3、好きな人でも緊急事態には関係ない
連日のようにミリアムからの差し入れがあるらしい。
ランドルフ自身は断っても、女っ気の少ない騎士団ではミリアムみたいな可愛い子は歓迎されて差し入れも喜ばれているという。
私が行った時は、みんな興味無しで見向きもしないくせにね。
いいよ、私はランドルフさえ喜んでくれたら。
ただ、ミリアムが毎日行くことで噂を信じる人が増えて、ランドルフが否定しても照れ隠しと思われてしまっている。
周りが煽ったり、冷やかしたりするから、ミリアムは浮かれて話もまともに聞きやしない。
そうなると、たまにランドルフに差し入れをしに行く私がお邪魔虫扱いだ。
私は仕事のお邪魔にならないように、控えているだけ!
【狼男の純情】
「ランドルフさん、もっとはっきり言ってやればいいのに。『迷惑だから止めろ』って!」
ニーナはミリアムとミリアムの取り巻きを嫌っていたからなぁ。私とミリアムの関係が悪くなる前はそうでもなかったけど。
言い方は別として、はっきりは言った方良いとは思う。
けどなぁ……「ミリアムはエマの大切な家族だからな」と言われたら、それでも突っぱねろとは言えない。その気持ちは嬉しいもの。
関係が悪くなっても家族だから。
「ランディは優しいから」
その一言に尽きる。
そもそもなんで今みたいになったのか。
私としてはいきなりだったけど、ミリアムは違うかもしれない。
ランドルフに対しての、あの積極性を考えたら前から好きだった?
噂を聞いて、本気になった?
私を嫌うのはランドルフが好きだから?
私がランドルフを好きだから?……誰から見てもランドルフが好きってわかっちゃうみたいだし。
急にってのが気になる。あの頃、何かあった?
私は自分のことでいっぱいいっぱいで、ミリアムがランドルフをどう思っていたか、なんて考えたこともなかった。
二人が話しているところもほとんど見たことがないし。私の知らないところでは話したりしていたのか?モヤッとする。
「俺もミリアムがランドルフにあんなだったとは思わなかった」
なんでも知ってますなヘリオが知らないこともあるんだ。珍しい。
隣でボソボソ言うな、気になるだろうが。
「前は」とか「なんでこんな」とか聞こえてくるけど、訳がわからない。聞いても答えないし。
「この後はどうするの?騎士団行く?」
「一昨日、行ったからなぁ。邪魔になりたくないし」
「ランドルフさんはむしろ喜ぶと思うよ?」
うん、まぁ……騎士団に顔見せると喜んではくれるよ。
サラサの店で会うよりキラキラしているし、私も嬉しいけど……。
キラキラした笑顔のランドルフを思い出して頬が揺るんでいたら、サラサやニーナ、ヘリオまでニヤニヤしてくる。
やめて!恥ずかしいから!
迷っていたら、ヘリオに引き摺られて騎士団に行くことになった。
今日は差し入れ用意していないよ?
手ぶらでいいんだろうか?
差し入れのことを言ったら、「今日差し入れるのは俺だから問題無ぇよ」って。
何を差し入れるの?
連れて行かれた場所は、いつも外かと思ったけど内側だ。
修練場っていうの?そこに行くのは初めて。
魔力の訓練は外でやるのが常らしいから。加減を間違えて建物を壊さないためとか……。
今日はそっちでやっているのかな?魔力の訓練じゃないんだ。
ざわざわした声が聞こえてくる。
引き摺られていたから一人で歩くと主張しても聞いてもらえず、靴が磨り減ると言ったら、脇に抱えられた。
なんで!?
体勢的にちょっと苦しい。この野郎。
ざわざわした声の中に女の子の声。
ミリアムが来ているのか?
と思ったら、ミリアムだけじゃなかった。
あれは……学舎でミリアムの取り巻きだった子だ。二人、来ているみたい。
騎士たちが囲んでいる真ん中にランドルフとミリアムたち。
見ていて思う。
「あれ、ランディ、キラキラ……ない?」
「キラキラはお前の前限定」
「どういうこと?」
「あいつのは性質もあるが、好きな奴に良く見せたいんだろ。疲れてたってキラキラしてるしな」
キラキラってそういう仕組み?
でも、昔は魔力使えなかったはずだけど。
「昔からキラキラしてたよ?」
「無意識だな」
勝手に漏れ出てた、らしい。
魔力を使おうと思って使うから、キラキラする訳ではないようだ。
そういえば、この前ヘリオが無駄に光ってるって言っていたのはこれか。私がキラキラって言っているやつ。
訓練中も……私が見ているからキラキラしていた?ずっと前から。
……私、結構、愛されてる?
