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11.孤軍奮闘

「ライモンド、答えろ。お前はこの一年半何をしていたんだ」

「そ、それは……」

 婚約者としての義務を全く果たしていないとバラされ、ライモンド様は伯爵様に詰められている。

 さあてどうするのかしら、と思っていたらキッとこちらを見て叫びだした。


「シャーリー、君だって同じじゃないか!先の僕の誕生日に贈り物がなかった!モニカから伝えられただろう?何故送ってこなかった!だいたい君はいつもそうだ。鈍くて察しが悪くて嫌になる。こちらが何を言ってもまともに返事もできない!それじゃあ僕も会ってあげられないだろう!?」

 

 はああああ?

 逆切れ?あきれた。

 もう一度言う。ライモンドはバカ。言ってることがめちゃくちゃよ。

 あとその顔が気持ち悪い!


「……プレゼントを贈らなかったのは、前回の私の誕生日に何もいただいていないからです」

「なんだと?!生意気を言うな!」

「それからモニカに伝言したそうですが、何故わたしへの手紙ではなくモニカに手紙を送るのですか?」

「だからそれは、君宛ではまともに理解もできないからさ!なんだ、嫉妬か?みっともないな!」

「嫉妬?なぜ私があなたに嫉妬を?」

「だから君が僕に好かれたくても叶わないからだろう。そんな容姿でだいそれた望みだ!」

「は?」


 わたしは背筋をピンと伸ばして顎を引き、目を大きく開いてライモンド様を見た。

 痩せて、最先端のドレスを身にまとい艶やかな黒髪をまっすぐ肩で切りおろしているわたしは、どこに出ても恥じることはない。

「わたしの容姿のどこに問題が?」


「それは……」

 ライモンド様はわたしの気迫に気圧されたように、うっと言葉を詰まらせた。

 改めてわたしを見て、以前のシャーリーとは全く違うのだと理解しただろうか。

 おどおどして、陰気で、太っていて。何を言っても自分には逆らわないと思ってみくびっていたシャーリーの印象を改めることができただろうか。


「それから、わたしはあなたが好きではないですし、好かれたくもないです」

「なっ、嘘をつけ!モニカから聞いているぞ!君は僕のことが――」

「モニカから何を聞いているか知りませんが、それは嘘です。

 今のあなたを、わたしは好きではありません」

 

 わたしはライモンド様の話をさえぎって、しっかりはっきり言い切った。

 ライモンド様はわたしの誤魔化しようのない拒絶に絶句している。


 すると、それまでわたしたちの会話を黙って聞いていたサヴォア伯爵様が口を開いた。

「……どうも二人の間には何か行き違いがあるようだな」

 行き違い?

「若い二人に任せておいた我々の責任でもある。まだまだ親の手から離すには早すぎたようだ。今後はよくよく二人を見て、しかるべき教育を行うべきだな。若い二人の未来がよりよいものになるように」


 はあああああ?なにまとめてるの???勝手に終わらせてんじゃねえ!!!!!


 え、どうしてこの会話を聞いてどっちも悪いってことになるの?相互努力?なぜ?わたしが?

 今までの話、聞いてた?いや、この男が悪いでしょう?悪いよね?!

 この男は盗難を働いたメイドとつながってたのよ、そしてわたしをバカにしまくっていた。ねえ、この男いまはっきり認めていたでしょう?


 親ならこの男をちゃんと叱れよ!!!!!!!!!

 

 サヴォア伯爵の隣で奥様も微笑んでいる。

 ライモンドは気を取り直したようでニヤニヤしている。

 えっなにこの空気……まさかこの話、これで流されるの?これが貴族ってこと?えっ嘘でしょ。

 

 この男とやっていくなんて絶対無理。嫌。

 こういう男はね、相手が自分より弱い立場だと見下して、自分に従わせて偉くなったような気分になりたいのよ。こいつと付き合ってたらわたしはボロボロにされちゃうわ!わかるのよ!だってわたしは既婚子ありの43歳なんだからね!!!!!!


 もしもこの男が我が家に入ったら、好き勝手されるに決まっているわ。

 わたしの、そして子爵家の将来は真っ暗よ!そうよね、そうでしょ?お父様!


 隣に座るお父様の方をチラと見ると、ポーカーフェイスでスンっとしている。

 どういう感情?わたしに怒ってる?分からないわ!


 四面楚歌。孤立無援。崖の上に一人で立っている気分になる。


  

 この婚約が解消されるとあちらはまたお相手を探さなきゃいけなくて面倒くさいだろう。うちだって上位貴族ともめ事を起こすのはまずいだろう。ライモンドはわたしのような何をしても黙っていそうな女がいて日々のうっ憤が晴らせたら気分もいいだろう。わたしが受け入れれば万事うまくいくと、皆がそう思っているのだ。


 じゃあわたしは?

 わたしのことはどうでもいいの?

 

 わたしの言うこと、だれもまともに取り合わない。

 誰にも大事に扱われない。

 孤独で、悲しくて、寂しい。


 目がぼうっと熱くなってじわりと涙が出てきそうになる。


 でもね、ここで泣いたらだめなのよ。

 そしたらやっぱり女子供だって言われて、話の輪から追い出されてしまう。

 わたしは独りだけど、でも負けない。

 シャーリーをこのままでいさせない。



 あーーーだんだんムカついてきた。

 冗談じゃないわよ。

 

 皆さんの平和のために?

 どうして私が、我慢しなきゃいけないの!??

 ふざけんな!


 全力で戦ってやるわ!わたしは諦めないから!!!

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