入学式、見事に遅刻
アンナが詳しく教えてくれたのに、私はあっさり道を見失った。
入学式に出席するため意気揚々と部屋を出たが、聖ブライティア学園は、想像以上に敷地が広く、校舎はお城と見紛うばかりに華やか。まるで街の中を歩いているみたい。方向がさっぱりわからない。
入学式の会場となる講堂は、どこだろう。
校舎の間をつなぐ渡り廊下を急いでいると、中庭に人影が見えた。制服を着ている。生徒だ!
「あのう、、すみません、講堂どこでしょうか」
声をかけると、その男子生徒は振り返った。
「君、新入生かな?」
「はい。すっかり迷ってしまって。」
「そうか、もう式が始まっている時間だな。講堂まで、ご一緒しよう、、こっちだよ。」
彼は先に立って歩き始めた。小走りに追いかけ、横に並ぶ。
「ありがとうございます、、でも、あの、ご用事とか大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。今日は時間を空けてあるからね。」
赤みがかった茶色の、少し眺めの前髪を揺らしながら、彼はニッコリと笑った。よく見たら、とても綺麗なお方。エメラルドグリーンの瞳が印象的だ。
「魔法科の新入生だよね。」
「はい。生活魔法専攻です。」
「生活魔法か、、得意なの?」
「いえ、、実はまだ『レミール』しか知らなくて」
「えっ」
「私、少し前に魔力があることが分かったばかりで、、ここに来る前に、村長さんに少し教わったけど、まだコントロールが上手く行かないんてす。」
「村長!?君は村の出身なのか、、そうか、それでか、、」
彼は何か、思い当たることがあるという風に、軽く頷いた。
あれ?私、もしかして田舎者丸出し?なにか変なことしたかな。
「名乗りもせずに、失礼した。私はラインハルト·コンスタンティ。魔法科魔法攻撃専攻の3年だ。よろしく。」
「ラインハルト様、、あ!私は、マリー·ローク。ウェスラード村から来ました。それで、、、この子はモンモン。」
ポケットに隠れていたモンモンは、名前を呼ばれて飛び出してきた。私の肩に跳び乗り、そこからラインハルト様の肩に跳び移った。
「うわっ、君、聖獣を連れているのか!なかなかやるね。で、名前がモンモン?、、くっ、、」
「どうしました?」
「いや、、なに、、はーっ、、あははははっ」
突然、ラインハルト様は大声で笑いだした。
「し、失礼した、、聖獣に、モンモンって。あはは、、君、ええと、マリーは面白いね。」
面白い?よくわからないけど、ラインハルト様は楽しそうだ。
その時、少し先にある建物の扉が大きく開き、大勢の生徒が出てきた。あそこが講堂?入学式終わっちゃったのかな。どうしよう!
「あ!アナスタシア様!」
先頭を、アナスタシア様がキリッとした表情で歩いてくるのが見えた。やはりあれは、一年生達。魔法科の同級生になると、アンナが教えてくれた。
あそこに合流しなくては!
「案内ありがとうございました!」
お礼を言って、走り出そうとした私の腕を、ラインハルト様が掴んだ。
「ちょっと、待て。アナスタシアと知り合いなのか?」
「えっ?ええ、まあ、知り合い、、です。一度私の家に訪ねて下さって、、」
「家に!?」
アナスタシア様がこちらをチラリと一瞥するのが見えた。満足げに笑っている。隣に長身の男子生徒がいて、何やら談笑している。
「なんだあれは、、」
ラインハルト様の瞳がキラリと光った。移動中は私語厳禁なのかな?
「あの、私もう行かなくっちゃ。」
「ああ、申し訳ない。マリー、またゆっくり話でもしよう。」
「はい。ラインハルト様、またぜひ。」
ラインハルト様は、腕から手を放しながら小首をかしげた。
「堅苦しいな。ライ、と呼んでくれ。これからもマリーとは懇意にしたい。」
「ライ、ですね。分かりました〜。では!」
ああ、一年生の姿が、建物の中に消えていく。私も急がなくっちゃ。
返事もそこそこ、私は駆け出した。
アナスタシア様ともお話できるかしら?アンナをどうするかも話さなくっちゃ!