トップは誰だ!?異変だらけの成績発表!
朝の光が差し込む校舎の廊下。その先にある掲示板の前には、すでに生徒たちがわいわいと集まっていた。
「試験結果、張り出されたんだね」
隣にいたクララが、そっと囁く。フィオナはこくりと頷いて、一緒に人だかりへと歩みを進めた。
掲示板には、試験結果をまとめた大きな紙が貼り出されていた。
【期末試験・成績一覧(筆記+実技 総合評価)】
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《筆記試験》
一位 ユリウス・ヴァレンハイト
二位 アレクシス・アルセリオン
三位 ジュリアン・エルディア
四位 シルヴァン・ルクレール
五位 カイル・アーディン
六位 フィオナ・エルディア
七位 ベアトリス・フォルディア
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《実技成績》
一位 カイル・アーディン
二位 ジュリアン・エルディア
三位 フィオナ・エルディア
四位 アレクシス・アルセリオン
五位 シルヴァン・ルクレール
六位 ベアトリス・フォルディア
七位 ユリウス・ヴァレンハイト
――――――――――――――――――――
《総合順位》
一位 カイル・アーディン
二位 ジュリアン・エルディア
三位 フィオナ・エルディア
四位 シルヴァン・ルクレール
五位 アレクシス・アルセリオン
六位 ユリウス・ヴァレンハイト
七位 ベアトリス・フォルディア
「誰が一位だったの!?」「やっぱりユリウス様じゃない?」「アレクシス殿下でしょ、きっと!」
そんな声を聞きながら、フィオナも自分の名前を探す。そして――
「……えっ?」
あった。あったけど。
「うそ……3位……?」
思わず声が漏れた。目を疑って、もう一度見直す。それでも、そこにははっきりと「三位 フィオナ・エルディア」と記されていた。
「フィオナ、すごい……!」
隣でクララがぱちぱちと瞬きをしながら、そっと拍手を送ってくれる。けれど、当の本人であるフィオナは、ただただぽかんと立ち尽くすばかりだった。
(こんな成績、ゲームじゃ絶対にありえなかった。でも、頑張ってきて良かった)
そして、さらに視線を上へと移して――フィオナは、思わず目を見開いた。
「カイル……一位……?」
信じられないという気持ちと、何かに打たれたような衝撃が同時に押し寄せてくる。
(実技だけじゃなくて、座学も……?)
ゲームの中での彼は、実技は優秀だけれど、座学に関してはからっきしだったはず。ましてや、10位にすら入っていなかった彼の名前が、今、堂々と一番上にある。その変化に、驚きと、そして――ほんの少し、嬉しさが混じる。
「おーっ、いたいた! やっぱここにいた!」
元気な声が響いて、フィオナはぱっと顔を上げた。人だかりの向こうから、笑顔のカイルが駆けてくる。
「見た!? なあ見た!? 俺、一位だった!!」
カイルが勢いよく駆け寄ってきた。掲示板の前で立ち止まり、嬉しそうにフィオナの顔をのぞき込んでくる。
「うん、見たよ! 本当にすごいね!」
思わず笑ってそう返すと、カイルはますます顔を輝かせた。
「へへっ、実技でトップなのはまあ当然として……今回は座学も頑張ったからな!」
「ちゃんと努力してたもんね、カイル。いつもよりずっと集中してたし」
「おう! 次は座学でももっと上狙うから!」
拳を握って言うカイルの横から、さらりとした声が割って入る。
「姉さま、総合3位、おめでとうございます」
振り向くと、ジュリアンが静かに立っていた。制服の襟を整えたまま、目元だけがやわらかく笑っている。
「ジュリアン! ありがとう」
「実技での評価が特に高かったと、先生方の間でも話題になっていましたよ。回復速度と魔力の使い方が、明らかに上達していると」
「えっ、ほんとに……? うん、うれしい」
言葉にすると、フィオナの中で何かがぽっとあたたかくなる。ちゃんと、見てくれていたんだ。
