孤独な一ヶ月
聖ブライティア学園の学生たちは、皆優秀だ。魔法や剣技のみならず、とにかくお育ちが良いので、マナーや言葉遣い、身のこなしまでパーフェクト。
それに比べて私は、、、。ただの田舎娘。
名前付けの印章魔法「ライト」、ダッシュ様に教えてもらって無事、マスター出来たけれど、そんな魔法は皆、幼児期に覚えてしまうらしい。
私にとって魔法は、村長が極稀に見せてくれる便利な、そして縁のない特別なもの。壊れた道具の修理、怪我や病気の治癒、農地への祈り、、、
急に魔法に目覚めても、いまいちピンとこない。
ゆえに、、、授業がスタートしてから、ハードな日々を送っている。
ただでさえ出来ないのに、アナスタシア様が勝手に追加で専攻を増やしてしまったから、超多忙。
学友がカフェテリアで休んでいる時間も、講義。放課後は、皆、どなたかのお茶会に呼ばれて親睦を深め合っているのに、講義の復習で手一杯。図書館に寄ったり植物園へ行ったり、課題をこなすのも一苦労。
まあ、、、、お茶会に呼ばれたことは、一度もないのだけれど。
もともと、貴族様とは違うのだ。今年、庶民からの新入生は2人しかいないと耳にした。つまり、私と、もう一人。
女生徒だというので、どんな子かなと気にしてみたら、なんと隣の部屋だった。
部屋の入口に
『エリー·オーノ』
と書かれていた。
色白で、美しく黒い長髪。西のイースラード村から来たらしい。白いムササビを連れている。
私は貴族出身ではない上、初日にライと親しくしていた姿を見られているため、女生徒達は私を遠巻きにしている。嫌悪、、されていると言っても過言ではないと思う。
せめて、一人くらいお友達がほしい。アナスタシア様からの連絡でさえ、待ち遠しい。入学式の日以来、来ないけど。
悪役なんたらとか、信じてはいないけれど、世迷言でも話をしたくなる。
お隣のエリー嬢は、私と同じく人付き合いもなさそうで、誰かとご一緒しているのを見かけたことがない。
お近づきになりたい、なれるかも!と、何度か声をかけようとしたのだけど、上手くいかなかった。
エリー嬢を見かけて近づこうとすると、なぜかいつも、ライやダッシュ様に出会ってしまい、タイミングを逃す。
そんなこんなで、入学してからもう一ヶ月。
「アナスタシア様から、お茶会のお誘いがございました。」
授業から戻った私へ、アンナからの一言。
「お、、お茶会!?ほんと!?」
「本当でございます。あと30分ほどで始まりますので、お支度を。」
「支度?」
「はい。お支度を。通常は、何かお菓子などを手土産に致します。」
手土産かあ。
「ですが!!」
アンナの目がキラリと光った。
「今回は、手土産不要、とアナスタシア様から念押しされております。」
「なーんだ、要らないのか。」
よかった!手土産なんて何もないもの。
「はい、通常でしたら、それでも!お持ちするべきと存じますが、、、今回は何も持たずに、お願い致します。」
そこまで言うと、アンナはため息をついた。
「そして、これは私からの個人的なお願いですが、どうぞ、アナスタシア様をよろしくお願い致します。」
アンナは深々と頭を下げた。