消滅系スキルの対処法
「お〜いウィリアム」
「どうなさいました? シェイラズ様」
「お茶を淹れてちょうだい」
「かしこまりました」
(私は今、魔王城の玉座に座っている。
読者諸君は不思議に思っているのではないだろうか?
前回お前は勇者に吹っ飛ばされたろうと、その秘密は私の能力にある。
『再生の力』 これで失った魔王軍を全て復活させたのだ。あの腐れ勇者も私を吹っ飛ばした後は姫とイチャイチャライフを送るべく国へ帰ったに違いない。
ん?それではお前もチートスキル持ちじゃないか?
うるさいわね、文句なら設定を怠った作者に言いなさい、おいそんな目で私を見るな)
「魔王様〜、浮かにゃい顔してちゃせっかくの美人が台無しニャ〜よ? どうせまたメタい事考えてたのニャ」
ブラウンのふさふさとした尻尾が私の顔をくすぐる。
今私がこうして落ち着けるのも、美味しいお茶を淹れてくれる執事と、獣人の可愛いメイドが居てこそなのだと改めて思う。
実際ヌコの蒼く大きな瞳と美しい曲線を描いた体系は、同性である私でもついつい見入ってしまう程だ。
メイドとしては少し心許ないが、それもまたヌコの個性である。
「ほらほらぁ、もっとスマイルになるニャ!」
「こらヌコ、くすぐったいよ〜」
ギイィィ...
突然、魔王の間の扉が開かれた。
扉を開けたのは牛頭人身のモンスター、ミノタウロスであった。
「我が王シェイラズ様、ご報告に参りました」
「モー君じゃん久しぶり!そんなに畏まらないでよ、私達の仲でしょ?」
彼の名は「モウガン」魔王軍ミノタウロス部隊の隊長であり、私の親友でもある。昔はよく二人で死の谷へ行き度胸比べをしたものだ。
「良かったぁ!シェイちゃんならそう言ってくれると思ったぜ〜」
「友達だし当たり前だよ〜」
ふと側にあるテーブルに目をやると、そこにはいつの間にかティーポットに二人分のティーカップ、そして茶菓子が置かれていた。
「流石ウィリアム、まったく気付かなかったわ。モー君お茶飲んで行く?」
モウガンを横目に見ながらカップにお茶を注ぐ。
「また今度いただくよ、それより話があるんだが」
「そういえばそうだったわね、その話って?」
そう言いながらカップを口に運ぶ。
「勇者が、再び現れた。部下によればチートスキルを持っているようだ」
ブフォォォォォ!!
予想外の知らせに含んだお茶を全て噴き出す。噴き出された飛沫は見事にモウガンに直撃した。
その後すぐにウィリアムが駆けつけ、あっという間にモウガンの濡れた体を拭き上げると再び元いた場所へと戻っていった。
ヌコは必死に笑いを堪えているようだ。真顔を崩してはいないものの、肩が小刻みに震えている。
「しかしまあ、これは最高の機会ね、さあ今こそ私が徹夜して考えたチートスキル対策を実行に移すのよ!」
「魔王様、けど肝心なチートスキルがどんな能力かまだ聞いてませんニャ」
「確かにそうね、それでそのチートスキルはどんな能力なの?」
「白い箱のような物体で相手を殴り、殴られた相手は存在が消えてしまうらしい」
白い箱、それが武器だというのか?溢れる疑問を残しながらも、私はチート対策の計画を記した手帳から最善の策を探す。
「よし、これで行こう!」
そう言って手帳の1ページをモウガン、ヌコ、ウィリアムに提示した。
「おお、これは」
「ニャるほど!」
「いいじゃねえかシェイちゃん!」
「さて、ゲームスタートよ!」
それからしばらく後のこと
午後3時、始まりの街から少し歩いた森の茂みの中で、私は勇者が通りかかるのを待っていた。
勇者が来る前に軽く作戦を説明しよう。
作戦名「数の暴力」
いくら相手を一瞬で消せる能力だとしても所詮は人間、一人で対応できる敵の数にも限界はあるだろう。
