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命日の奇跡

作者: Vivi

タイトル: 「命日の奇跡」


明日は私の親友ゆかの命日。彼女はまだ20歳の若さでこの世を去った。ゆかはボーイッシュな性格で、なかなか他人に心を開かないタイプだった。ただ、私と大学の教授メイリーンには心を許してくれていた。


私はゆかのことをずっと大切に思っている。ここ数年、彼女と過ごした数少ない思い出をいつも胸にしまっているがあれから私は時に取り残されたまま、何の変わりのない生活を送ってきた。英語のテキストを私がうっかり忘れて、ゆかが親切に机をくっつけて見せてくれたのがきっかけで友人になった。それからはあっという間に彼女は病に倒れてあの世へいってしまった。ある日、彼女が唯一の誕生日プレゼントとして私にくれた一冊の本が、今、わたしの小さな部屋の茶色い本棚の一番右端に置いてある。置いてある、というより飾ってある。宝物だから。


その本は私が今まで出会って来た本の中でも指折りの大好きな小説で、カナダの著者の翻訳バージョン。内容は、奇跡の幼なじみの2人の女の子友情が可愛いイラストと共に描かれている。ゆかは私の趣味をよく理解してくれていたな、と改めて思う。背表紙には華やかな蝶々が描かれている。


明日はゆかの命日なので、昨夜から心は重たいままだった。気持ちは、単純に落ち込んで重たいだけでなく、彼女が末期癌で苦しみ切ったあと、ようやく天国へ旅立てたことは良かったんだ、解放されたのだ、と言い聞かせた。コーヒー豆を挽き、薄明るい朝の窓を開け放しては、ぼーっと時を過ごしていた。その時。ふと、何気なく外を見ると、青と紫の羽の幻想的な蝶々が目の前を舞い過ぎた。そして部屋に入って来た。すんなり。あまりにすんなり舞い込んだので、驚いてその様子を見ていると、その蝶々が本の背表紙に止まった。


それはまるでゆかが私に何かを伝えようとしているように感じられた。私はその場に立ち尽くし、なぜだか胸の奥に熱い感情がほと走る。


その後、不思議な出来事が起きた。本の背表紙の蝶々が、実際に蝶々のように翅を広げ、こちらをじっと見つめているかのように見えたのだ。錯覚かもしれない。しかし、間違いなくイラストが動いて羽をはためかせている。


私は興奮と感動で言葉を失い、ただただその蝶々を見つめ続けた。そして、口には出さないようにしたが、心の中でゆかに対して感謝の気持ちを伝えることができた。「ありがとうね、出会ってくれて。いつか逢いにいくから、そこから見守っててね。」


その後、窓から来た蝶々は静かに舞い上がり、風に乗ってどこかへ飛び去っていった。「しんみりしてんじゃねーよ、さつき。」いつもの、あのゆかの口調。そんなゆかの声がした気がした。私はしばらくその場に立ち尽くし、気付くと涙が溢れるのを堪えきれずに、一筋の雫がコーヒーカップに落ちた。心に何年も抱えていた悲しみが少しずつ薄れていく。視線を落としている。ミルクと涙とそれから苦めのコーヒーが混ざるコーヒーカップを見つめた。


この出来事は言葉には表せない体験だった。ゆかは20歳という短い人生だった。だけど、私に、彼女の家族、彼女のボーイフレンド。私たちに残してくれた彼女との思い出と、この私への誕生日プレゼントの素敵な本に込められた彼女の思い、筆者の名作は永遠に私たちの心の中に共に生き続ける。


明日、ゆかの命日には、私は再びあの本を手に取り、彼女への思いを胸に語りかけるかな。読みながら、色々な思いが溢れ出す。きっと。彼女の存在は私の人生に大きな意味をくれた。彼女から受け継いだ勇気と希望を、かけがえないこの命への感謝を抱いて、私は彼女の思い出を大切にしていきたい。ずっと、忘れないように。ゆか、ありがとう。


窓の外はいつしか陽が昇り、今日は晴天。晴天なりー。


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― 新着の感想 ―
[一言] 本の背表紙の蝶々が実際に動いているように見えるという演出がとても素敵だと思いました。 短い間でありながらもゆかと親密な関係を築いた主人公にとって、ゆかとの別れは悲しいものであったけれど、ふた…
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