25、先を想いて憂いを棄てる
青いランタンの横に座って、こちらを見ているヘリオがいた。
なんで、私の夢に出てくるの?
私は望んでいない。
ランドルフと二人が良い!
ムッとした表情になっていることだろう。
私を見ていたヘリオは無表情から明らかに可哀想な子を見るような眉を下げて目に憐れみを含ませる。
何、その表情っ!?
「……おい。このバカ、今絶対夢だと思ってんぞ」
「え、そうなのか?」
ランドルフまで眉を下げて、私を見る。
……ん?今、夢だと思っているって……。
夢、でしょ?
「エマ、夢じゃない」
………………
…………………………
………………………………え?
「……う、うそ」
「嘘じゃない」
ヘリオがいたのに驚いて離れてしまった私をまたぎゅっとランドルフは抱き締める。
改めて実感する体温。
ふわふわした感覚は何処かにいってしまって、真っ白になる頭の中。
そして、沸々と湧き上がる羞恥心。
夢だと思って、私、何言った!!?
「み"ゃあ"あ"あ"ああああああっ!!!!!」
思わず叫んだ声をヘリオは「うるせぇ」と一蹴し、ランドルフは真っ赤になる私を「エマは可愛いな」ととっても良い笑顔で更に抱き締めた。
やめて!!もっと恥ずかしいから!
私は、この晩一生分の恥を晒した。
【狼男の純情】
落ち着いたのは、翌日の昼。
新しい年になった一日目の昼だ。
ぜんぜんそんな気分じゃないけどね!
とりあえず、私たちのことは置いて、昨晩の騒動の顛末から。
マリアンナの父親の商会、チェイス家は想像以上の罪を犯していた。
惚れ薬を作るために必要な、あの草。
あれはこの国で採れるものじゃなく、他の国の決まった場所でしか取れないものだった。
だから、という訳ではないみたいだけど……許可無く採取して国外に持ち出すことは禁止されていた物を勝手に採取……土地を荒らすぐらいに取り尽くして、持ち出していた。しかも、一度だけではない上に、他にも様々な物に手を出していた。
その他の国っていうのが、なんと!魔導大国!
あそこには他にはない特殊な植物や鉱物、色んな物が豊富にあって、それはどれも魔力の効果を得られるらしい。
昔から、それを狙った他国に土地を荒らされたり、侵攻を受けていたから、そういうことをする相手には厳しい。私みたいな子どもが勝手に入ったことにも厳しい目を向けられたのは、このこともあったのかもしれない。
話は、一商会だけを罰したら終わるものじゃなく国同士の大きな問題になっていた。
新年早々にそんな大事を聞かされるとは思っていなかった。
で、午前中にさっそく魔導大国から派遣された偉い人との話し合いがあったらしい。この町で!
そんな偉い人を迎えるのに下手な場所は使えないから、この町で一番立派なランドルフの家の応接室で話し合ったと聞いた。
ランドルフは場所の提供者の側だから偉い人たちを迎えたんだけど、魔導大国の偉い人と一緒にエトさんが来たんだって。エトさん、魔導大国の人だったんだ。魔獣を見慣れていたのは当たり前か。
エトさんは商会を探るためにコニファーに来たみたい。
国自体で動いていたんだぁ……。
だから、騒動が起こってからのすぐ、今朝話し合いが出来たんだね。前もって私たちの国の偉い人もこちらに向かっていたから。
マリアンナの父親も同席させられたのだけど、反省はあまりしていないらしい。
自分のおかげでコニファーやその周辺は発展し、国の貴族たちの行っていた大きな事業も成功してきた、と反対に功績が讃えられるべきだと言っていたのだと。
あれから目覚めないマリアンナのことまで持ち出して。治療をすると魔導大国に連れて行かれたこともあって、「魔導大国が何かしたからに違いない」「娘を返せ犯罪大国」「むしろ大事な娘を害されたのだから自分に賠償金が支払われるべきだ」とずっと怒鳴っていたらしい。
立ち合ってはいないランドルフにもその根拠の無い怒号は聞こえてきて、呆れたと言っていた。
たぶん、頭を抱えたのは私たちの国の偉い人だ。
マリアンナの父親の言い分は通る訳はないし、その反省の無さに賠償金が上がる可能性があったから。そうはならなかったみたいだけど。
魔導大国から求められたのは、商会が魔導大国から搾取し不当に得た利益……下手をすれば小国なら買えちゃう金額らしくて聞くの怖いけど……と、不当に得た利益で発展させた一帯の国有権の共有……この国のものであると同時に魔導大国の領地にもなる……という二つ。
私たちがこれからどうなるのか、まだわからない。
ランドルフが「きっと悪い様にはならない」と言ったから、私はそれを信じる。
