攻撃無効系スキルの対処法
およそ100年前から続いてきた人間と魔族の戦争。
人間側は今、魔族の圧倒的な戦力によって敗北に終わろうとしていた。
可愛げな容姿に相反し、凶暴かつ物理攻撃の一切を受け付けない体を持つスライム
牛頭人身という特徴的な容姿をしており、その強靭な肉体が繰り出す一撃は、たとえ大きな岩でさえも木っ端微塵にしてしまうミノタウロス
一体の戦闘力は低いものの、人間のような知能と集団戦法によって数々の人間を苦しめてきたゴブリン
魔族の中でも上位の存在であり、知恵と技術に関して右に出る者はいないウィッチ
その他何百種もの魔族らが唯一畏れ、崇拝する者。
それが私「シェイラズ・ヘルフレイムブラックシャドウダークミッドナイト以下略...」
名を全て言いあげるのには丸3日かかるので割愛させていただこう。
こう言えば分かりやすいだろうか?魔王と...
「悩ましい、非常に悩ましいッッ!」
縦に伸びた広い部屋の中、レッドカーペットの先にある玉座に座り私は叫んだ。
するとすぐに、スーツに身を包んだ長身の男が部屋へと入ってきた。
「どうなさいました?シェイラズ様、お茶のおかわりでしょうか?」
彼の名は「ウィリアム」人間のように見えるが、彼はゴーストという種族である。97年前自分を雇ってほしいと魔王城に来た彼の靴には「マイケル」と書いていたが、頑なにウィリアムと言い張るのでそういう事にしてあげた。
ゴーストの中にも種類はあり、人間が死んでゴーストになったものと、元々ゴーストとして産まれてきたものに分けられる。
彼は後者、実力は私と同等といっても過言ではないだろう。
「お茶は足りてる!私が今言っているのは、最近現れた勇者についてだよ!」
「確かに、最近は奴の行動が勢いを増しているような気がしますね。スライム達はほぼ壊滅状態との事です」
「いずれにせよ、あの男は私らにとって危険。まあ、ミノタウロスやウィッチ達がいるからまだ大丈夫だけど」
そう言って、私はティーカップに残った少し冷めたお茶を飲み干した。
ウィリアムの淹れるお茶は冷めてもおいしい。心配事をまとめて洗い流してくれるような、優しい味がするのだ。
ギィィィ...
その時部屋の扉が開き、メイド服の獣人が青ざめた顔で走ってきた。
「ミャァァァァァァァア!!大変ニャアァァァァア!!」
「おや?あれはヌコですな」
この子は「ヌコ」彼女が幼い時、霧の森で迷い一人泣いている所を巨人が見つけ、魔王城へ連れてきたのである。
「どうしたのヌコ?そんなに慌てて」
ヌコは呼吸を整えて
「魔王城に...魔王城に勇者が侵入したニャ!」
「なんですって?!警備はどうなってるの?!」
「ミノタウロスもウィッチもタイタンもみんなやられちゃったニャ!」
「そんな、人間がそこまで強いはずないでしょう?」
「それがニャ、猫ダチに聞いた話によるとその勇者は持ってるらしいのニャ」
「持ってるって...何を?」
「チートスキルだニャ」
チートスキル...話では聞いたことがある。なんでも世界のバランスを根本から覆すことができる能力を持った人間らしい。
「それで、その能力は?」
「攻撃が、通用しないのニャ」
「そんな相手に勝てる確率など、この世界に落ちる一滴の雨をキャッチする様なものですよシェイラズ様」
「安心しなさい!こんな事もあろうかと天才魔王である私には策がある!」
そう、最近の勇者の動きからチートスキル持ちである事は大体予想がついていたのだ
「まあ聞きなさいウィリアム、ヌコ、読者のあなた!」
「魔王様〜、メタ発言はおやめくださいニャ〜」
「では作戦を説明するわ!勇者はチートスキルによって攻撃は通用しない、ならば」
「ならば?」
「毒でやれば良いのよ」
「ニャるほど!いくら硬くても所詮は人間!毒には弱いということですニャ!流石は魔王様ですニャ!」
ヌコは完全に賛成しているが、ウィリアムは納得しているようではなく
「毒は効果的だと思いますが、一体どうやって毒を飲ませるおつもりで?」
「フッフッフ、まあ私に任せなさい」
30分後
ギィィ...
魔王の間の扉が勇者によって開かれた。ここまで来るのに相当な数のモンスターを相手にしたにも関わらず、体に傷一つ無く息切れもしていない。
「全く余裕だったな。このスキルがあれば、魔王も怖くないぜ」
「ようこそ勇者よ、ここまで来れたことをまずは褒めてあげるわ」
拍手をしながら階段を降りる、余裕なふりをしているが凄い怖い、本当に...怖い。
「俺は勇者タカヒロ、姫様とイチャイチャラブラブライフを送るためにお前を倒す!十分お前も可愛いけど!殺すのは惜しいけど!」
(うわー、純度0%の勇者って存在するんや、汚れまくってますやん。読者のあなた、こんな人間にはならないでね)
私が思い描いていた勇者とは程遠いものが来て、少々引いている。訂正、ドン引きである。
「流石よ、どう足掻いたって私は貴方には勝てない。
私を殺すなら最後に...お茶をご一緒なさらない?」
ポットからお茶を2つのカップに注ぎ、片方を勇者に渡す。
「乾杯、貴方の勝利よ」
「え、絶対毒入ってるよねこれ、怖すぎるんだけど」
「毒なんか入ってないわよ?」
「じゃあ先に飲んでよ」
「わ...分かったわ」
そう言って、カップのお茶を全て飲み干す。
「よし、毒は入ってないんだな」
勇者はカップのお茶をぐいっと一気に飲み切った。
(かかったわね!細工をしていたのはカップの飲み口よ!)
「ゴホッゴホッ...ッッ!!」
「どうしたのかしらぁ?お茶の一気飲みで気分が悪くなった?死んじゃいそう?」
「お前、やっぱり毒をッッ!」
「飲み口に毒をたぁっぷり塗ってあったの、気づかない方が悪いわ」
「クックック」
「何がおかしいの?ついに頭のネジが外れちゃったかしら?」
「俺のスキル、攻撃無効のもう一つのスキルはな...
毒耐性なんだよ」
「なっ?!」
想定外の事態に、私は言葉を失う。
「そして毒は俺をさらに強くする!さらばだ魔王!ポイズンラブラブパーンチ!」
あり得ないほどネーミングセンスが崩壊してる攻撃を受け、魔王は天井を突き破り吹っ飛ばされてしまった。
「ぎょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
魔王☆敗北
その頃、遥か彼方へ飛んでいく魔王を、ウィリアムとヌコはただ眺めていた。
「行っちゃったニャ」
「探しに行きましょうか」
「そうだニャ」
それからしばらく後の事、とある森で魔王は木の枝に引っかかった状態で発見された。
「悔しぃ!!いつかチートスキルなんかこの世から消し去ってやるんだから。ちょっと...読者のあなた!見てないで下ろしてよ!コラァどこに行く!戻ってこーーーーい」
つづく...