6、回避するために機能を止める
色々あったけど、結果的には言った通り王族の血を引いていた訳で……。
「ランディ~!ミリィと結婚しましょ?私たち二人なら絶対に幸せになれるから!」
「悪いけど、俺の幸せはエマとの結婚にあるから」
飛びきりの笑顔で迫るミリアムと、平然と恥ずかしいことを言って躱すランドルフ。
「……めげないなぁ、あの子」
「グリは頑固だからな」
つい声に出たぼやきを拾われた。
その言い方だと自分は違うってことだよね?
私は同類って言いたいんだよね?
私、あそこまでにはなれないよ?さすがに!
今までとは違って、ミリアムは勢い良くランドルフに気持ちを伝え始めた。明確に、「結婚」という言葉を使って。
ランドルフも断る時は私の名前を出す。……でも、真っ正面から「結婚」の言葉は言われたことはない。
ああして、断る時には言っているけど、私は!直接言われたことは無い!!
なんで、始めて聞くのが他の人に断りを入れているところを眺めながらになるんだ?
兄妹揃って、目の前の光景にうんざりしていた。
【狼男の純情】
久しぶりにデート。
そう、今は恋仲だから「デート!」と胸を張って言える。
しかも、ランドルフが誕生日プレゼントにって贈ってくれたワンピースを着てのデートだよ。ランドルフの着る服と一部お揃いになっていて、かわいいの。
ミリアムにデートの邪魔をされないか心配だったけど、そこはさすがお兄ちゃん!ヘリオが引き止めてくれている隙に町を出ました。
素早く馬車で、と思っていたら、ランドルフに抱き上げられて魔力で他の町にあっという間。
ランドルフも邪魔されたくなかったみたい。
目配せ一つで、ヘリオとの息の合った連携。
お見事だけど、二人とも……能力の無駄遣いだよね?助かったからいいけど。
移動時間の短縮もありがたい。
お喋りして過ごしてはいるけど、普段からもいっぱい話しているからね。話題に困ることがある。
軽いお喋りなら歩きながらでも出来るし、他の町なら話題は新しく出てきて、もっと楽しくなる。
町から町への移動の負担をランドルフ一人に任せちゃうのは気が引けるけどね。
私も魔力の使い方を学びたい。そうしたら、少しは負担を減らせるかも?魔導大国の魔法使いの血を引いているなら、実はすごいことが出来るんじゃないかって思っている。帰ったら、ヘリオに聞いてみよう。
今日は、楽しまないと!
ランドルフとのデートなんだから。
着いた町は目的地じゃなくて、ミリアムから逃れるために来た場所。
目的の町との中間にあるコニファーに一番近い町だった。
いきなり抱き上げて連れて来ちゃったから、一旦落ち着くためにもここで止まったらしい。
いつも町から町に、だけど……町以外にも行けるよね?
「ねぇ、ランディ」
「ん?」
「これって町以外にも飛べるの?」
「あぁ、何処にでも行けると言えば行けるけど……」
「けど?」
「一応、足で移動出来る所に限られるな。海は渡れないし、崖は登れない。使い方によっては何とかなる場合もあるらしいが、俺にそこまでの技術はまだ無いから」
そっかぁ……。
まぁ、そんな無茶を言うつもりは無いけど。
「じゃあ、湖や花畑には行けるよね。……ご飯持って、天気の良い日にピクニック行かない?」
「いいな!それ」
良かった。
ランドルフも乗ってくれた。
次のデートの時に、ってことになった。
またお昼や仕事終わりに合って、ピクニックに良い場所を一緒に話し合うんだ。
暇なヘリオに料理教えてもらう!
