表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼男の純情  作者: 一之瀬 椛
一章
12/35

12、輝きは幻想じゃなく現実


この家はランドルフの持ち物ではなく「知り合い」のものらしい。

それを言う時に、少し目を泳がせたのは嘘か……言えない何かがあったのだろう。


私も好んだ、あの香油。

可愛さを売りにしたガラスの瓶に入っていた。

明らかに女性用として売られているものだ。


…………


……………………


……もしかして、この家はランドルフが女性と逢い引きするための場所だったりする!?

生活感は無いのに女性の物があるんだもの。

でも、本命の女性とは最近上手くいき始めたみたいだから、他の人と?

無くはないかぁ、モテるものね……。


私を連れてきたのは緊急避難なのだろう。


ランドルフにこんな場所があるなんて知りたくなかったなぁ……。









【狼男の純情】









ランドルフが私を見つけるまでの話。


行き先の手掛かりを私の部屋で探すことから始めて、王都について調べた後を見つけたらしい。うん、調べたからね。

もちろん、王都以外も調べていた。魔導大国(フィゴナ)についてもね。でも、情報は手に入らなかったから部屋にもそこを示すものは残っていなかった訳で。

ランドルフとはあの国の話はしたことがないから、始めは私が向かったとはまったく思わずに王都の方に捜しに行った。

途中の町でも聞いて回ったりしたらしい。間近まで来てもまったく私についての情報が得られなかったから可笑しいと思って、コニファー近くまで戻って一帯の町をしらみ潰しだそうだ。

で、私も通った森に近い町で私らしき子どもが森に向かうのを見たと聞いて、三、四日ほど前にランドルフも森に。

エオさんの言い方だと、ついさっき森に入ってきたみたいだったのに……。綺麗な顔して、あの子、結構意地悪かもしれない。

知らないけど、森は魔導大国(フィゴナ)の領地になるらしい。

あそこは人には手に負えない魔獣の巣窟になっていて、一度入ると二度と出られない恐ろしい場所だとか。

帰りに私も見て実感した。

幾ら時間がかかっても迂回し森を避けるのは、そのためだった。昔は無理して馬車で森に入ったけど、誰も戻っては来なかったから、森を通ることを私たちの国は禁じた。

……知らなかった。

いや、学舎の先生が言っていたかな?

ランドルフに聞いたら、言っていたはずだ、と。授業、ちゃんと聞いていなかったのがバレた。

話を戻して。

森に入ってからの気分は絶望的だった。と言ったランドルフの表情に、ただただ「ごめん」と思った。私は大自然を満喫していたけど、ランドルフは魔獣に襲われ続ける数日だったのだから。反対の立場ならたぶん生きていない。

ランドルフが危険な森で数日無事でいられたのは、魔力を使う鍛練をしていたから。十日ほどで王都近くまでの往復に、コニファー近くの町をしらみ潰しに出来た理由はその魔力を使ったからこそ出来たことだった。

瞬間移動?空間転移?みたいなものかと聞いたら、「そんな便利なものじゃないよ」と苦笑された。もっと疲れることらしいから、今すぐ見せるのは無理だと言われた。残念。

森が危険でも私を見つけるまで出る気はなかった、と言われたから嬉しくなった。でも、無理してランドルフにもしものことがあったらと思うと怖くもなった。

転機。私を見つけることが出来たのは、巨大な木が倒れる音を聞いたからだった。

数日いても、他からそんな音は聞こえなかったから何かあるのかもしれないと思って様子を見に行ったら、ちょうど私がカバの魔獣に食われそうになっていたと言う。自分が魔獣に負われている最中にはよく聞く音だから、誰かが──私がいる可能性を感じたとも言っていた。

一瞬にして移動出来る力を使って私を連れて一気に森を抜けて今に至る、ということらしい。


ちなみに、一晩しか経っていなかった。

よくよく見たら、ランドルフもかなり疲れた顔をしている。

私と違って、森ではまったく休めなかったのだから仕方がない。

疲れた顔していても綺麗なのは……羨ましい!