「でも、ジュリアンこそすごいよ。座学も実技も、どっちも得意なんて、ほんとに尊敬する」
「ありがとうございます。努力の甲斐がありました」
ジュリアンがすこしだけ口元を緩める。
「ずりぃなー。俺も、座学もっと頑張らねーと」
カイルが頭をかくように言うと、横からぽつりと声がした。
「……私のほうが、もっと頑張らなきゃだよね」
控えめに、でもどこか決意を込めたクララの言葉に、みんなの視線が自然と集まる。
「うん。じゃあ、みんなで一緒に頑張ろうね」
フィオナがそう言うと、クララはぱっと顔を明るくして、小さくうなずいた。
「フィオナが三位って、けっこうな事件じゃない?」
後ろからひょいと誰かの顔がのぞきこんできた。
「シルヴァン!」
くるりと振り向くと、相変わらず気だるげな銀髪の青年が、口元だけで笑っていた。
「ねえジュリアン、カイル、君たちも。すごいね、ほんと」
「お前もな。授業中寝てばっかだったのに、なんで四位なんだよ」
カイルが半ばあきれたようにツッコむと、シルヴァンは目を細めて言った。
「うん、自分の才能が怖い」
「……はぁ?」
ジュリアンが心底呆れた声を漏らすのを横目に、フィオナは思わず笑ってしまった。
「でも、ほんとにすごいよね、みんな」
言ったそのとき。
「……そうだな」
静かに、でも確かな声がして、振り返るとアレクシスが立っていた。隣には、黒髪に眼鏡のユリウス。
「私も、実技をもっと磨かねばなるまい」
「アレクシス殿下は、まじめ……」
クララがぽそりとつぶやいたその横で、ユリウスがさらりと口を開く。
「私は、最初から実技は捨てていますので。非効率な体力消耗に意味は感じません」
「え、捨ててるんですか?」
クララが素直な声を上げると、ユリウスは首だけでこくんと頷いた。
「その分、理論と計算に全力を注いでいます。結果的にそれが、最大効率でしょう」
「すご……そんな考え方、思いつきもしませんでした……!」
クララはぱちぱちとまばたきしながら、両手を胸の前でぎゅっと握る。
「やっぱりみなさん、すごすぎます……!」
その言葉に、フィオナは思わずくすりと笑ってしまう。
「よしっ、じゃあ今日は――打ち上げでどっか行こうよ!」
突然声をあげたのは、もちろんカイルだった。勢いよく両手を挙げて、にっと笑う。
「せっかくみんな頑張ったんだしさ、ご褒美タイムってことで!」
「またか? 帰って執務をしなくてはいけないんだが」
アレクシスが肩をすくめつつも、渋い顔で返す。けれど、声にいつもの鋭さはない。
「たまにはいいんじゃない? ずっと堅い顔してると、しわ増えるよ?」
横からシルヴァンがひらりと笑いながら口を挟む。その無責任な一言に、アレクシスがじろりと睨み返した。
「……お前な」
「ほらほら、決まりだね!」
カイルは強引にまとめにかかると、ぐるっとみんなの顔を見渡した。
「ジュリアンもフィオナもクララも今日くらい、息抜きしようよ!」
目を丸くしたクララが、そっとフィオナの方を見る。
「……いいのかな?」
「うん、いいと思う」
フィオナの言葉に、クララがぱちぱちと瞬きをしたあと、小さく笑った。
「わ、うれしい……」
その声が少しだけ弾んで聞こえて、フィオナも思わず笑顔になる。
「では、せっかくですから。行きましょうか」
ジュリアンがやわらかく微笑む。そして気づけば、アレクシスもため息まじりに言葉を落とした。
「……短時間なら構わない。場所次第だ」
「王太子様の許可も出ましたー!」
カイルがわざとらしく敬礼して、みんなを笑わせる。その笑い声が廊下に響き渡る中、フィオナは心から幸せを感じていた。こんな仲間たちと一緒にいられること。この瞬間が、どれだけ特別なものか。
「さあ、行こう!」
カイルが先頭に立って廊下を颯爽と歩き出す。その後ろを、ジュリアンもアレクシスもシルヴァンも、そしてクララも、みんなで連なって進む。
フィオナもその輪の中に入りながら、心からの笑顔を浮かべた。




