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狼男の純情  作者: 一之瀬 椛
一章
4/35

4、ただの自滅


それから、母が一足早く帰ってくるまで家の中で話をしていた。

まるで幼い子供に言い聞かせるように「暗くなる前に帰りなさい」とランドルフに言って帰らせたからだ。

私から見たら十分大人に見えるけど、まだ成人前ではあるから子供には違いないのかもしれない。


……じゃあ、私はもっと子供?









【狼男の純情】









名残惜しいと思った翌日も、その翌日も。しばらくの間、仕事が終わった頃だろう夕方に会いに来てくれた。

毎日会えて、舞い上がっていた。

しかも、たまにデート……私がそう思っているだけだけど、食事や買い物に誘ってくれるようになったのだ。

舞い上がるでしょ!好きな人と二人で出かけられるのだから。

オシャレな店、女の子が好きそうなところに連れて入ってもらっては手慣れた様子に他の女性たちと来たのだろうと沈んだけど。

誘われるとまた舞い上がって出かけてしまう。

オシャレは自分なりに目一杯した。

こんなの何処に着て行くのよ!と思っていた兄たちから贈られる綺麗なワンピースや可愛い髪飾りが役に立った。

ここぞとばかりにおめかしをして行ったら、キラキラした笑顔で「かわいい」と褒めてくれるから毎回頑張っている。それに横に並ぶなら、少しでも相応しく見えるようになりたかった。学舎の友人たちからオシャレの指導を受け、今まではあまり行かなかった服やアクセサリーを売る店に行っては自分に合う物を探した。

そんな努力もランドルフに気のある女性たちには鼻で笑われてしまっているけど……悔しい。

悔しいけど、かまわない。

だって、努力した分、ランドルフは「かわいい」って言ってくれる。細かな変化に気づいて褒めてくれる。

浮かれた私は更に頑張った。


さすがに家の手伝いをして得たお小遣いだけでは足りなくて、学舎を卒業する一年程前から他でお仕事を始めた。

うちの畑で採れた野菜を卸している食事処だ。

私が姉のように慕う人が看板娘をやっているから、相談してみたら「うちで働きなよ」と誘ってくれたので甘えた。

看板娘、サラサはランドルフとヘリオと同年で小さな頃に一緒に遊んでいた仲間の一人だった。その為、私のこともよく知ってくれていた。

おかげでランドルフと会う機会も増えた。

ちょうど私が店に入る頃、昼の混み合う前に昼食を摂りに来るからだ。サラサの好意でランドルフがいつも座るカウンター席の隣に座って賄いを一緒に食べている。

昼だけじゃなく、夕方からは酒場になるから騎士の仲間に誘われて来る時にも会えた。まだ成人していないから、お酒は飲んではいないらしい。確かに、昼もだけど、騎士がよく来ていた。

というより、私の目から見たら、間違いなくみんなサラサが目的だった。

気立てもよく、美人でスタイルも良い年頃の娘。恋人の影も見えないから、その座を狙う男は幾らでもいた。なんだったら、酒場に切り替わってからは、妻子持ちの酔っぱらいにも声をかけられていた。

知った私は「奥さんも子どももいるのにサイテー!」とイライラしたけど、当のサラサは「気にしない気にしない!どうせ本気じゃないんだから」とカラカラ笑うだけだった。

実際に後日妻子持ちの酔っぱらいを町で見かけた時の様子は奥さんと子どもにデレデレしてたから、サラサの言うとおりだった……と思ったけど。

お酒が入るとあんな風に軽い感じになる人が多いんだろうか?

家族はどうだったか。ヘリオは成人前だから飲んではいなかったからわからないけど、父も母も兄たちもみんな飲んでも変わらなかった気がする。五番目の兄だけは変な高笑いしていたっけ?……いや、あれはいつもだな。浮かんだ姿を掻き消す。

もうすぐ成人するランドルフがお酒で酒場の酔っぱらいたちみたいになったら嫌だなと思う。

只でさえ、外見が良くて女性に優しいから勘違いされがちなのに、酔っぱらって口説くとか……想像するだけで嫌。

男を求めて酒場に来る女性もいるっていうから、ランドルフに酒場に行ってもほしくない。酒場じゃなくても誘われているのを見る。

今はお酒飲んでいなくても成人したら飲むだろうし、もし飲んだらどうする?誘いに乗ったりする?

