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狼男の純情  作者: 一之瀬 椛
二章
33/35

8、迷える子羊と帰還する羊飼い


「まさか、あそこまで愚かになっていようとは……」


祖母様(おばあさま)は頭を抱えていた。

ヘリオのせいで話が拗れたんじゃない?

祖母様(おばあさま)が心労で倒れたらどうしてくれるの。


私たちのことも、どうなるか心配。

あの王女さま罰するって言っていなかった?

罪は重いって……。


「エマ、大丈夫だ。あいつらの好きにはさせないから」


ランドルフはそう言ってくれるけど、相手は王様と王女さまだよ?

自分に何されることより、ランドルフたちに何かされるかもしれないことの方が……嫌だ。









【狼男の純情】









一旦、別の大きな町の方にカナ王女は向かった。

コニファーには安くて狭い宿しかなくて、王女さまが泊まるには不相応ということで大きな町の貴族たちが使う立派な宿に行ったのだ。

ランドルフの家は客として王女を迎えなかったから。祖母様(おばあさま)が「客として迎えられたいなら、事前に連絡を入れるのがマナーであろう?」と言って客室を用意しなかった。

仕方なくという雰囲気で、「明日(あす)も来ます」と立派な馬車に乗って去っていった。


翌日もまた……強行手段に出てきた。


私は仕事中で、外が酷くざわついていたから、サラサと一緒に何事かと野次馬根性で様子を見に出て来たところだった。


立派な鎧を付けた沢山の騎士たちが、昨日も見た立派な馬車と一緒に現れた。

ヘリオが着ているローブと似た物を着た人たちもいて、怪しさ満点。……魔法使いだろうか。

コニファーみたいな田舎町じゃ、一生に一度も無いぐらいの出来事。


馬車からカナ王女が出てきて、声をかける。


「もう時間が無いの、捕らえなさい」


は?

王女の高い声ははっきりと聞こえてきた。

捕らえる?誰を?


「罪人共は抵抗する様なら多少痛め付けても構わないわ。但し、ダナ家だけは無傷で捕らえなさい」


ええっ!この王女何言ってんの!?

王女と、幾つかに分かれていく騎士たちに呆然としてしまうけど、それどころではない。

ダナ家、罪人……それってまさか!


「そこに罪人、エマ=グリがいる!捕らえよ!」


無茶苦茶だな!あの王女!!

逃げようとしたけど、逃げた方が良いの?

でも、罪人って言われたし、抵抗したら……。

サラサが私の手を引いて逃げようとしてくれるけど、巻き込んじゃかもしれない?


足が、止まる。

すぐさま、取り囲まれて、肩や腕を掴まれた。

痛いなぁ……加減しろって。

悪態を吐きたくなるぐらい強く掴まれたから睨み付けたら、一人の騎士に頬を叩かれた。

この程度も抵抗になるの?

最悪だな。


「国を守る為よ、従いなさい」


近くにいた王女さまが私に言う。

ちょっとヘリオの言う亡命って言葉が頭を過った。


「……国?自分たちのためでしょ」

「こっの餓鬼っ!」


()っ………

……つい、本音が出ても仕方ないよね。お互いに。

王女さまの、扇かな?それの硬いところがさっき叩かれたところにまた当たったんだけど。大丈夫か?私の顔。

本当に不細工になったら、どう責任とってもらおう。


ははっ……

意味もなく笑っちゃった。


「エマ!?」


周章てた様子で騎士たちを振り切って私のところに来てくれるランドルフ。

格好良いなぁ。


腫れちゃっているんだろうね、ランドルフに触れられた頬が熱い。

沸々って感じかな、表情(かお)に怒りが見える。

私も腹は立つけど……相手をぶん殴りたいほどじゃない。

でも、ランドルフはそんな表情(かお)だ。


「これはやり過ぎだろう」

「そんなことはないわ。剣魔の国(シュベルクロイツ)が相手なの。剣と魔の両方に長けた国。少し魔法使いがいる程度の剣しか持たない|我が国では太刀打ち出来ない。だから、必要なのよ。この婚約……婚姻は、この先も国があり続ける為に成立させ、優れた魔の力を手に入れる。それで、再び支配者の名を取り戻す」

「他国に屈しておいて、まだ最高の支配者(アラリック)を名乗るのか?」

「屈していないわ!力を手に入れる手段よ」

「この国の、最高の支配者(アラリック)の在り方じゃないだろ」


アラリックの、在り方?


「力を得たいなら勝手にしろ。だが、その為に人を傷付けるな。最高の支配者(アラリック)は傲慢な支配者じゃない」


首を傾げた私を抱き寄せたランドルフはいつものキラキラとは違って、淡く暗めの光を纏っていた。

……いつものキラキラがいいな。

胸元に擦り寄ったら、暗めの光はスーっと消えた。

キラキラは物凄~く小さいけど、ランドルフはキラキラしている方がいいよ。


「国が滅びるわよ。貴方が剣魔の国(シュベルクロイツ)の王女と婚姻しなければ、多くの国民が犠牲になる。そうやって大事にしてるその娘が真っ先に死ぬことになるわ。現在(いま)魔導大国(フィゴナ)より力があると言われているの。剣魔の国(シュベルクロイツ)にはそれだけの力があるのよ」


今度は脅し?