周囲の騎士たちに構わず押し退けて、時々蹴り飛ばして進むヘリオ。
元同僚でしょ?もうちょっと優しく出来ない?
そんなだから、割りと早くランドルフは私たちに気付く。
困ったような表情をしていたのに「エマ!」と笑顔でキラキラし始める。
なるほど、本当に私の前だとキラキラする。
というか、笑顔が眩しいな。
え?これも魔力の効果?
眩しくて手で自分の顔を覆ったら、「そんな眩しくねぇから」って言われた。
うん、でも、眩しいよ。ランドルフ格好良い!
私たちに気付いてからはランドルフの方からも来てくれて、距離はあっという間に縮まった。
「ほら土産」とヘリオは言うけど……土産?何処に?
首を傾げる私をランドルフがヘリオの脇から抜き取って、抱き締めてくる。
こんな大勢の見ている中で!?
……恥ずかしいのに、こうされると気持ちがふわふわしちゃうからいけない。
というか、これは……私自身がランドルフへのお土産?差し入れ?だったってこと?
お昼にも会ったのにこんなにも喜んでくれると私も嬉しい。好き!
「ちょ、ちょっとランドルフさん!?」
「婚約者ほったらかして、何やってるんですか?そんな子に……」
ミリアムの取り巻き……友人の二人か。
いつの間に婚約者になっているの?まだ違うでしょうが。……いや、まだじゃなく、ランドルフとミリアムが婚約する予定も無いけど。
ランドルフと顔を見合わせる。たぶん、互いに困った表情をしている。
違うって言っているのに信じないから。
「もうここでちゅーしろよ、俺が許す」
私たちの傍に立つヘリオが私たちにだけ聞こえる声量で言う。
何言ってんだこいつ……。
知らしめてやれってことなんだろうけど、私は嫌だよ!?初めてのキスがこんな雰囲気も何も無いところでなんて!!
うん、ランドルフも嫌みたい。良かった、って思ったのに……。
「エマのかわいい表情他の奴に見せたくない」と小さく横に首を振った。
何言ってんだこいつも。
私は頭が良くはないから言い難いけど…………ランドルフって私が関わるとバカになるよね?
もっと頭を働かせて周りをどうにかして!
ミリアムたちにちゃんと返していないから、騎士たちが眉を顰めて私たちを見てざわついている。
視線が怖いから、小柄なのを良いことにランドルフの影に隠れる。
本当に視線が怖いんだよ?
ミリアムたちのは学舎時代に慣れたから気にはならないけど、騎士たちの中にはちょっと強面の人もいるから。
それにここの騎士は他の田舎町に比べたら数が多い。周辺の町の守衛も担っているから、その分も。更に、魔導大国から魔力の使い方を学べるということで遠くからも勉強?に来ている人も結構いるみたいで常時ここにはたくさんの人がいる。
そう、人が多いの!
暇か!って言いたくなる。
ミリアムがたくさん差し入れ持って来るから、それを食べた人たちだろう。来る時間が被った時にミリアムが騎士たちに囲まれて楽しそうにしていたのを見たことがあるもの。
仲も良いみたいで、その人たちがちょーっと厳しい視線を向けてきている気がする。
気付いたヘリオが「ぶっ飛ばすか」って物騒なこと言うけど、止めて!
あんたが事を起こしたら、絶対乱闘になるから!大騒ぎになるから!!
止めろって意味を込めて、ヘリオの服を掴んでおく。
ランドルフはあまり気にしていなくて、私をぎゅーっと抱き締めて離れない。「エマを補給中だから」なんだって……バカ。でも好き。
私は何を言ったら良いのかわからなくなってきたから、黙っていた。
本当にどうしよう……。
ざわつく中で、ミリアムの声がした。
「私が言ったの!エマちゃん、ランディが大好きだからああして上げたら喜ぶよって」
笑顔で言っているのが目に浮かぶ。
ランドルフの影に隠れたつもりがそのまま抱き込まれたから何も見えない。……辛うじて、ヘリオの一部が見えるぐらいかな。
婚約者話、否定しといた方が良かったよね?
なんだか、ミリアムが、私寛容なの~って雰囲気に持っていったよ?
私の婚約者を大好きな、私の大好きな叔母さんに喜んでもらいたくて……的な?
ちょっと、ランドルフ~、話聞いて何か言ってよ。
エマを補給中は後でやれ!
エマ今困っているよ?
「ランディ」って呼んでもぎゅーを強くするだけで反応しない。
あれ、苦しくなってきたよ?
前は加減してくれたじゃん?
え?うそ、本当に苦しいんだけどっ!!?
ちょっと!ランディ……?
……ぅ……もう、ほんと…………っ
ねぇ………………
いいかげんに……
「…………しろっ!!」
私は、拳を振るった。