次の楽しみが出来て、デートもより楽しくなった。
目的地の町は前とは違う、大きな町。
お祭りをやっているようだ。
今の時季はあちらこちらで花が咲いているから、各町で思い思いの花祭りをしているのだとか。
一緒に祭りを楽しもうってことだね。
手を繋いで、祭りの会場の大きな通りに入る。
町の子どもだろう、小さな子たちが通りに入るお客さんに花輪や花冠を渡している。
私たちのところにも子どもが来て、ランドルフには花輪を首にかけ、私には花冠を頭に乗せてくれた。
ここの子どもは私の黒髪に嫌な表情はせずに、色鮮やかな花がよく映えると嬉しそうだった。
私もそう言ってもらえて嬉しくなった。
笑顔をランドルフに向けたら、せっかく首にかけてもらった花輪を潰しそうな勢いで抱き締めてこようとしたから、止めた。お花が可哀想。
残念そうだったけど、私のことを「可愛い」って、「可愛くてツライ」ってぶつぶつ言っていた。
ランドルフも結構かわいいよ?残念さもあるけど。
大きな町なだけあって、出店の数も多く、催しも盛大。
花を使ったお菓子が可愛くて美味しかった!
花をモチーフにした可愛いアクセサリーや小物も売っていて、迷いに迷って、小さなイヤリングを買ってもらった。私は自分で買おうとしたんだけどね。
ランドルフも同じ花のモチーフのブローチを買ったから、その場でお互いに着けた。
ん~……ちょっと恥ずかしいけど、すごく嬉しい。
舞台では花にまつわる恋物語を劇としてやっていて、素敵だった。幸福な終わりに、ランドルフと顔を見合わせ笑う。
それから、夕方まで思い切り楽しんで町を後にした。
ずっと楽しかった。
まだまだ一緒に、楽しみたかった。
帰りも抱き上げられて、感じた体温が心地好くて幸せいっぱいになる。
コニファーに着いても、離れ難かった。
ランドルフも同じ気持ちだったのか、下ろしてはくれたけど、ぎゅって抱き締めたまま。
もう少しこのまま……。
そう思っていたのに、唐突に終わる。
「やっと帰って来たわね、ランドルフ!」
知らない声が私たちの邪魔をした。
……誰?
一緒に振り向いたら、身形の良い、綺麗なお嬢様がいた。
前にも、見たことがある気はするかな?
「……カナリ?」
カナリ、さん?
ランドルフの知り合い?
「私を待たせるなんて良い度胸だわ」
「いや、待っていたなんて知らないぞ」
私をぎゅっとしたまま離さないで、話すの止めてほしい。
話し方からして親しげだし、チラチラ私を見るカナリさんの視線が怖い。
こ、恋人は私だから堂々としていたら良いんだけどね!
「まぁ、いいわ。で、それが叔父様の言っていた貴方の婚約者にするつもりの娘?」
「それって言うな。エマだよ。俺の一番大切な女性」
一番大切……!う、嬉しい。
「ふーん、貴方って幼児趣味?」
は?
「エマは立派な女性だ」
「そうは見えないわよ?こんな小さいなんて聞いていないわ」
小さくは……ないとは言えないけど、小柄って言ってよ!後、少女は許せるけど、幼児は違う!!そこまで小さくないもん!
「小柄なだけだ」
そう!ランドルフもっと言って!!
「どうでもいいわ」
どうでもいいって何が?
「私が来たのは、貴方達の婚約は認められない、と言いに来たの」
「なっ……」
は?
なんで、この人にそんなこと言われないといけないの?
そもそも誰よ。
「ランディ、この人……」
「あぁ、悪い。彼女は、カナ=リア=アラリック。この国の王女だ」
は?はあああああああ!!?
王女って、王女だよね。
ラ、ランドルフの親戚になるのか?
呆けてしまいそうになるけど、その王女様はそれを許してはくれない。
スッと背を伸ばし、私たちをまっすぐに見る。
「我が父である国王からの命よ。ランドルフ、貴方には剣魔の国の第二王女と婚姻し、この最古の国を継ぎなさい」
私も、ランドルフも言葉を失った。
国王からの命、令?
誰と婚姻だって?
そして、誰が何を継げって??
国を、継げ?
それは、つまり、国王になれということなのか?
でも、なんで他の国の王女と結婚の話になるの?
話が大き過ぎて、頭が追い付いていかない。
頭が破裂しそうで、その前に私の頭は回避した。
「エマ!?」
気絶って形で……。




