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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

公式企画参加してみた ⑧ 夏のホラー2024 うわさ

おデは、しにグがくいてェ゙・・・・

作者: モモル24号

 ホラー作品が苦手な方はブラウザバックをお願いします。


 ……目が覚めた。


 ……薄暗い森の中のようだ。


 ……何でこんな所にいるんだろう。


 ……おかしい‥‥言葉が出ない。


 ……身体‥‥重い。


 ……ぼんやり‥‥赤く蠢くひ‥‥かり。


 ……虫が‥‥おレのからだ喰ってる?


 ……なにも思いダせない。


 ……なんでこごにいるンだ?


 ……にグ‥‥にグがくいてェ゙‥‥。


 ……よごぜ、、あガいにグぅ゙ゥゥ。



 観光名所となった富士山をはじめとする日本の山々。近年その周辺では海外からやって来る観光客が増加。登山マナーの悪さは言うに及ばない。


 山登りを舐めて掛かっているものも多く、山麓や山腹、山頂でも制止を聞かずに立ち入り禁止区域に入り込み、生命を失うものもいる。


 山林を荒らされ迷惑を被るのは人間だけではなかった。人が入り込む事で生態系が乱され、安定した食料を得られなくなった動物達は山を降り人里へ出始めたのだ。


 鹿や猪はまだマシだった。猿や熊となると凶暴さが格段とあがり、死人まで出始めた。駆除に関しても中々捗らない。


 ふわモコ好きや団体が総力をあげて安全な場所からヘイトじみた声をあげて抗議するためだ。そうこうしている内に被害は拡大していく。


 そうした数ある被害の話の中に紛れて、奇妙な噂が囁かれる。


 街中で、腐敗臭と共に呻く人が現れると。治験に失敗した患者が逃げ出したとか、亡くなった観光客の慣れの果てとか声が上がる。


 動きは遅い。しかし、力が強い。惨殺された熊が発見された。近隣の農家の住人は獣の咆える声と、不気味な呻き声の争いに生きた心地がしなかったと告げた。


 熊の遺骸を調べた結果が出た。噛みついた歯と、引っ掻いた爪の先に、腐肉が削がれて付着していたという。肉は、人の肉が腐ったもので間違いなかった。


 強力な爪と噛みつきにも耐え、熊の上顎と下顎を掴んで引き裂いたらしき腐肉の化け物(モンスター)


 とある人権団体の代表は、それでも化け物が人の姿を取っているというのならば、保護すべきだと主張した。これには現場に近い住民だけではなく、多くの国民から非難の声があがった。


 腐肉の化け物(モンスター)の動きが止まらない。化け物は人の多い街中を、何か探すように突き進む。その行く先を塞ぐ建物は扉ごと破壊された。侵入された老夫婦の夫は腰を抜かしてしまい動けなくなった。


「に、にグはドこだぁ‥‥あガいにグぅ」


 腐肉の化け物(モンスター)が叫ぶ。しかし老人には理解出来ない。化け物が怒り、老人を持ち上げようとして頭を握り潰してしまった。


 事態を重く見た自治体は、腐肉の化け物(モンスター)の駆除に乗り出す。猟友会は要請を拒否した。成長した熊すら素手で引き裂くような化け物が、猟銃で倒せるわけがないからだ。


 お金で揉めた……そう噂されたが、もっと理由は簡単だった。熊殺しの化け物に出会ってしまったハンターの一人が、返り討ちに合って亡くなったばかりだったのだ。


 経験豊富な白髪のハンターはゾンビ映画を参考に、頭部の破壊を試みたという。正確に頭部を撃ち抜いたはずだったが‥‥腐肉の化け物(モンスター)は倒れなかった。


 致命傷を与えたはずなのに動きを止めない化け物は、白髪のハンターを捕らえて呻く。


「────あガいにグぅ、どゴダ。よごゼぇ゙」


 死なない化け物への恐怖に、白髪のハンターは膝の力を失い崩れ、犠牲者に名を連ねた。


 県知事を通して、自衛隊の派遣が検討される一方で、腐肉の化け物(モンスター)の対策チームは、襲われたもの人々の共通点をあぶり出していた。


 腐肉の化け物(モンスター)は日暮れと共に動き出し、白髪頭の老人ばかり狙って、何か問うように呻くのがわかっていた。


 化け物は老人を襲った後、どこかへ姿を消す。襲われずに済んだ人々の証言から、腐肉の化け物(モンスター)が「にく」を求めて彷徨うのはわかった。肉を喰らったことで、化け物が満足するのかどうかは調査中である。