国同士のことだから、口は挟めないし、わからないことが多いから今はこの話は置いて、昨晩の話をしよう。
置くと言っても、関係ない話じゃないけど。
私とランドルフが町に戻った時に、誰もいなかったこと。
私たちがいない間に、町でもちょっとした騒動があった。
出店は普段から商会を介して頼んでいた一団だったんだけど、商会の見栄だろう。人が少ないからと小さな祭にはしたくなったらしく、派手にと、使えもしない魔道具を出店の一団に渡したのだ。多少は練習しても使い慣れないものには変わりなく、上手く操作出来ずに魔道具を暴走させてしまった。
人がいなかったのは他に避難していたからだった。怪我人がいなかったと聞いて安心した。町には私たちの家族もいたからね。
操作する人がいなくなり魔道具が落ち着いた頃に私たちが来た、ということらしい。
その魔道具は高額だから、確実に魔導大国を荒らして手に入れた利益で買った物。出店のほとんどが使っていたから相当な数だ。
しかも、魔導大国は魔法の専門家の集まりでもあるからその魔道具を見てもらったら、魔法の組み込み方がめちゃくちゃな不良品だったみたい。下手したら、魔道具同士の力が合わさって町が軽く吹き飛ぶ様な大惨事になっていたかもしれないって。
マリアンナの父親は碌なことしないよね。
本当に何事もなくて良かった。
一番重要なのは、ここから!
恥は晒した分、良いことはありました。
ランドルフとね……うん、進展しましたよ。
………………こ、恋人?になりました?
「キスまでは認めよう。だが、そこまでだ。ランディ、お前はまだエマの部屋に入るのも早い。出ていけ」
「いや、お前の方が出ていけよ」
「今すぐ私のベッドから下りて出ていけえええええっ!!」
「はぁ!?誰のおかげで上手くいったと思ってんだ?敬え、お兄様を!」
「知るか!!!」
「エマ、エマ駄目だって!俺以外の男とベッドに上がらないで」
根本は変わらないから、色気も無くぎゃーぎゃー騒いでいる。ヘリオも一緒に。……私のベッドで!
一連の話はサラサの店で聞いてから、家まで送ってくれたついでにお茶でも……と誘った。
これまでと違って、帰り道で改めて気持ちを確かめ合ってお付き合いすることに!なったから、邪魔が入らないように私の部屋で……って思ったの。
先に邪魔がいたけど!
私のベッドに堂々と寝ていましたよ。
殴ってやろうか、と思っていたら、ヘリオから先ほどの会話が始まって、三人でベッドでもみくちゃになった。
あっさりヘリオが帰っているのを受け入れていたランドルフはだいぶ前からミオンがヘリオだと気付いていた。
さすが親友!
でも、私には何も言ってくれなかった。
おかげで、そこでも恥を晒していたってことだ。
私がランドルフを好きってことも、昨晩の言葉からして……気付かれていたと知って、「いつから?」と改めた時に聞いた。
「前に言っただろ?エマは考えていることが『表情に出ているからな』って。『いつも』とも言ったし」と言われて、確かに言われたことを思い出して恥ずかしさが増す。
そんなわかり易く表情に出ていた?
ランドルフもずっと好きだと言っていたのに、「なんで言ってくれなかったの?」と自分ばかりが恥ずかしい想いをしていることを恨がましく思って聞いたら、「それも言ったよ?『我慢出来なくなる』って」と終始笑顔だった。
『エマが大人になるか、……エマが言ってくれたら、俺もすぐに伝えるつもりだった』
『なんで?私ばっかり恥ずかしい想いする……』
『それはごめん。でも、三歳差って思ったより大きいんだよ。歳は近く感じるけどな。……同じ歳だったとしても、同じように成長する訳じゃないから。先走って、エマを傷付けることだけはしたくなかった。せめて、エマが同じ気持ちになるまでは……そう考えていた』
帰り道で話したことを思い出す。
私のために……。
そんな風に想われていたなら、文句は言えない。
昨晩帰ってから気付いた、ピンク色のかわいい花を咲かせていた髪飾り。
これは私のランドルフへの気持ち、らしい。
「せめて」と言った、私の気持ちがランドルフと同じになった時に咲くように。
同じ、気持ち……。
どんな気持ちか知った時の私は顔から火が出るかと思うぐらいに熱くなった。
ちょっと意地悪だ。
同じ気持ちなのに、真っ赤になった私に「まだ少し早いけどな」と意地悪を言う。
ヘリオが矢鱈釘を刺してくるのもこれが理由か。
ランドルフは笑顔だったけど、耳が、ちょっと赤かったかな……。
まだまだ、私たちには先が長い。
第一章……完




