3.乙女ゲーム?
「フラワー・オブ・ライフ~聖なるわたしとあなたの物語~」
前世で娘が夢中になっていたゲームだ。
リビングで毎日やっていたから、わたしもそのスチルを何度も見ていた。
生命の樹神聖幾何学がどうとかいっていたが、ようは聖女がヒロインで王子様やその周りの男性と仲良くしたりライバルの悪役令嬢やそのとりまきからいじめられたりその後断罪されたりというよくあるストーリーだった。よく分からないけれど。出てくるキャラの髪の色が青やら緑やらピンクやらでそれ以外であまり見分けがつかなかったんだけど、娘に好きなキャラを聞かれて答えたのはこの庭師だったわ。
「お嬢様?どうかされましたか?」
茶色に近い金髪でヘーゼルの瞳の庭師、この人よね!
たしか名前は――。
「レオナルド。ねえ、あなたレオナルドよね!」
「え!……お、お嬢様、息子の名前をご存じで?もしかして息子が何か粗相をしましたか?申し訳ありません!今日は軽作業が多いため手伝いに息子も連れてきていて……」
庭師はギョッとした顔をして慌てて後ろを振り向き、可愛い男の子を抱き上げて私の前に連れてきた。
その可愛い男の子は父親にそっくりの茶色に近い金髪にヘーゼルの瞳で、突然のことにおびえたのか涙を浮かべこちらを見ている。
ええ?
この子供がレオナルド?
庭師じゃなくて?
「あ……。いいえ、何もしてないわ。大丈夫。ごめんなさい急に。驚いたわよね」
困った顔をしてわたしを見つめる父子に慌てて謝ると、わたしは混乱した頭でその場を立ち去った。
「あーびっくりした」
なんかこの世界よく分かんないわ。乙女ゲームだと思ったのに……そうじゃないの?
いや待って、ここがゲームの世界の中であるならまずわたしは誰なの?
名もなきモブ?それともここは前世で知っているゲームと似ているだけの世界なの?
分からないまま何か言うのは危ないわね、きっと。
「言動には気をつけなきゃね……」
それからわたしは自分の部屋に戻って、机に向かいノートを広げた。
「整理をしましょう」
わたしはシャーリー。ヴィスコンティ子爵家の一人娘。17歳。
でも今のわたしは別人のような性格で、謎の記憶がある。転生したのかもしれない。
さっき会った庭師は前世で見たことのあるゲームのキャラクターみたいだったけど、名前は違った。
「違った、というか、あの名前は息子さんのものなのよね?」
えーちょっと待って、ちょっとまって!
それってつまりどういうこと?
わたしは先程頭に浮かんできたゲームの内容を思い出す。
「王都にある別邸の庭園で行われたお茶会で……ピンクヘアのヒロインとプラチナブロンドの悪役令嬢がいたわね。
そこの庭師の茶色に近い金髪の男が、レオナルドという名前よ。
悪役令嬢には三人のとりまきがいて……」
とりまきのうちの一人、イザベラはデブで黒髪でいつもおどおどしていて、悪役令嬢の言いなりになんでもする女だった。
その庭園はイザベラの別邸で、そこの庭師のレオナルドのことは初恋で気に入っていた。でもレオナルドがいじめられたヒロインに優しくするのを見て嫉妬でどろどろしちゃって、ますますいじめに加担するようになっちゃうのよね。
そう。
「わたしみたいな……」
黒髪でデブでくすんだ茶色い目をしたこの顔みたいな。
優しいレオナルドが初恋なのに陰でずっと見つめるしかできない、陰鬱な性格の。
あれ?
わたし。
「わたしってもしかして、イザベラ?
……いえ、違うわ。わたしはシャーリーよね」
そしてあの庭師がレオナルドのお父さんなら。
「わたしはイザベラのお母さんになるってこと?」
じゃあわたしは今17歳だけど、そのうち結婚して子供を産むんだ。
それがあのイザベラになるの?
「……いやなんだけど」
ゲームのエンディングは知らないけれど、イザベラはきっと幸せにはならない。
っていうかあのキャラクターであることがもうすでに罰ゲームみたいなものよね。
きっと母親のわたしも不幸な人生なんじゃないのかしら。
そうよ、あんなメイドが側にいるんだもん!毎日あんなことされてたら病んじゃうのも当たり前よ!あの女まじ許すまじだよね!!
だいたい不幸で痩せてるならまだいいわ、なんだか可哀そうに見えるし周りの人も心配してくれるわよね。でも太ってると不摂生でだらしがないという印象が強くなるのでは?イザベラはストレスで過食に走るタイプなの?……イザベラかわいそうすぎる!そしてわたしも!!痩せるのってすごく大変なのよ!!!
「なんとかしなきゃ…全部嫌だわ!むり!」
どうしてわたしがこんな目に合わなきゃいけないのか全然わかんないけど!
絶対に回避しなきゃ!