嫌だけど、ただの幼馴染みの妹が口出しすることじゃないよね。


時間は夕方でも日が落ちるのが遅い季節、日中の暑さから冷たいお酒を楽しむ客が多い。早くも酔っぱらいだらけになったので、帰るよう言われた。ここ最近はずっとそうだ。

酔っぱらいが多くなると普段はお子様としてしか見られない私でさえ絡まれるから、早めに帰されるのだ。酔っぱらいのせいでオシャレ代が減るのが腹立たしい。尻触ってくるならチップ弾め!……ううん、チップいらないから尻にも触らないで。


でも、貰えるお金が減るのは問題だ。オシャレ代だけじゃなくて、ランドルフとお出かけする時の食事代とかにもしているから一緒に出掛けられる回数が減ってしまうかもしれない。ランドルフは誘ったのは自分だから食事代や移動費も全部出すと言ってくれるけれど、毎回全部は気が引けるから、私の分は私が出すようにしている。だって、恋人でもないのに甘えられない。恋人でも毎回全部はどうかと思うけど。

始めは誘われるまま行って、半分でも私のお小遣いじゃ払えるようなものじゃなくて全部出してもらうことになった。外で働こうと思ったのはこれが一番大きいかもしれない。

ついでにいうと、あまりに高いところだと私が恐縮しちゃっていた、という理由で次からもっと手頃なお店に連れて行ってくれるようになった。

貴族じゃなくても、そことの繋がりのある家だから普段から格式高いっていうのかな、そういうお店を使っているのだろう。様になっていたし。

住む世界が違う……と思ってしまった。

今まで見かけたランドルフの隣に立つ女性たちもそういう気品のあって、私とぜんぜん違う。それはそうだ。たぶん、あっちは何処ぞのお嬢様。私はただの農家の娘なのだから、違っていて当然。

今回の恋人らしき人はお嬢様ではなさそうだけど、結構良さげな服を着ていたから、お金は十分ある家の娘だろう。

どちらにしても子どもの私じゃあ敵わない。

それでも、一緒にいられる内は一緒にいたい、とも思う。


酒場から出て、溜め息をつく。


「溜め息なんてついてどうした?」

「……ランディ」


すでに、いつものことになっていたのに忘れていた。

いつも同僚に誘われて来るランドルフと仕事が終わって店を出ると会う。会って、家まで送ってくれる。

今日も、だろう。

溜め息のことは「なんでもない」と返して、並んで歩き出す。

それが自然になっているのがちょっと不思議で、嬉しい。


誘われているのに悪いと断ったら、どうせお酒は飲めないから多少遅れても気にすることはないって言うのだ。それに、酔っぱらいに外で絡まれたら危ないから、って。

言われたのは、仕事を始めてからすぐだったか。

当時はまさか自分の尻を酔っぱらいに触られるとは思っていなかったけど、仕事の終わる時間が日が早く沈み始める頃でもあった。酒場から出てくる酔っぱらいだけじゃなく、すでに酔った状態で来る客もいて、ランドルフと一緒にいても絡んでくることがあって送ってくれるという言葉に甘えて良かったと思った。

薄暗い中で一人でいて、酔っぱらいに絡まれたらと考えたらゾッとした。


でも、私が店で働く日は毎日会うとさすがに……来過ぎじゃないかと思ったこともあるから聞いた。

なんでも、職場の、騎士の先輩や上司によく誘われるのだとか。別の店の時もあるらしいけど、近くだからと来てくれた時はあるみたい。

わざわざ来てくれることを詫びたら、表面的には後輩を可愛がっているように見せて町の有力者で貴族との繋がりのあるランドルフの家と繋がりを持ちたいだけの野心家たち相手だから気にしなくていいと言われた。今力を持つランドルフのお父さんや元貴族のお婆様はガードが固くて近づけないから、その身内である当たりの柔らかいランドルフに取り入って仲介してもらおうとしているらしい。食事代なんて安く思えるぐらい、繋がりが出来た時の利益が大きいから惜しまず奢ってくるのだ。

つまりは、ランドルフのことを侮っているということでもある。

当たりは柔らかいし、優しいし、簡単に手のひらで転がせそうな雰囲気はしているけど……案外強かなのに。

相手の心情も目的も全部知っていて、タダで飲み食い出来るからと誘いに乗っているぐらいだ。ヘリオの親友なだけはあるかもしれない。というより、ヘリオとの長い付き合いのせいでこうなった?だとしたら、妹として申し訳ない気持ちになる。


自分の見目の良さを自覚して大いに利用している兄の顔を思い出すと、せっかくランドルフと楽しく話しているのに苦さを感じてしまった。

……けど、私に対してそういう一面があると見せるということは信用はされているのだろう。


他にはどんな面を持っている?


そういえば、酒場になる時間帯に店の中で会ったことはないから、酔っぱらい相手にどんな話をしているのか知らない。

酔っぱらいがよくしている、ちょっと口にし難いような男女のあれやこれやの話もしてるのだろうか。

知りたいような知りたくないような。

恋人の話を直接聞いたこともないけど、町でよく一緒にいる女の人がいるから彼女がそうなのかも。恋人がいたら、なんていうか、もう…………経験、しているよね?

それどころか、豊富なんじゃないだろうか。

ううっ、ナニ想像しているんだ私は。


勝手に一人で自滅しそう。






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