 また化け物の異名は【白髪喰らい】に決まった。白髪の老人ばかり襲うため、異論は出なかった。


「菊池隊長。政府の対策本部から連絡が入りました。自衛隊の出動は、作戦を試したあとになるそうです」

 

 政府が見せかけだけで、現場任せなのは想定はしていた。被害が出ている以上、愚痴を言っている場合ではないのもわかっている。対策チームを任された自衛官OBの菊池隊長は、化け物退治の為に対抗手段を三つ用意した。


 最初に取られた退治策は【白髪喰い】を落とし穴の罠に嵌める事だ。穴の中には発火剤と、ガソリンなどの発火材料を投じておく。


 動きが鈍いとはいえ【白髪喰い】は化け物だ。誘導地点まで囮役を頼む白髪の男性は、その腐臭と虚無の赤い瞳を見て足が竦んで動けなくなった。


「菊池隊長、二名フォローに入ります」


「頼む。囮役の彼を優先して動いてほしい」


 菊池隊長の心配を他所に【白髪喰い】の目は、白髪頭の男性しか見ていない様子だった。補佐の者達が両側から肩を貸して移動しても、目に映っているのか怪しかった。


 作戦は成功した。街中から郊外へ誘い出し、落とし穴のある空き地まで【白髪喰い】はついて来た。そして難なく罠に嵌り、業火の中で身を焼き尽くされた────はずだった。


 落とし穴の中には腐肉を焼かれ、黒炭となったものだけが残っていた。火葬場のような火力は望めないが、動かなくなるまで燃やし続けた結果だ。


「菊池隊長、駄目です。また【白髪喰い】の目撃情報があります」


 【白髪喰い】が、あの炭化した状態から再生したものではないと、これではっきりとわかった。それに【白髪喰い】が神出鬼没な理由も。


「自衛隊に要請をかけたが……これは物理的になんとかなる類の化け物ではないな」


 ゾンビ退治の手段として頭部を失っていれば復活しないはずだった。しかし【白髪喰い】は再び現れた。炭化した灰は厳重に保管されているのに関わらず。


 もうひとつの手段は自衛隊の協力を得て、重火力で腐肉の化け物(モンスター)を木っ端微塵にする方法だった。


 派遣された九名の自衛隊員により、【白髪喰い】は粉々になって、その夜は姿を消す。しかし菊池隊長の予想通り、また別の日に化け物の姿を見たと情報が寄せられた。


「これでわかった。【白髪喰い】は姿を見せている時だけ実体化する幽鬼(グール)の類だな」


 半霊半妖。一度実体化した身体を失うと復活するまで時間がかかる。だが──不死に近い。欲望を満たせば消える可能性はあるにしても、まだ手がかりがつかめていなかった。


 菊池隊長は作戦の失敗を予期し、三つ目の最後の策に望みにかける事にした。


 オカルト関連の専門家、真守 葉摘。大企業真守グループの会長を務める彼女とは、本来簡単に話す事は立場上難しい。ただし彼女の趣味、オカルト絡みになると話は別だ。


 大学のサークル活動のような同好会を、真守 葉摘自身が開いているらしい。そこで、こうした案件を取り扱う窓口があるという噂は、以前からあった。


 依頼したからといっても、必ず受けるとは限らない。数百人しか見ていない配信を見ても、引き受ける傾向はわからない。


「菊池隊長。真守氏のオカルト研究会からメッセージが届きました」


 上層部が責任問題を菊池隊長に押し付けようと考え始めた頃、部下からの報告が入った。 

 

 「怪異になった経緯に興味はあるが、怪異そのものには興味はないのだよ」

 

 期待と共に送られて来た返信の動画は、代理の男子学生が依頼のお断りを告げた文を読み上げるだけのものだった。


 菊池隊長は悄然と肩を落とす。首になるのは構わないが、殺す事の出来ない猛威が野放しのままになるのが、悔やまれるからだ。


「この返信から三日待つように。三日後、画面に表記された辺りに【白髪喰い】が出現するだろう。そこに彼の欲する赤い肉を用意し、こう告げたまえ」


 ────健全なる魂よ、清まりたまえ────


 送られて来た映像の最後に、お祓いのような言葉と、見たことのある飲食店のCMが流された。


 ────レッドホットはじまる!


