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狼男の純情  作者: 一之瀬 椛
一章
17/35

17、君が為と役者は笑う


「聞いてなかったな、エマ!」


ジトっとした目でニーナに見られて空笑い。

うん、ごめん、その通りです。


「もう一度言うから、今度はちゃんと聞いていなさいよ」

「……わかりました」

「エマがやることは簡単。年越しの時に一緒にいてくれる人を探す!わかった?」

「なんで?」

「あんたは毎年家族と過ごしてきたでしょ?ランドルフさんとこと一緒に」

「うん」

「だから、このままいくと今年も当然のように家族でってことになるんだけど、今のあんたたちに必要なのはその当然をぶち壊すこと!」


……うん?


「首傾げない。言ってるでしょ。ランドルフさんと団長さんをくっつけようとするのがあんたの役目。団長さんはダナ家と一緒に年を越すことになるだろうけど、家族と一緒じゃ雰囲気作れないじゃない。二人にするためにまずはあんたが他の人と一緒に過ごんだってことを見せて、慣例は気にしないで好きな人と二人で過ごそうという気持ちに傾けさせるの!」


なるほどぉ……。


「でも、別に私が他の人と一緒にいる必要ある?」

「この町は広さはあっても人は多くないの。嘘じゃ、すぐにバレる。一緒に過ごす人なんて誰もいないって」

「ニーナじゃダメなの?」

「私は一緒に過ごしたい人いるもの~」

「え?うそ!!そんな話聞いてない!」

「今言った」

「うぐぅ……っ」


ニーナの裏切り者おおぉっ!!









【狼男の純情】









ちなみにサラサにも一緒に過ごす人がいるようでダメだった。

どうしようか。

思い浮かぶ友人たちに声をかけてみたけど、みんなすでに誰と過ごすか決めていた。

あまり仲が良くない人……というか、ただの同級生とかには頼み難い。

ニーナたちにも協力してくれそうな人を探してもらっている。思った以上に今年はみんな予定を立てるのが早くて、なかなか見つからない。

なんでだろうって思っていたら、わかった。

ニーナたちの頭からもすっかり抜け落ちていた。

次の年は建国何百年……だったかは忘れたけど、切りが良い年で、王都や主要な町では普段とは違う特別な祭や催しが行われるから、そっちの町に遊びに行く人が多かったのだ。

コニファーからだと近場でも一週はかかる。

すでに向かっている人もいるせいで、町で見る人の数が少ない。


改めて、王都近くから帰る早さを実感する。

普通に帰っていたら、未だに何処か歩いているか、馬車で走っていただろう。

ランドルフすごい。

その分、負担をかけていたのだと思うと気持ちは萎む。

迷惑もかけた分、ランドルフにとって年越しの瞬間は一番良い時間にしたい。

……これがお節介なのかな?


ランドルフとエトさんの二人の時間を作りながら、こそこそ協力者を探し続ける日々。

ますます人が減って、私の気分は諦めモードとなっていた。

けど、年越しを一緒に過ごすだけなら何も準備する必要はないからギリギリまで粘って探しても大丈夫、だと言われた。身一つでいいからね。

一緒に過ごす人かぁ……。

ランドルフがいいんだけどなぁ……。


農具を地面に突き立て、寄りかかり、ゆらゆら。

年の終わりに近くなった夕方は少し肌寒く、もう真っ暗だ。

手伝いで任された農具の片付けをしていた。

……今はさぼっている最中だけど。

ランプを脇に置いて、ゆらゆらしながら考えていた。

町に残った中で協力してくれそうな人を。

脱線して、ランドルフのことばかりになっちゃうのは愛嬌ってことで。


「どうしようかなぁ、男がいいって言われたけど……」


友人ではなく私もお年頃だからそういう相手がいる?と知り、ランドルフにも意中の相手を更に意識させ一緒に過ごしたいと思わせるのが狙い。

話したら、顔見知り程度でも協力してくれるかな?

騎士団の人とか?


「手当たり次第、声をかけてみる?」


最近はお昼届けに行っているから顔見知りは前より増えたし、お話もするようになった人もいるから協力してくれるかも!

さっそく明日行ってみよ……


「へぇー、うちの妹はいつからそんな男漁りするようになったんだ?」

「み"ゃあ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!」


み"ゃあ"あ"あ"あ"あ"っ!!!