…………こんなところだろうか。

お互いに疲れているから、もう少し休んでからコニファーに帰ることになる。


改めて、ここについても聞いた。

王都に近い国境の町で、国防のために発展して大きくはなったけど観光地ではないから賑わってはいないという。

大きい町の割りに静か過ぎるぐらいだったのはそのせいか。


王都が近いなら、王都に行きたいと言ったら却下された。

ランドルフが行ったら、必ず挨拶しなきゃいけない人がいるらしい。こっそりでも、もし知っている人に見つかったら報告されて後々面倒になるからと渋られた。

私一人で観光するのは?と思ったけど、「私ひと」と言ったところで「ダメ」と被せてくるぐらいに早く却下される。一人で行かせて、またいなくなられたら困るからだ。

…………信用がなくなっていた。




と、まぁ、こんな感じで……この家でもう一晩ゆっくりと休むことになった。

ランドルフは二階の隣の部屋で休むのだけど、何度も何度も勝手に出ていかないようにと念押しされて、私も何度も何度も約束して部屋に入ってもらった。

信用の回復が必要だなぁ……。

ちゃんと眠れていたらいいけど。


翌朝部屋から出てきたランドルフはしっかり休めたのか、キラキラしていた。

うん、キラキラしている。

……いや、キラキラし過ぎじゃない?


「あぁ……これは、魔力の影響みたい」

「え、何それ、羨ましい」


綺麗に見える魔力?

私もほしい。

というか、魔力ってみんなが持っているんだよね。私にも出来ない?

ランドルフにはわからないらしい。

そうだ。ランドルフに魔力の使い方を教えてくれている人がいるというから、その人ならわかるんじゃないだろうか?

今度聞いてみる、と約束してくれた。

ランドルフが「師匠(せんせい)」と呼ぶその人は定期的に手紙で課題を送ってくるだけで、長いこと会ってはいないらしい。

遠いところに住んでいる人なのか?

またちょっとランドルフのことが知れたからいいや。


朝食は外で食べようと言われて、支度だけして家を出た。

鍵をかけなくていいのか心配したら、部屋の持ち主曰く、盗られて困るような物はないから気にしなくていい、と言っていたと言う。

本当にランドルフの部屋じゃないの?


次の町まで歩いて一日以上かかると言うから町を出る前に朝食と買い出しかと思ったけど、そのまま町の入り口に。

ご飯は?

馬車に乗るの?

どうするんだろう、とランドルフの方を見ようとしたら、いきなり抱き上げられた。

え、なんで??

慌てる私とは反対にランドルフは楽しそう。


「ここからコニファーに向かうとなると何週間も掛かりそうだから時間短縮出来たらと思って」

「私が抱き上げられるのとどんな関係が?」

「魔力を使う。でも、俺のはただ立っていれば好きな場所に行ける魔法じゃないから、エマに出来るだけ負担にならないようにしたくてこうしてる」

「魔力を使うのに魔法じゃないの?」

「俺も詳しくは説明出来ないんだ。聞いた話によると、魔力は幾つかの性質に分かれていて出来ることが異なるんだって。魔法は魔力を放出しそれを形にするもので、反対に放出せず体内に留めて魔力の性質を生かす技能(スキル)という使い方もある。俺がしているのは後者だから魔力の持ち主の俺には負担は少ないけど、一緒に行動するエマには何が負担になるかわからないから」


抱き上げての移動はすでに森を出る時にやっているから大丈夫と判断したらしい。


「魔力酔いもあるって聞くから、こうして抱いていたら危なくないよ」


なんてキラキラして言われたら、「下ろして」とは言えない。

っていうか、またキラキラしている。

もっと詳しく魔力について知りたくなった。

この国は魔力に疎いから図書館に行っても詳しく書かれた本とか無さそう。

ランドルフの師匠(せんせい)に聞けないかな?身近で一番詳しそうだもの。私の知り合いじゃないけど。


魔力のことを考えていたら、あっという間にまた知らない……別の町の入り口にいた。

魔力すごい!

一瞬、すごく光った気がした。と思ったらランドルフも少し光っている。

すぐに治まったけど、これも性質なのだろうか。

「大丈夫?何ともない?」と私の顔を伺ってくる。

自分のことより、いつも私のことが先だな。

「大丈夫」と頷いて、ランドルフにも同じように返した。ちょっと疲れた程度らしい。体力を使うのかな?


着いた町は小さかったけど、活気があってお店、屋台がたくさん並んでいた。

ランドルフは知っていたから、こっちで買い出しをしようと考えていたようだ。

食べ歩きも出来る串料理や一口サイズの料理があって、少しずつ色んな物を買って朝食代わりにした。

買った物を分けて食べているとデートをしているみたいで楽しかった。デートというか、二人で旅行。どっちも違うけど。

ただ、気の良さそうなお店の人たちに呼び止められる時に兄妹扱いされたのだけは引っかかる。

よく見て!ぜんぜん似てないよ!?

…………解せない。


しっかり食べて、休んで。

もう一度別の町に、ランドルフの技能(スキル)?を使って移動して宿をとりこの日は終わった。




紳士なランドルフはちゃんと二部屋とった。

私は同じ部屋でも良かったんだけど……。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