 バカバカしい、菊池隊長や一緒に映像を眺めていた部下が思わずぼやいた。オカルト研究会など結局は配信系のお金稼ぎ。おそらく企業絡みのスポンサーとして飲食店とコラボでもしているのだろう。


 ただ助力を求めた手前、打つ手も絶えた事もあって準備はさせた。役に立たなければ、無駄になった赤い肉(レッドホット)を自分達が腹の中に処理すればいい。


 半信半疑のまま、最後の作戦が実行された。日暮れ前にバレル単位で赤い肉を購入し、指定された空き地のテーブルへ置いた。


「菊池隊長、映像の用意も出来ました」


 人命が掛かっているのに、ふざけた返信をされて菊池隊長は少し大人気ない対応を考えた。実行の証を記録し、彼らに突きつけて公表してやる気だった。


 【白髪喰い】を刺激しないよう、光量は控えめにしている。


「──隊長、来ました!」


 日が暮れた暗がりの中、急に呻き声と、腐敗臭が漂い始めた。少なくとも、指定した地点は本物だった。彼らがこの悪夢のような化け物とグルでない限り、出現前に情報を送る言は不可能に思えた。


 よごぜぇぇ、あガいにグぅ゙ゥゥーー!!


 興奮した【白髪喰い】が、専用バレルの赤い肉(レッドホット)を見つけてノソノソと這い寄り、貪り食う。


 バリッバリッ‥‥骨ごと砕く音。


「隊長」


「わかってる」


────健全なる魂よ、清まりたまえ────


 部下達と共に、教えられたお祓いのような言葉を唱える。すると【白髪喰い】の身体に異変が起き始めた。


 肉を貪り食うたび腐肉が蒸発するように黒い霧のように霧散していく。また何処かに逃げられてしまうのではないか、菊池隊長や部下達は不安そうにその光景を見つめるしかなかった。


 【白髪喰い】の噂はそれからピタリと止んだ。何体いたのか分からないが、赤い肉(レッドホット)の販売期間中は、簡単に撃退する事が出来るだろう。


「菊池隊長、真守葉摘様からメッセージが届きました」


 依頼を断った理由がわかった今、彼女と顔を合わせるのは恥ずかしいと菊池隊長は思った。かなり特殊な思考をする人物なので、その反応を欲したのかもしれない。


「大した助言をしていないのに、大げさな御礼の言葉を部下君からいただいたよ」


 部下の感謝の熱量が度を越えていたようだ。対策チームは解散となる。


「いや、解散は見送りになるよ。君達の手柄を政府に横取りさせないように手を打ったからね」


 政府、警察、自衛隊から選抜された特殊チームの存在を彼女は高く買っているらしい。


「【白髪喰い】の件については、君達が高名な祓い師に頼んで退治した事にしたまえ」


 難事件を解決する能力がチームにあれば、手駒に置いておきたい権力者は現れるそうだ。若い隊員の指導員の仕事と兼務になるが、菊池隊長は引き受ける事にした。


「あれが白髪の老人を狙っていたのは本当にあんなくだらない‥‥失礼、食に対する渇望だったのですかね」 


 いまだに信じ難い。恨み辛みや憎悪が因縁でない化け物。


「怒りや憎しみも結局は日常の一幕だろう。彼にとって、赤い肉(レッドホット)への想いが、それくらい強かっただけさ」


 出来ればそうなる前の経緯を知りたかった、それが真守葉摘の初めの言葉に繋がるようだ。


「唐辛子は魔除けにもなると言いますね。渇望が満たされて破邪の祓いの言葉と合わせて、成仏に至ったわけですな」


 バカバカしいようで理にかなっているものだと、菊池隊長は感心した。


 「破邪の呪文? あれは【白髪喰い】の渇望に強く訴えるための文言に過ぎないよ。彼の耳には祝福(ケンタッキー)と、聞こえたに違いないだろうけどね」


 真守 葉摘はそう言って、映像越しに微笑んでみせた。

 

  

 お読みいただきありがとうございます。公式企画夏のホラー2024うわさの参加作品となります。


 ワンポイントで拙作のシリーズの真守葉摘が登場しますが、企画終了後は「新説 怪奇佰談」へ収録予定です。


 また菊池隊長が登場しますが、主人公としては微妙なため、菊池祭りへの参加は見送りました。

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