12.いざ決戦!
「ライモンド様はそれでいいのですか?」
「え?」
「ライモンド様がモニカと親密な仲であったと、モニカから聞いています。昔馴染みだと」
「いや、それは」
「モニカはわたしに言っていましたよ。お腹に赤ちゃんがいるかもしれないって」
ガチャンと紅茶のカップがソーサーに落ちる音がした。伯爵夫人がギョッとした顔でライモンド様を見る。
ライモンド様は慌てたように言った。
「はあ?!そんなはずはない!きちんと対策していたはずだ!」
やっぱりバカね。語るに落ちてるわ。
これでモニカと深い関係であったと自白したようなものだ。
ヴォイス伯爵は苦々しい顔をし、夫人はそっとこめかみを抑えた。
ライモンド様だけは自分がとんでもない失言をしたと気づかないまま、わたしを睨みつけている。
よし、これはいけそうだわ。
わたしは悲しそうに見えるよう目線をさげ、さらに言葉を重ねた。
「モニカは、この館でライモンド様と赤ちゃんを育てたいってわたしに言っていましたわ」
「な…な…」
はい、お家乗っ取り疑惑、出ました!入り婿に入っておいて、他所の女と作った子供を跡継ぎにしようとするのは大罪よ。これを匂わせるようなことを公言してたとしたらヤバいわ。嘘だけどね。
でもモニカがここにいない以上真偽は問えないもの。悪いけど、使える札は全部使わせてもらうわね。それにもしかしたらモニカは本当にそんなこと考えてたかもしれないよね。
「ライモンド様もモニカと一緒になりたいんですってね。分かりますわ。愛していらっしゃるのね」
「違う!」
「いいんです。わたし……ライモンド様に疎まれていたのですよね」
「あ……いや……」
これは本当。皆も信じてくれるだろう。ライモンド様がわたしのことを愛してるなんて誰も思っていないでしょ。
現にライモンド様もこれは否定しない。
「ライモンド様、わたしとの婚約の解消をしてください。そしてモニカとお幸せになってください」
ヒュっとライモンド様が喉を鳴らす音がした。
これでリーチよ。
「そこまでだ」
ヴォイス伯爵の厳しい声が差し込まれた。
「あのメイドの戯言をシャーリー嬢は信じているようだ。だが、若いお嬢さんが不安に思うのも仕方がないかもしれないな。ライモンドとのことはこちらで改めて調べるとしよう。そしてライモンドの教育も今一度、やり直しを含めて厳しく行うことにしよう」
それで手を打ってくれ。
ってことよね。
嫌です。
調べるって言うけどどうせうやむやにするんでしょう?
それにこれはわたしの捏造だから、調べられて何も出てこないと困るのよね。
ライモンド様は教育と聞いてうえええという顔をしている。
おいおい、こいつ今の自分の立ち位置ちっとも分かってないんじゃねえの?
怒り爆発するわ!!!
でもあちらはどうあってもこの婚約を続けたいみたいね。
婚約の解消を願い出ても、簡単にあしらわれてしまったわ。さすが伯爵様、のらりくらりと躱していく。
あ~~~~~鬱陶しい!本当に貴族ってイヤ!
わたしは少し考えてみた。
このまま押し切られて嫌々ライモンド様と結婚することになったら。
そうなった場合、わたしが知恵と気力を使いまくってなんとか幸せになる道はあるのかしら。
プランAはもちろん婚約解消。だけどこういう時は念のためプランBも作っておかないといけないわよね。
…………………………
うああああやっぱりヤダ!!!
想像してみたけど絶対にイヤ!
ライモンド様と結婚して?わたしが超絶がんばって?
それで幸せになる道筋?
それがあったとして。
なんでわたしがそんなことしなきゃいけないの?!?!???
こいつにそんな価値ある?
わたしがこいつにそこまでする意味ある?
ないわ!!!!
絶対ぜったい婚約解消よ!