しかも、人がたくさん……。


「まだ魔導大国(フィゴナ)に侵攻していないのは単に距離があるから。我が国と繋がりが欲しいのは、我が国を拠点に魔導大国(フィゴナ)を落とす為よ。魔導大国(フィゴナ)が落とせたら、我が国にも膨大な利益がある。剣魔の国(シュベルクロイツ)とは強固な関係が築けて、良いこと尽くしでしょう?」

「どこがだ」


どっちを選んでもたくさん犠牲になる人がいる?

王女さまの言っているのは自分たちの幸せだけで、その場だけのものだ。

それに、魔導大国(フィゴナ)の人たちはどうでもいいの?

エオさんは?フィンさんは?ヘリオだって。

でも、剣魔の国(シュベルクロイツ)との関係が悪くなったらこの国も危ないし……。


私の頭じゃ考えても答えなんて出ない。

ランドルフも考えているみたいだけど、良い答えは出ないみたい。

どちらを選んでも犠牲があるのに……。


この状況だと我が儘になるかもしれないけど、ランドルフと離れたくない。

せっかく恋人になったのに、お別れなんて辛過ぎる。

ランドルフが好き。

好きなのに……ただ好きってだけなのに罪にされるの?




「優しい人間は、その選択で迷える」




ん?この声って。


「僕の迷える子羊は、少し見ない内に立派な淑女(レディ)になれたか?」


身を寄せ合う私とランドルフの前に立ち、私の顔を覗き込むのは……。


「兄さん!」

師匠(せんせい)!?」


え?

えっと、三番目の兄、ネヴィルだ。

今、師匠(せんせい)って言った?

ランドルフがそう呼ぶのって、例の魔力の使い方を教えてくれている人だけだよね。

え、師匠(せんせい)!?


「立派な淑女(レディ)は、僕の子羊にはまだ先だね」

「ネヴィ兄さんがなんでいるの!?」

「何?僕は実家に帰ってきたらいけないの?」


このタイミングで帰省?


「喜んでくれると思ったのに」


会えたのは嬉しいけど……。


突然現れたのかな?

周りの騎士たちがざわついている。

不審者を……危険なものを見る目だ。

剣を抜いて、向けてくる。


「遊び相手は今募集していないんだよ」


私に向けていた笑顔は消えて、つまらなそうに言う。

我が家(うち)の兄たちにはこういうところがあるんだよね。気の乗らない時にあからさまな表情(かお)をする。

けど、それは人の神経を逆撫でしてしまう。


数人の騎士が動いた。

王女さまは「待て!」と何故か周章てた声を出したけど、止まらず。

一振、ネヴィルを襲う。

つい「ヒッ」と声を上げたのは私。

だって、ネヴィルは兄たちの中でも喧嘩をした姿を見たことはなかったし、強いとも聞かなかった人だから。

私の心配を他所に軽く飛び上がったネヴィルがその一振の上に降りる。重みに耐えきれずに先が地面に刺さるが、ネヴィルは気にしない。剣の上にバランスを崩さず立ったままで、溜め息を吐いて見せた。


戦闘(これ)は僕の専門じゃないんだよ」


でも、仕方がないよね。


上着の下から、本に描かれた重火器に似た物を二つ取り戻す。片手でも持てるような小ささだ。両方の手に各々持って、構えた。


ドンッ、と重い音が響く。


ドンッドンッドンッ。


音は続き、小さくそれを受けただろう騎士の声が聞こえる。ただ、痛みを訴える声ではない。

そして、「なんだこれは」と狼狽える声。

そちらを見たら、剣が……熔けている?

ドロドロになって地面に落ちて、水溜まりのようなものを作った。


「何あれ……」

師匠(せんせい)の魔力の性質だな」


そんなことの出来る魔力?

ランドルフに教えるぐらい魔力に詳しいみたいだし、ネヴィルやヘリオ以外の我が家(うち)の兄たちも色々知っているんじゃないか?

私だけ仲間外れ。

誰も私に教えてくれないし!

私だって、絶対魔力の使い方とか魔法習うから!!


聞こえていた音が止むと、見えている範囲のほとんどの剣がドロドロで使い物にならなくなっていた。

ちなみに何かを撃ち込みながら、手にした物で殴ったり、蹴りを入れていたので、ドロドロの剣だけじゃなく騎士たちが何人も地面に倒れている。

この兄も喧嘩慣れしているんだけど……我が家(うち)のはこんなんばっかりか。

少し離れてしまったネヴィルは一息吐いて、こちらに手を振りながら戻ってくる。……余裕だ。


と思った矢先、ネヴィルの後ろ、離れた場所に黒い影。

王女さまが連れて来た中にいた魔法使い?

手に持っている杖を振るって、何か呟いた。


そしたら……




目の前で何かが破裂したように、散った。






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