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8.ダイエットもしています

 今日のお茶菓子はシナモンロールだ。


 うう~~~。シャーリーはこのたっぷり砂糖がけされたシナモンロールが好きだったみたいで、お茶の時間によく出てくる。げんこつより大きいサイズのシナモンロールが3つ!3つも!多いのよ!

 いつものようにアンナに2つ、渡そうと思ってふと思いついた。


「ねえ、アンナ。今日はこれ全部持って帰っていいわよ」

「え?お嬢様どうかなさいましたか?体調がよくないのでは?」

「体調はいいわ。たまにはアンナもお子さんと一緒に食べるといいと思ってね。きっと美味しいわよ。だから今日は3つ持っていくのよ」

「お嬢様……!」

 ありがとうございます、と言ってアンナはほろりと涙を浮かべた。

 

 うん、いいことした!たまにはアンナだってうちのお菓子を食べたいんじゃないかと思ったのよね。


 そして私にとっても。

 なんかね、お昼ごはんにもデニッシュが出たの。うちの料理長のデニッシュは絶品なのよね。ついつい食べすぎちゃったのよね。だから今も全然お腹いっぱいなのよね。

 そしてお昼にわたしがたくさんデニッシュを食べたのを見て、料理長が張り切っちゃったのよ、きっと。だから今日のおやつはペストリーにしてくれたのよね。うちの料理長は本当に優しい!


 でもごめん、今日はもう無理なの!アンナよろしくね。なんか騙してるみたいだけど違うのよ、別に悪いことじゃないの、みんなが嬉しいことなのだからね、これがウィンウィンってやつよね!

 と心の中で言い訳をしつつ、わたしはにっこり笑ってアンナの淹れてくれたお茶を飲んだ。


「……お嬢様、モニカさんお辞めになったんですね」

「そうね。……アンナ、あの時はありがとう。とても助かったわ」

「いえ」

「アンナが困ったことになってないかしら。何かあったら言ってちょうだいね」

「いえ、わたしはお嬢様から渡された封筒を運んだだけですから」

「そうね。何も関係ないわよね」

 

 アンナには少し前に頼みごとをしていた。白い封筒をモニカの使っている机の引き出しに入れてきてもらったのだ。


 念のためと思って用意しておいたあの奥の手はアンナの協力なしでは成り立たなかった。

 そう、あの金の栞。あの栞だけは冤罪だ。わたしがモニカに罪を着せたのだ。

 でもまさか、モニカが本当にわたしの物を盗んでいたとはね!しかもあんなにたくさん!驚いたわ!


 本当はライモンド様からの手紙かなにか、二人のつながりになるものを見つけ出そうと思って仕掛けた罠だった。盗難疑惑で部屋を調べることができればいいなって思っていたの。なんだか予想よりも大変なことになったけど、結果オーライよね!


 モニカがいなくなってわたしの生活は一変し、静かで快適な生活を満喫している。アンナのおかげだ。

 

「本当に感謝しているわ。アンナ、ありがとう」

「いいえ。モニカさんは使用人の間でももめ事ばかり起こしていて……」

 やっぱりそうなのね。うまくやってるわけないと思っていたわ!

「お嬢様への態度もひどすぎました。ですからお気になさらないでください」


 アンナ!なんていい人なの!

 アンナはまじめで控えめな性格で、仕事も細やかで察しが良くあれこれと気づいて動いてくれる。全ての使用人はアンナを見習ってほしいわ。子供のいる女性はいろいろな経験をしているから人間ができているのよね。本当にアンナに来てもらえてよかった。


 わたしは金貨を一枚取り出し、そっとアンナの手に握らせた。

「!!!お嬢様、いけません!これは何ですか?!」

「これはお礼と、それからもうひとつ、頼みたいことがあるの」

 



 わたしはがんばって毎朝のウォーキングを続けていた。

 はじめは普通に30分歩くだけでぐったりしていたのだけど、最近は慣れて筋肉もついてきたのかトレーニングっぽくなってきた。背筋を伸ばし、広めの歩幅で足の裏全体を使って歩く。これが効果的だと前世の記憶にあったのよ。その他に寝る前に腹筋30回。これも最初は3回しかできなかったのだけど、毎日やっていたらだんだん回数をふやすことができるようになって、今は30回!偉いでしょ!わたしのお腹ってぼよんぼよんだったんだけど、腹筋でだんだんウエストができてくるのが目に見えてすっごくやる気がでるのよ!若いっていいわね、すぐに変化があらわれる。40過ぎたらこんなに簡単には痩せないのよね……。


 今日も庭師に朝の挨拶をして(癒し…!)、それから私は決意する。

 よし、今日から食事を減らしてもらおう!


 もともと食事の量が多すぎたのだ。

 うちの料理長っておじいちゃんなんだけどすごく優しくていい人なの。こんな太って陰気なわたしを可愛がってくれていて、元気がない時は甘いものをたっぷり食べさせてくれるの。だから食事の量を減らしてほしいとなかなか言い出せなかった。

 だってそんなことを言って料理長をがっかりさせたりしたら、そしたらわたしのこともう可愛がってくれなくなっちゃうかもしれないじゃない!嫌われちゃうかもしれないじゃない!料理長のごはんは美味しい美味しいと言って食べたいの!喜んでもらいたいの!


「でもやっぱり多いから、ちょっとだけ減らしてもらおう。お残しはしたくないもん!」

 強くなったわたしなら、ちゃんと言えると思う。料理長に誤解されないように、悲しませないように、言えると思う。


 そう決意して調理場へ行くと、料理長の隣に新しい料理人がいた。

「お嬢様、新人のカルロです」

「カルロです。よろしくお願いします!……お嬢様、ちょっと健康的な体型とは言えませんね?少し食事の内容を見直してはいかがですか?」

 新人のカルロはわたしを見るなりそう言った。


 は????

 ……わたし、それを言いに来たのよ?!分かってるわ!

 

 それ、わたしが先に言うつもりだったんだからね!!!!!


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