ならば数で勝負し、四方八方から攻撃して体力を削ろうという作戦である。
「流石はジェイラズ様ですね」
「魔王様は天才なのニャ、そういえばモウガンはどうしたんだニャ?」
「モウガンは私の合図でミノタウロス部隊を引き連れて攻撃を仕掛けるよう待機させてあるわ」
「それにしても勇者はいつ来るのでしょうかね」
「シッ!来たわよ」
噂をすれば勇者らしき人物がやってきた。
私はローブを纏い顔を隠して勇者の前に出る。
「旅のお方、貴方様は勇者で間違い無いでしょうか?」
別人に攻撃してしまっては困るので一応確認をするのも作戦の実行において必要なことである。
「いかにも!私は勇者フジオカ、世界を救うために旅をする者です!」
その男は誇らしげに拳で胸をぽんと叩いてみせた。
「貴方が勇者となったのは、富や名声のためですか?」
この質問は作戦とは関係ないが、私が純粋に聞いてみたかった事である。
勇者は首を横に振り、優しく微笑んで言った。
「富や名声など、私には必要ありません」
爽やかな風が私の頬を撫でる。
彼のその言葉に偽りがない事は私でもすぐに分かった。
(なんでだろう、人間は敵なのに何故か殺すのが惜しい)
自分が想像していた理想の勇者像はまさにこのような者の事を指していたのだろうか。
(この人は生かしておこう。たとえ私がこいつに殺されても、最初の勇者に比べたら数倍マシだわ)
そんな事を思っている中勇者はさっきの発言に付け足した。
(ああ富や名声はいりませんけど、可愛い女の子とラブラブライフを送りたいですね)
その一言によって、私の期待は地獄へと叩き落とされた。
今のこの感情を過去の体験で例えるなら、リレーで
「一緒に走ろうな」と言ってきたゴブリンが本番になって全力疾走で私を置いていったあの時と同じ感情である。
(この野郎ぶっ殺してやる!やっぱり勇者は汚れたやつしかいねえのかぁぁ?!)
怒りと呆れと裏切られた気持ちに溢れ、自然と指をパチンとならした。攻撃の合図である。
「総員、突撃〜!!」
崖の上や岩の裏から待機していたミノタウロス達が一斉に動き出し、勇者に襲い掛かる。
「くそっまさか罠だったとは! 出でよケシゴム!」
勇者の前に白く四角い物体が現れ、それを勇者は手に取り一頭のミノタウロスに押し付ける。
するとそのミノタウロスは瞬く間に消滅してしまった。
「話は本当だったようね、モー君」
「そのようだな、しかしこのまま数で押せば必ず勝てる!」
「それはどうかな?」
勇者はケシゴムと呼ばれる物体を鞄に入れた
「俺の能力は『文房具』を出現させる能力、しかも出現させた文房具は最強の力を持って生成される! 出でよ、鉛筆!」
次は鉛筆が出現し、勇者はそれを手に取り宙に何かを描き始めた。それは網である。
「俺の鉛筆は描いたものに実体を持たせることが出来る。さあこれを喰らえ!」
勇者によって投げられた網はミノタウロス部隊全員を包み、動きを封じてしまった。
「さらにケシゴムで編みごと消してしまうのさ!」
勇者はケシゴムで網に触れると捕らえられたミノタウロス部隊ごと消滅させてしまった。
ミノタウロス部隊全滅である。
「そんな...モー君」
作戦は完璧だったはずなのに、また失敗かと絶望してしまう。
「残るはお前だけだ、魔王! ケシゴムに消されるがいい!」
ケシゴムが私に触れようとした次の瞬間、消えたのは私ではなく...勇者であった。
「甘いわ勇者、貴方が戦っている間ケシゴムから出るカスを集めて練っていたのよ! 特製消滅魔法、ネリケシの完全勝利ね!」
高笑いをしていると勇者が消滅する前に宙へ投げたケシゴムが私の頭に当たった。
「あっ終わった...」
魔王☆消滅
つづく...