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悪役令嬢、チュートリアル担当の騎士と結婚したら破滅回避できました 〜攻略難易度★☆☆☆☆の彼が最高の旦那様でした〜  作者: 梅澤 空


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王立魔法学院編、開幕 3

重厚な扉が、きぃ、と音を立てて開いた。


真新しい教室に入ってきたのは、がっしりとした体格の男だった。広い肩に長めのローブを羽織り、焦げ茶色の髪は無造作に切りそろえられている。


その姿が教室の中央まで進むと、自然とざわめきが収まっていった。


静寂の中で、男が口を開く。


「ロイ・バーグだ。今日からお前らの担任を務める」


低く通る声が、教室の空気を切り裂いた。


フィオナは背筋を伸ばした。彼の歩き方や雰囲気には、どこか戦場の空気を感じさせるものがあった。


「授業では、実技と実戦を中心に見る。理屈も大事だが、まずは身体で覚えることもある」


生徒たちの何人かがごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。


「言っておくが、ここでは身分は関係ない。貴族だろうが平民だろうが、できる奴が前に立つ。それがこの学院のやり方だ」


教室の空気がさらに引き締まる。


「まずは、自己紹介してもらう。名前と魔法属性、それだけでいい。順番は席順。……そこからだ」


視線の先にいたのは、入口側の最前列――フィオナ・エルディアだった。


「フィオナ・エルディアです。光属性です」


立ち上がったフィオナは、簡潔にそれだけを言った。名前を名乗るたびに、周囲から一瞬ざわめきが起こるのはもはやお約束のようなものだったが、今はそれに惑わされず、淡々と座り直す。


「よし。次」


促されて立ち上がったのは、隣に座るジュリアンだった。


「ジュリアン・エルディアです。土属性です」


落ち着いた口調で名乗ると、ジュリアンは深く一礼してから腰を下ろした。


「次」


さらにその隣の席。すっと立ち上がったのは、金髪碧眼の少年――アレクシス。


「アレクシス・アルセリオン。火属性だ」


それだけで王太子と分かる名だが、ロイは反応を示さない。


「次」


「ユリウス・ヴァレンハイト。火属性です」


黒髪眼鏡の少年が、簡潔にそう名乗った。


「カイル・アーディン! 風属性っす!」


明るい声が響く。座る際に少し椅子を引きすぎて音を立てたが、本人は気にしていない。


「シルヴァン・ルクレール。水属性。よろしく」


銀髪の長髪を軽くかきあげながら、どこか楽しげに名乗った。

そこからは、名家の子息や、学力で上位に入った平民の推薦生などが順に名乗っていく。

緊張で声が小さくなる者、張り切って名乗る者、反応は様々だった。


「クララ・ブランシェ。水属性です」


少しだけ緊張した面持ちで名乗る彼女に、前列のフィオナが小さく手を振る。クララはそれに気づいて、ほっとしたように笑みを浮かべた。


再び自己紹介が続いていく。


教室の後方まで順に回っていき、最後に名乗ったのは、ベアトリスだった。


「ベアトリス・フォルディア。火属性ですわ」


立ち上がった彼女は一礼し、優雅な所作でゆっくりと腰を下ろす。

全員の自己紹介が終わったのを見届けて、ロイはフッと口角を上げた。


「……ふうん、いろんな奴がいるな。1年間同じ教室で学ぶ仲間だ!みんな仲良くしろよー」


わざとらしいほど明るい調子でそう言ったあと、声のトーンがすっと低くなる。


「でもな。仲間ってのは、信頼と実力がなきゃ成り立たない。――その意味を、これからちゃんと学べ」


ロイは腕を組み、教壇の背後へと視線を投げる。


「今日の授業はここまでだ。明日から本格的に始めるからな。今日はもう帰って良いぞー!」


そう言ってロイが教室を出ると、緊張で張りつめていた空気が一気にほどけ、ざわざわとしたざわめきが戻ってくる。


クララが、そっとフィオナの方に近づいてきた。


「……ありがとう、さっき手を振ってくれて。すごく、緊張してたから……」


「良かった!クララと一緒のクラスでうれしいな」


フィオナがにこっと笑うと、クララは少し照れたように笑い返す。


「姉さま、クララと何を話しているんですか?」


ジュリアンが興味津々な様子で加わってきたかと思えば、


「え、なんか楽しそう!ずるい~俺も混ぜて~!」


カイルが元気よく声を上げ、その後ろからシルヴァンが現れる。


「クララちゃんっていうの?可愛いね。初めましてだよね?俺はシルヴァン」


「おい、初対面にしては距離が近いぞ」


アレクシスが呆れたように言いながらも、輪の中に加わってくる。ユリウスも無言のままついてきて、結局は全員が集まった。


「ふふ……にぎやかだね」


クララは少し驚いたような表情を浮かべながらも、楽しそうに笑った。

そんな様子を、教室の後方から静かに見つめる視線があった。


「……あれが、公爵家の令嬢ですって?」


「男の方たちとばかり……ちょっと、品がないのでは?」


取り巻きの声に、ベアトリスはわずかに目を細める。


「――いいのよ。どうせ、最初だけ。派手に目立てば、そのぶん落ちる時も大きいものよ」


その声は、静かで、鋭く、冷たい氷のようだった。


「それに、あの程度で浮かれていられるようじゃ……王妃教育を受けてきたとは到底思えないわ」


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