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狼男の純情  作者: 一之瀬 椛
一章
21/35

21、愛の叫びと知らぬ君


んんっ……。

なんだろ、寒い?


身体もちょっと痛い、かも。

硬いところに寝ているから?

硬いところって何。

そんなところで寝た記憶ないけど……。


そもそも、なんで寝ていたの?




ぼんやりした視界。

やっぱり、寝ていたんだ私。

床が見えた。ここは室内?

でも、ちょっと埃っぽい。

身体にあんまり力が入らないな。なんで?

頭を持ち上げて周りを見たら、住む場所って感じじゃなく納屋っぽさがあった。


……寒いと思ったら、上着を着ていない。

少し厚手の服を着ているけど、上着がないと寒い時季だ。暖房もないし。……室内だから、まだマシってだけでほっといたら凍死じゃない?

上着は何処?脱がされた?誰に??


………………あの、騎士か?









【狼男の純情】









「あら、起きてたの?」


普通に入ってきた女は私を見下ろす。

目付きは如何にも、見下すって感じだけど。

いったい誰が!?なんて考える必要もなく、あっさり顔を出したこの女……マリアンナが黒幕か?馬鹿じゃない?


「思ったより小さいじゃないか」

「俺も見た時思いました。ホントにこれで十五か?って」


小さい言うな。本当に十五だし!


また二人入ってきた。男が二人だ。

一人は、声をかけてきた騎士だった。

もう一人はマリアンナの父親の商会長だ。

親子揃ってか。

そういえば、騎士について行って、細い道に入ったところで意識が……。

こいつらが何かした?


思うように動けなくて、睨み付けていた。

それを可笑しげに笑われて、腹が立つ。


「無駄口はいいからさっさとヤっちゃってよ」


やる?何を?

三人共にニヤニヤと嫌な笑い。

男たちの視線は値踏みするようで気持ち悪い。


「ほら、早く!」

「慌てることはないぞマリアンナ。時間も薬もたくさんあるからな」

「薬なんて無くても、こんなに小さいなら力なんて大したものじゃありませんよ」


なめんなよ!小さい言うな!

って言いたいけど、力入らないっ!!

下手に挑発しない方がいいよね、こういう時は。

えっと、えっと、転がる?

あ、転がれそうではある。


でも、その前にちょっと聞いてみる?

答えてくれるか?


「な、何するか知らないけど、なんでこんなこと……」


こ、これぐらいじゃ怒らない、よね?


「なんで?あんたが邪魔だからに決まってるじゃない」

「邪魔……って、私、あなたの邪魔なんかした覚えないよ」

「してるわよ!いっつもいっつもランドルフの近くうろちょろウザったい!!」


ええええええええっ……。

いるだけで鬱陶しいパターンかぁ。


「それに!何なのあの女っ!!貴族かなんか知らないけどランドルフの家に当然のように居座って!」

「あれは間違いなく、ランドルフと婚約させるぞ」

「ランドルフは私のなのにっ!」


商会長、余計なこと言うな。

ランドルフはマリアンナのものでもないし。

正直、私、関係……


「あんたなんて、ほっといてもどうせ女として見られないだろうけど、あの女は違う。どうにか追い出してやろうと思っていたのに、あんたたちがあの女をランドルフに近づけるから上手くいかなかったじゃない!!」

「まったく忌々しいことだ」


ない。と思ったけど、ちょっとあったああああ。

あの女ってのはエトさんのことだ。

エトさんとランドルフをくっ付けようと表向きしていた、あれが邪魔になっていたみたい。

というか、私のこと、やっぱりそう思われてた!!

女として見られないのは、私自身わかっているけれどもっ!言われたら腹が立つ!


女として見られないなら、放っておけ!

マリアンナが好き勝手言う中、男が手を伸ばしてきた。

脚を触ってくる動きは明らかに…………嘘だろ!?

女として見られないって言っているじゃない?

なんでそんな風に触るの??気持ち悪いっ!


「あの女のことはさすがにヤれないし、代わりにあんたのことめちゃくちゃにしてやろうと思った訳。それに、こいつ、あんたの兄貴に酷い目にあったらしくてね」


ただの腹いせじゃん!

後、兄貴って誰のことだ!?二番目か?三番目か?五番目か?……七番目(ヘリオ)か!?

七番目(ヘリオ)の可能性があるな、男たちと歳が近そうだし。

酷い目……まさか、例の乱闘の屍か!


っざけんなあああああ!!!!


被さってくるような体勢で、近付いた男の額に思い切り頭突きを食らわせました。

石頭上等!

私の額がじんじん痛い。

でも、ちょっと動けるようになった。

怯む男を更に蹴飛ばして、後退って距離を置く。

マリアンナも、も少し驚いた表情(かお)している。

見たか、私の実力!


