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悪役令嬢、チュートリアル担当の騎士と結婚したら破滅回避できました 〜攻略難易度★☆☆☆☆の彼が最高の旦那様でした〜  作者: 梅澤 空


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夏休み、予想外の大騒ぎ! 1

一学期の終業式が終わり、学院から戻った日の夕方。


制服を脱いで、ようやく夏休みだと実感したフィオナは、真っ先に薬草棚の整理に取りかかった。

春に採取して乾燥させた葉、クララが分けてくれた珍しい草花、王宮の薬草園から分けてもらった選りすぐりの薬草。


瓶の蓋を開けた瞬間、乾いた草の香りにまじって、ほのかな甘さが鼻をかすめた。

指先に触れる葉はかさりと音を立て、長く眠っていた香りが部屋の空気をやわらかく満たしていく。


(せっかくだし、これを使ってなにか作ってみよう)


そう思うのは、ごく自然なことだった。

久しぶりに開けた薬草瓶から、ふわりと香りが立ちのぼる。

その瞬間、ふとある記憶がよみがえる。


(そういえばこの世界って、化粧水ってないのかしら?)


彼女が普段使っているのは、侍女たちがポーションを薄めて用意してくれるお手入れ液だ。

無香料で効果はあるものの、少し薬品っぽい匂いが気になり、肌あたりもやや強い。


(どうせなら、香りがあって、優しい使い心地のものがあってもいいのに)


思い立ったら早い。

翌日、フィオナはクララを公爵邸に招いた。

手紙には「薬草の抽出実験をしたい」とだけ書いたが、クララはすぐに「行きます!」と返事をくれた。

こういうことに真っ先に付き合ってくれるのが、クララの優しいところだった。


「この乾燥ローズペタルと、カモミール。香りを引き出してみたいの」


「わかった、じゃあ水はわたしが魔法で出すね」


クララが詠唱を唱えると、手のひらからすうっと湧き出した透明な水が、瓶の中へと静かに注がれていく。

薬草が水になじんでいく様子を、二人は息を詰めて見守った。


「すごく澄んでる……。薬草が溶けていくの……きれい」


「えへへ、魔力量は少ないけど、こういうのは得意なの」


何度か配合を変えながら試していき、香りと使い心地のバランスがとれたところで、フィオナは瓶に手をかざした。


「少しだけ、光魔法を込めてみよう」


やさしく、やさしく――肌を包みこむような癒しの魔力を、ほんの少しだけ。

液体の表面が一瞬だけ淡く光り、落ち着いた透明感の中に、ほのかにきらめきが残る。


「……わあ」


クララが思わず声を漏らした。

フィオナも指先で試してみる。

水分がすうっとなじみ、あとにはしっとりとした肌触りと、ふわりと広がる優しい花の香りが残った。


カモミールのやわらかさと、ローズの気品。

まるで、心までほぐしてくれるような香りだった。


そっと瓶の蓋を閉めたとき、フィオナの口から自然と言葉がこぼれる。


「……フローラルウォーター、って感じね」


その響きに、彼女は一瞬だけまばたきをした。

ああ、そうだ。前の世界でも、たしかそう呼ばれていた。


「それ、いい名前!」


クララがぱっと顔を輝かせる。


「かわいくて、ぴったりだよ」


完成した《フローラルウォーター》は、澄んだ色合いの中にほんのりと煌めきを帯びていて、小さな瓶に詰めて並べると、それだけで小さな宝石のようだった。


翌日から、二人はさっそく自分の肌で試すことにした。

朝、洗顔後にコットンで軽く肌にのせると、ほんのりとバラとカモミールの香りが広がり、気分までやさしくなる。

夜は寝る前に、肌を整えるように手で包み込み、深呼吸。


「クララ、どう?肌の調子」


「すべすべしてるかも……!なんかね、いつもより頬がやわらかい気がするの!」


二人でこっそり実験を続けて数日――。

変化は、思いがけないところからやってきた。


ある朝、髪を結いながら控えていた侍女の一人が、ふと小さくつぶやいた。


「お嬢様、最近……なんだか、お肌がつややかで、いい香りが……」


続けて別の侍女も、ちらりと彼女を見てそわそわと口を開く。


「あの……出過ぎたことかもしれませんが……お嬢様のお手入れの秘訣を、わたくしたちにも少しばかり教えていただけませんでしょうか……」


予想外の反応に戸惑いながらも、フィオナは小さく笑ってうなずいた。


「使ってみる?感想を聞かせてほしいわ」


棚から小さな試験瓶を取り出し、丁寧に言葉を添える。


「まずは腕の内側、柔らかいところに少しつけて様子を見て。赤くなったり、かゆくなったりしないか、ちゃんと見てからね」


「はいっ……!」


「光の魔力が、少しだけ入ってるから。体質に合うかどうか、気をつけてね」


嬉しそうに会釈する侍女たちの姿に、フィオナはなんだか少しだけ誇らしい気持ちになった。


そしてクララが再び遊びに来たとき――彼女もまた、開口一番、困ったように言った。


「フィオナちゃん、ちょっと大変かも。母達に『何を使ってるの?』って聞かれちゃって……」


聞けば、ブランシェ伯爵家でも同じように、母や姉が彼女の肌の変化に気づいて詰め寄ってきたらしい。


「それでね、我が家の母と姉が、目をキラキラさせて『それ、分けていただけないかしら』って……」


「わたしの母さまもよ……」


二人は思わず顔を見合わせ、同時に笑いがこぼれた。


「まさか、ここまで反響があるとは思わなかったわね」


「ね。でも、ちょっと嬉しいかも」


小さな好奇心から始まった、夏の自由研究。

けれどそれは少しずつ、周囲を巻き込み、思わぬ波紋を広げ始めていた。

いつもご覧いただありがとうございます。

少しずつストックが減ってきたので、しばらくの間、更新を1日1回(15時投稿)に調整させていただきます。

楽しみにしてくださっている皆さまには申し訳ないのですが、毎日更新は続けますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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