驚いた。

驚いて、農具でゆらゆらしていた身体が前のめりに倒れる……。


「っぶねーなぁ!」


と思ったら、お腹に手を回されて引き戻された。

背中にトンと当たる。

意外とがっちりしているんだよねぇ。

背中に当たったから、そのまま寄りかかって真上を見るように見上げた。

そこには次会ったら必ずブン殴ってやると思っていた兄の顔があった。


「何か言うことはないのかよ」

「…………背ぇ伸びた?」

「お前ねぇ…………まぁ、いいや。伸びた」


だろうね。

前は見上げるほど高くはなかったから。

暗がりじゃ変質者と間違われても可笑しくない、お伽噺の悪い魔法使いみたいな真っ黒なローブっていうのかな、それを着ている。


……殴ってやる、って思っていたんだけどなぁ。


「髪は……切ったの?」

「切れたの」


どう取ったらいいかわからない返事はやめてほしい。

長くて綺麗な髪が無造作に短くなっている。

切り揃えてもいない。

フードで隠れているから後ろとかはわからないけど……勿体無い。


「お前は一番聞きたいことを聞かないな、相変わらず」

「聞いていいか、わからないから……」

「家族なんだ、もっとづけづけ聞けよ。聞いちゃいけないことでも許される」

「…………じゃあ、どうして、そんな怪我してるの?」


あぁ……泣きそう。

綺麗な顔に傷がある。

顔の左側、額から頬に縦一線走る傷痕。

目は……どうなっているのだろう。閉じられていてわからない。

顔だけじゃない。見える首元や鎖骨には火傷のような痕や細かい傷があった。


「大切なもん守るためにちょっと頑張ってきたから」

「大切な、もの?」

「……いつか話す」


聞いても答えてくれないのは、昔からだ。

いつか、はいつになるやら……。


悠長に構えてはいられない。

私を見る、片目が色を変えた。


「まずは、ちっちゃなエマちゃんの話を聞かせろ。手当たり次第って……何?」


うわぁ~、悪い魔法使いがいる。




で、きっちり話しましたよ!

家に帰って、久しぶりに四人で食卓囲った後に。


何事もなかったようにヘリオと接する父と母は何を考えているのか知りたい。

私は結構動揺したよ?

まぁ、いいや。

他の兄たちの時もそうだったから、私一人考えていても仕方がない。


話をする場所は私の部屋。

さすがに毎日は掃除していないヘリオの部屋では落ち着けないからとこっちに来た。

我が物顔で私のベッドに横になるヘリオに「このまま寝ないよね?」と聞いたけど、流されて、本題の催促。

寝られる前に話を終わらせよう。


ヘリオがいなかった一年半以上のことを話す。

今ニーナたちとしている計画のことも。


意外と口は挟まれることなく話せた。

町を飛び出して森に入ったことにまったく嫌みを言われなかったのが不思議。

ランドルフに見つかり連れて行かれたあの家のことを話したら、いつも以上に無表情になっていた。何か知っている?知っているなら、やっぱり、あそこはランドルフの……っ!!


と考えていたところで、ヘリオの手刀が額に入る。

()ったいっ!


「はい、ここからはお兄ちゃんの話を聞きなさい」

「ふぁ~い」

「色々突っ込みどころは多いけど、お前なりに頑張っているのは伝わった。間違った頑張りも多いけど」

「………………」

「妹の頑張りに免じて、お兄ちゃんも協力しよう」


え?絶対にバカにすると思ったのに!!?

……あぅちっ!また、手刀が額に入った。


「……それで、協力って何してくれるの?」

「話の流れでなんで解んねーかなぁ。年越しに一緒に過ごす男探してただろ。俺がその男役やってやるっつってんの」

「兄さんじゃすぐにバレるでしょ」


親友なんだから、髪型がちょっと変わったぐらいで誰かわからなくなるほどの仲なはずない。


「このままの姿ならな。心配しなさんな、お兄ちゃんは有能だぜ?」

「有能だから……ってええええええええっ!??」


何?どうなっているの??

なんか知らないけど、懐から出した指輪をヘリオがはめたら姿が変わった。

しかも、また少しタイプの違った美形だな。

真っ直ぐな白金色の前下がりの髪。後ろは刈り上げて爽やかだ。目の形は元のヘリオに近いけど、色は赤……より薄めなローズ。羨ましくなる色白……は元からか。

キリッとした美形で、兄とわかっていてもドキリとはする。部屋で知らない男の人と一緒にいる気分。

……大丈夫!私はランドルフ一筋だから、惚れたりしない!これ(ヘリオ)だし!!!


「ふふん、俺にも負けない美形だろぉ?」


あ、表情がヘリオだ。

声も変わっているけど、ヘリオだ。

どんな美形でも、する表情がヘリオ以外の何者でもない。


「それ、兄さんらしい表情(かお)だからバレる」

「うむ……」


注意したら、悩ましげなヘリオらしくない表情をする。


「……私らしさは出来る限り隠すとしよう。彼に気付かれたら君の頑張りが無駄になるからね。私の時は、ミオンと呼んでくれ」

「呼び捨て?」

「親しさを見せるなら、その方が良いとは思うが?」

「ミオン」

「あぁ、良いと思う」


親しさは必要だよね。

(ヘリオ)が相手だから、呼び捨ても簡単に出来た。


「おいで、エマ」


またベッドに横になるヘリオに手を引かれて、抵抗をする間も無く一緒に転がる。

久しぶりに、エマ、と呼ばれた。


声は違うけど、ヘリオが普通に私を呼ぶ。

姿は違うけど、ヘリオの匂いがした。


ぎゅうと抱き締められて、うとうとしちゃう。

……あぁ、本当に帰ってきたんだなぁ。


「…………おかえり、ヘリオ(にいさん)









































「ただいま、エマ」


少し遠くに、よく知る声を聞いたような気がした。






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