……あ、やってしまったな。

と思ったのは、三人の表情(かお)に怒りのような強い感情が表れた、次の瞬間。

また少し後退ると壁に当たる。

納屋は狭かった。

でも、ここが納屋であるからこその物がある。


「そんな物でどうしようっていうの?相手は騎士よ?」


騎士だから何。

これ、誘拐?じゃないの。

本物の騎士はこんなことしない。

エトさんやランドルフみたいに強くて、優しい人のことを言うの。

やってしまったな、とは思っても後悔はしていないし、この後もするつもりはない。


手にしたのは、只の木の棒だ。

こんな私に剣を抜くなんて本当に馬鹿。

きっと脅しのつもり。

だって、私をバカにした表情(かお)をしているもの。

黙ってやられる気はない。

そうでしょ?


「さっさとヤられて泣き喚きなさいよ!」

「みすぼらしい小娘にはお似合いだな」


なんで、こんな訳のわからないことで私の貞操の危機にならないといけないの!?

馬鹿みたいに笑うマリアンナと商会長なんてどうでもいい。


木の棒を両手で握って、腕は身体の横に下ろした。

瞬発力はある。

体勢を低くして、男の懐に入り込む。

剣を振るうよりも早く、全身全霊を込めて、


「初めては好きな人(ランドルフ)がいいっ!!」


突き上げた。


叫びを上げたのは誰で、目を見開いたのは誰だったか。

私は棒を持つ手を突き出し、前を見据えた。


…………人は、()()()()ものだっただろうか?


男は飛んだ。

壁に大きな穴を開けて、弧を描くように何メートルも飛んで、落ちた。

人が壁をぶち破っても物語で描かれるみたいに人形に穴が空くことはないんだなぁ……。

マリアンナと、商会長は私を異様なものを見る目を向けて、悲鳴のような声を上げて逃げるように外に出ていく。

逃げるなら追う気はないけど、ここにいても仕方がないから、私も外に出よう。

寒いんだよ?

町の近くだったら、いいな。

空いた穴から見える景色は森っぽく見えるから、木こりの小屋だったりするのかも。

コニファーの近くにこんな小屋あった?

考え事をしながら、外に出たらざわつく声がする。


あれ?


人が、たくさんいる。

あいつらの仲間かと思って、手にした棒を構え直すとすぐ横から聞き知った声が。


「エマ様!ご無事で?」


あ、エトさんだ。

エトさんだけじゃない、隣にランドルフが?

目を見開いて、私を見ている。

ん、んんっ!?

いつからそこにいたの??

まさか、聞いていないよ、ねぇ……?


目を合わせられなくて他に目を向けたら、マリアンナ親子と男が取り押さえられている。男は白目剥いているから、押さえる必要はないけど。

本物の騎士たちか。

でも、こんなに?コニファーの騎士だけじゃないのか。

田舎でお金も無かったから立派な鎧なんて付けないこの辺りの騎士じゃない、立派な鎧を付けた騎士が何人もいた。

同じ騎士でも別物に見える。

そんな物無くてもランドルフは格好良いけど。


「話は後にしましょう、このままでは風邪を引いてしまいます」


見知らぬ騎士たちを気にした私に気付いたエトさんがまた声をかけてくれて、頷く。

一応、病み上がりだから、このままだとまた酷くなっちゃう。

「こっちです」と促される方に足を向けたら、肩に……上着?がかけられる。


「腕を通して、前も閉じて」

「……ランディ」


しっかり着せられた。

ランドルフの上着だ。脱いだばかりでちょっと温もりが残っていて……ドキドキする。

嬉しくはなるけど、ランドルフが風邪を引かない?

心配したら、「俺は鍛えているから」と肩を抱かれてエトさんの後に続く。

さっきの聞かれたかもしれないと思うと、もっとドキドキして、落ち着かない気持ちになる。

……確かめるべき?

今は無理。そんな勇気ない!

挙動不審になりそう。


「ふざけんなっ!!やっぱり、()なんて化け物じゃない!!!!!ランドルフから離れなさいよぉっ!!!穢らわしいっ!!!!!」


マリアンナ……。

お伽噺の()を信じている人だったんだ。

父親の方も訳のわからないことを言っている。


大丈夫、というように肩をぽんぽんとされる。

うん、大丈夫。

自分でも、あれ……人をあんなブッ飛ばせる力があったことに驚いた。何なのかもよくわからない。でも、お伽噺の()のような悪いものじゃないと思う。ブッ飛ばしちゃったけど。


「化け物とは言ってくれる」


淡々とした声はマリアンナの金切り声を打ち消す。

ヘリオ(ミオン)まで来ていたのか。

……後で殴ろう。


()()()()()()()()()()()()が他者を蔑むなんて実に滑稽だな」

「何を……っ!?」


ヘリオが笑った、()()()

ドスン、ドスン……と音が聞こえ始めた。

少しずつ近付き、大地も震わせる。

私は、この振動を知っていた。


「まさか」と誰かが呟く。






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