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狼男の純情  作者: 一之瀬 椛
一章
7/35

7、後先は後になってから考える


髪飾りをもらったその日、夢を見た。


まだ花が咲く前の蕾が一面に生えた花畑に()は立っていた。

その蕾は髪飾りの白い蕾と同じだと気づく。

でも、どんな花を咲かせるのだろうとは思わなかった。

()は知っていたから。

風に揺れる数多の蕾が咲くのを今か今かと待ち望むだけ。


『エマ』


胸が高鳴り、喜びに溢れる。

()()()()()()()()()に振り返り、()()()()()の名を口にした。


『────!』









【狼男の純情】








いつもの寝起きの良さはなく、ぼーっとしていた。


夢の中の()は何の疑問も持たなかったけど、夢から醒めた私には疑問しかない。

知らない光景、待ち望む花、焦がれた声の主。

何だったのだろう。

初めて見る夢は、心に深く残った。

けれど、見たのはこの一度だけでその後見ることはなかった。


忘れることはなくても、日常が回っていくと気になるものではなくなっていく。

夢は夢だから。


それ以上に気になる話を耳にしてしまったからかもしれない。

卒業祝いにとランドルフと出かけてから三日が経った頃。

酒場に切り替わり、すぐにやってきた常連客は騎士だった。ランドルフより少し歳が上、二十歳ぐらいの人たちだ。

客も疎らで聞くつもりはなくても会話が聞こえてきた。「ランドルフ」と聞こえたから、つい意識してしまったのかも。

会話の内容で普段ランドルフと親しく……ではなく、利用したい質の悪い人たちだとわかる。

良い先輩装いながら、影では仲間内で気に入れない云々。酒場時間の仕事は少ないけど、少ない時間でも酔っぱらいの愚痴なんて聞き飽きるほど聞いてきた。

ランドルフのことだから物申す気持ちはあるけど、抑えて、笑顔で接客。

私は我慢を覚えた。

酒も進み、会話も進む。

一人が「そういえば」と思い出したように言い、注目する。私もこっそり。


「アイツ、やっと意中の女と上手くいきそうだって浮かれてたぜ」


ん?意中の女?

恋人いたんじゃないの?

もしかして、噂になっていただけで、まだだった?

私もたまにランドルフと一緒にいるのを見るあの女性(ひと)だと思うけど、アピールしている最中だったのかな……。

一緒に、仲良さそうに買い物とかしていたのに。


もらった日から毎日付けている飾りに、蕾に触る。

やっと、ということはランドルフも片想いをしていたのだろう。どれだけの時間想っていたのか。

想いが伝わって、浮かれている……喜んでいる。なら、私も一緒に喜ぶべきじやないか。好きなら、好きなランドルフの幸せになるなら。

…………あぁ、私は心が狭い。

素直に喜べないし、そんなランドルフを見るのはきっと辛くなる。


呼ばれて、次の料理を取りに行く。

私の表情(かお)を見てサラサが何か言おうとしたけど、次々入ってくる客で忙しくなり気づかないフリをした。

忙しい中、私の仕事時間は終わってそのまま。

店を出たら、ランドルフと顔を合わせるかもしれない。

まだあちらも忙しいようではあるけど、早い時間に来る騎士たちが少し前より増えたから落ち着いてきたのだろう。

会えることは嬉しくても、好きな人と上手くいって喜んでいる今のランドルフはあまり見たくない。

気構えて店を出ても、会うことはなかった。

良かったのか、残念なのか。複雑な気持ち。

翌日は店に出ない日だから、会える確率は減る。やっぱり、会いたかったかも。


店での仕事がなくても、家での手伝いがある。

仕事を始める前と比べるとゆっくりはさせてもらっていて、採れた野菜を届けに行くのが主。町の中をあちこち行くから、ランドルフに会えるかも!と喜んだりもした。

それで女の人と一緒にいるのを見かけた。

二度三度と続いて、一緒にいる女の人が同じ人だと気づいたのだ。

恋人なのだろうと思った。楽しそうに話していたし、腕を組んでいるのも見たから。

まだ付き合ってもいなかったとは……。

仕事を始めてからの方がよく見るのは何故だろうと思ったけど、よく考えたらランドルフと出かけられるように休みを合わせたからだ。

私の休みの日はランドルフも休みで、出かけないなら私は家の手伝いをするし、ランドルフは……デートぐらいするだろう。


「………………」


その休みの日になった、午前中。

届け終わり、お茶でもしてから帰ろうと思って町の中心の方に回り道していた。

最近のお気に入りの店に行く道は裏道の方が近いけど、そちらを通ってしまうとランドルフに会える確率が減ってしまう。いつもの癖、みたいなものだ。

だから、浮かれた私に現実を教えてくれるのかもしれない。


ランドルフと、女の人が一緒にいるのを見た。


足を止めて、じっと見てしまう。

どれだけ見てしまっていたかはわからない。

私は来た道を戻って、裏道に入る。

遠めだったから、向こうは気づかなかっただろう。

お気に入りの店に行くことも忘れて、家に戻った。


寂しさはあっても、悔しさはない。

女の人が一緒にいるのを見るのは嫌だけど、それは当たり前のことだと思っている。


衝動的と言われても仕方がない。

でも、前から準備していたことでもある。

すでにまとめてある荷物に貯めてきた資金を入れた袋を放り込み、家を出た。

先に向かったのは友人の家。前からお願いしていた、私が町を出る時、サラサの店の手伝いをして代わりにしてほしいと。いきなり、止めます、じゃ迷惑をかけてしまう。この友人、ニーナは経験者だからしっかりやってくれるだろう。

仲の特に良い子だから呆れながらも「わかった」と頷き、「気をつけて」と送り出してくれた。

サラサの店にはもちろん、家族への伝言も任せたから安心。

人の目に触れない裏道を通って、町からも出た。


さて、何処に行こうか?






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