まった筒を開くと、そこには『五番』の文字。


「五番、フィオナ・エルディア。対するは……六番、リック・カナン!」


呼び上げられた名前に、小さく安堵の息を漏らす。知っている。リック君は同学年の男子生徒で、火属性の魔法を扱う、素直で真面目な子だ。


控え場所から試合場へ向かう通路を歩きながら、カイルとの剣の稽古の日々を思い出していた。


「無理に攻めなくていい。相手の動きを見て、チャンスを待つ」


カイルの言葉が、胸に響く。


(うん、大丈夫。やれることをやろう)


学院の闘技場は、中央に広がる石畳の広い空間。その周囲には観客席が何段にも連なり、今や生徒たちでぎっしり埋まっていた。


太陽の光を受け、影が長く伸びる。


正面に立つリック君も、緊張した面持ちでこちらを見ていた。互いに礼を交わす。


「試合、始め!」


審判の合図とともに、リック君が素早く詠唱に入った。小さな火球がいくつも生まれ、こちら目がけて飛んでくる。


(来た!)


すかさず詠唱を始める。


「光よ、盾となって、我を守れ――光盾(こうじゅん)


淡い金色の光が、壁となって目の前に現れる。火球が次々に光盾へと叩きつけられ、爆ぜた。

衝撃に押されそうになりながらも、足を踏ん張る。

リック君はさらに前に出ようとする。


(焦ってる……!)


一瞬の隙を逃さなかった。腰に下げていた模造剣を抜き、カイルに教わった型通りに、最小限の動きで相手の杖を打ち払う。


「わっ……!」


リック君の体勢が崩れる。


(今だ――!)


すかさず駆け出し、剣を構えたまま一気に間合いを詰める。

模造剣の切っ先を、リック君の首元すれすれに突きつけた。

リック君は目を見開き、ぴたりと動きを止める。


「五番、フィオナ・エルディア、勝利!」


審判の声が響いた瞬間、膝が震えた。全身から力が抜けそうになるのを、ぎりぎりでこらえる。


(勝った……!)


わずかに体勢を崩していた自分に、リック君が苦笑しながら手を差し伸べてくれた。


「エルディアさんがこんなに剣を使えるなんて思わなかったよ」


「ありがとう。夏休みに特訓したんだ」


お互いに礼を交わし、控え場所へと戻っていく。

控え場所に戻った瞬間、待っていた仲間たちがわっと駆け寄ってきた。


「フィオナ! やったな!」


カイルが勢いよく手を振りながら走り寄ってくる。


「フィオナちゃん、すごかった!」


クララが目を輝かせながら、手を握りしめていた。


「クララ……見ててくれたんだね」


「はい! すっごくかっこよかったです!」


照れくさくなりながらも、笑顔を返した。


ジュリアンが特訓の成果を褒めてくれる横で、シルヴァンは面白そうに目を輝かせた。 カイルとの特訓を初めて知った彼は、次は自分の番だとでも言いたげに、からかうような笑みを浮かべている。

ユリウスは、無言で小さく頷くだけ。けれど、その仕草に「よくやった」という気持ちがにじんでいた。


「無茶はしなかったか?」


アレクシスが近づいてきて、腕に視線を落とす。怪我がないか、確かめるように。


「うん、大丈夫。みんなが応援してくれたおかげだよ」


自然と笑顔になっていた。

足元はまだ少し震えている。けれど、それ以上に胸の奥に広がる温かさの方が勝っていた。


(勝ったんだ。みんなの前で、ちゃんと戦えた)


もう一度、ぎゅっと拳を握った。


(よし、次も頑張ろう)


気がつけば、次の試合の準備が始まっていた。場所を空けるために、再び控え席に戻る。

振り返った先には、秋の高い空。澄み渡った青が、どこまでも広がっていた。

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