転生記憶を持つ悪役令嬢、目覚める 3
「光属性だ!」
誰かが声を上げた。フィオナの指先からあふれた光が、子どもたちの間に驚きの波を広げていく。
「すごい!」「光属性ってあんな感じなんだ!」「まぶしい!」
カイルは目を輝かせ、自分の膝を見つめていた。
「痛みが消えた……フィオナ嬢、すごいよ!」
フィオナ自身が一番驚いていた。
(私、本当に光属性なの? ゲームとは違う……どうして?)
少し離れた場所で、ユリウスが冷静なまなざしをこちらに向けていた。
「予想外でしたね」
シルヴァンは興味深そうにフィオナを眺め、小さく笑う。
「そう来るとは……ふふ、いいね」
子どもたちが次々にフィオナのまわりへ集まり、目を輝かせて質問を投げかけてくる。
「どんな感じがするの?」「他にも魔法使える?」「光ってあったかいの?」
フィオナはまだ、自分の中に湧き上がったこの力に、どう向き合えばいいのかわからずにいた。
「フィオナ嬢と話してると、なんか心がポカポカしてくるんだ!」
パーティの興奮が少し落ち着いた頃、カイルが屈託のない笑顔でそう言いながら近づいてくる。
「えっと……それ、光魔法の効果だったりするのかしら?」
フィオナは戸惑いながら答えた。
「違いますよ、姉さま。カイルの感覚の話ですね……たぶん」
ジュリアンが冷静に突っ込む。カイルは首を傾げてしばらく考え込んだあと、ぱっと顔を輝かせた。
「そうだ! 日向ぼっこしてる時みたいな気分!」
「日向ぼっこか……うふふ、ちょっと眠たくなっちゃった」
「姉さま、お願いですから寝ないでくださいね」
ジュリアンの本気のトーンに、三人は思わず笑い合った。
「なるほど……光っていたのは彼女の魔法か」
静かな声に振り返ると、部屋の入り口にローエン侯爵――王国魔術師団長が立っていた。先ほどの光
が、親たちが集まる会場からも見えたのだろう。その鋭い視線がフィオナを捉え、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「その力、もう少し見せてほしいね」
穏やかな口調ではあったけれど、その存在感にフィオナは思わず背筋を伸ばした。周囲の子どもたちも、自然と道を開ける。
「光属性は珍しい。癒しの力か、他の力もあるのか?」
フィオナはおずおずと頷いた。
すると、シルヴァンが一歩前へ出る。
「父上、僕、彼女と少し魔力の相性を見てみたいです」
ローエン侯爵は息子に目を向け、小さくうなずく。
「ふむ。水と光の相互作用か……文献にもほとんど記録がない。興味深いな」
「姉さまに近づきすぎないでください」
ジュリアンの声が、いつもより少し強く響いた。シルヴァンは軽く肩をすくめる。
「少し試すだけだよ。僕の水と、彼女の光がどう反応するか」
カイルが思いついたように口を開いた。
「それって……虹ができるってこと?」
「あは、それは素敵だね!……ねぇ、フィオナ嬢、試してみたくない?」
(属性の相互作用って、なにか大変なことになるのかしら? ゲームにもあったかしら……うーん、思い
出せない!)
その後、フィオナたちはローエン侯爵に連れられて、本会場――来賓が集まるパーティの主会場へと戻った。きらびやかな装飾の中、父と母が他の貴族たちと談笑している姿が見える。一行に気づいた父が、足早にこちらへ歩み寄ってきた。その表情はいつもより少しだけ厳しく、でもどこか心配そうで。
「ローエン、何があった?」
「ええ。フィオナ嬢の魔力が発現しました。……光属性です」
ローエン侯爵の言葉に、父の目が驚きに見開かれる。
「光属性……? フィオナ、本当なのか?」
フィオナは少し緊張しながら、でもはっきりと頷いた。
「はい。指先から、光があふれて……転んだカイルくんの怪我が治ったんです」
その場にいた母や他の来賓たちが、ざわめき始める。
「光属性だって?」「癒しの魔法?」
小さな声が飛び交い、視線が一斉にフィオナに注がれる。不安で手がこわばったとき、母がそっとフィオナの手を握ってくれた。あたたかくて、やさしくて、涙が出そうになる。
「大丈夫。あなたの力は、きっと良い未来をもたらすはずよ」
母の笑顔に、フィオナは小さく頷いた。
ちょうどそのとき、誕生日のケーキが運ばれてきて、会場に拍手が広がる。
フィオナはケーキを見つめながら、小さく深呼吸をした。
――少しだけ、不安もある。でも。フィオナは今、この瞬間をちゃんと前を向いて迎えたいと思った。




