取り乱すアンナ
「あー!!!どうにもならないぃぃぃ〜」
大量の書物を左右に積み上げて、私は頭を抱えた。
「頑張ってくださいませ。今夜中に終わらせませんと。」
アンナがすました顔で言う。
「印章魔法なんて、やったこともないのに、、、んー、ふんっ!」
「ふん、では出来ませんでしょうに、、」
哀れみをこめた視線を感じる。
入学式をすっぽかしてしまった私だけれど、クラスに分かれてから先は、上手く参加できた。
そこで、どーんと渡されたのが、これから4年間お世話になる魔導書達だ。
「マリー·ローク、、生活魔法専攻ね、、」
教師が、専攻表をチェックしながら、机に生活魔法の書物数冊を置いた。小豆色の革表紙。上下に蔦の葉模様が金であしらわれていて、中央には魔法陣のような模様が描かれている。
「この魔法陣の中央に、印章魔法で記名しておいてね。」
「インショウ魔法?」
「あら、印章魔法くらい、入学前に覚えてきたでしょう?」
そうなの?私、、知らない。脳裏に、村長の顔がパッと浮かんだ。教えておいてほしかったよー!
「それと、、追加で副専攻が申請してあるわね。攻撃魔法、療養魔法、保護魔法、、」
呟くたびに、机の上に書物が増えていく。
副専攻!?申請!?どうなっているのかわからないけれど、私は大量の書物と一緒に部屋に戻った。
部屋に戻ったはいいけれど、インショウ魔法が分からない。アンナに聞いてみたら、超初級の名前付け魔法らしい。でも、アンナは魔法は使えないから、教えてもらえない。そして、
「お教室で、どなたかに聞いてきたら良かったのではありませんか?」
もっともらしいことを言う。
「聞こうとしたんだけど、誰も相手にしてくれなかったんです!」
ため息。私、ほんとに聞こうとしたのよ。
隣の席に、アナスタシア様とお話してた長身の方がいたので、声をかけてみたけど相手にされず。女の子たちは、なぜか遠巻きに冷たい視線。
「入学式に出なかったからかしら?、、それとも、、、やっぱり貴族出身じゃないからなのかなぁ〜」
思わず呟くと、アンナの表情が変わった。
「入学式に、出なかったのですか!?」
「いや、迷子になっちゃって、、、ひ、広いですよね〜聖ブライティア学園って。はは、、」
「あんなに、間違えないようにと、ご説明致しましたのに、、それで、大丈夫だったのですか?」
「式は間に合わなかったけど、クラスには合流出来たんですよ。ライが途中まで案内してくれて、、」
「ライ、、様ですか?」
アンナは怪訝そうな顔をした。
「そう。ラインハルトという方で、モンモンなんてすぐ肩に乗っちゃって。怪しい人では無いと思います。」
「ラインハルト様?」
「ラインハルト·コンスタンティ、だったかな」
「赤茶の髪に、エメラルドグリーンの瞳」
「そうそう、よく知ってるわね」
「本国の第1王子ですから」
第1王子!?
アンナは深く深くため息をついた。
「ああーっ!とても信じられません!!」
間髪入れずに、早口でまくし立てた。
「これでは、アナスタシア様の仰っていたとおりではありませんか!!道に迷って入学式サボり。その間にラインハルト様と遭遇。親しくなったところをアナスタシア様に目撃され」
え?私、そこまで話したっけ?
「他の御学友の知るところになり、大注目。妬む女学生からは嫌がらせを受け」
ああ、それで印章魔法教えてもらえないのか。
「それでも天真爛漫、ええ、アナスタシア様はそう仰ってました。天真爛漫なマリー様は気になさらず明るく。その姿に好意を抱き、ラインハルト様を『ライ』と呼ぶ仲に、、」
なんかちょっと違うとこもあるけど、、
「ああっ!アナスタシア様は本当に殺されてしむうのでしょうか!」
アンナは取り乱した様子で、私に迫った。
「マリー様が、アナスタシア様の予告通りにラインハルト様とお会いされた場合、お渡しするよう言われたものがございます。」
アンナはエプロンの下から、小さな紙を取り出した。サッと開くと、
『印象魔法が欲しければ、食堂へ行きなさい』
と書かれていた。
印章魔法!!欲しい!!!!
アナスタシア様の予告通り、、というのがひっかかるけれど、、、背に腹は代えられない。
私は、部屋を飛び出した。