表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

突然の来訪者

 コンスタンティ王国の都から東、馬車に揺られて1週間ほど行った国境近くに、小さな村がある。

 『ウェスラード』村民が100人ほどで、ゆったりのんびり暮らしている。それが私の生まれ育った村だ。特産のビワは、よその村のものより大きく、イチジクくらいの大きさがある。


 私が、両親と共に暮らす家の庭にも、大きなビワの木があり、今は白い小さな実をつけている。


 そんな、穏やかな冬の昼下がりに、騒々しいお方はやって来た。


 「マリー·ロークの家はここかしら?」


村に来訪者は珍しい。手の空いている村人たちは、馬車の音を聞きつけ、ゾロゾロと集まってきていた。


 庭先でニワトリに餌をやっていた私は、来訪者に目を向けた。誰かしら?とてもきれいな人。


「私がマリーですけど、、」


「まあ!マリー!!本物のマリーね!!会えて嬉しいわ!!」


見知らぬ令嬢は、急に抱きついてきた。だ、誰?どこかで会ったことあるのかしら!?


戸惑う私に、令嬢はそっと耳打ちした。


「ごめんなさいね、驚かせてしまって。あなたに大切な話があるの、、家の中で、お話させていただけないかしら?」



 家の中で、改めてよく見ると、彼女は非常に高貴なお方なのだろうな、ということが分かった。

 ウェスラードでは見たこともないような、ふんわりしたドレスを身にまとっていて、髪には何か宝石のような飾りが着けてある。


 波打つ豊かなプラチナブロンド。ため息が出るほど白い真珠のような肌。目鼻立ちはハッキリとしているが、それでいて派手すぎず、しとやかだ。

 同性ながら、目を奪われずにはいられない。


 お姫様、、なんだろうな、、。あまりにも自分と違いすぎて気後れする。



「私に、なんの御用でしょうか。」


口に合わないのではないかと思いつつも、粗末なカップにお茶を淹れ、令嬢の前に置きながら私は尋ねた。


「まあ!ありがとう!」


意外にも、彼女はカップを手に取り、嬉しそうに口をつけた。


「ああ、ホッとするわ。なにしろもう一週間も馬車で旅してきたものですから、こんな風にテーブルでお茶を戴けるなんて、、」


そしてまた、一口。


「あー!美味しい!!」


随分と、マイペースなお方だな、、でも、嬉しそうに微笑んでいる。お茶を入れたのは正解だったかな。


「さて、、時間もあまりないので、本題に入らせていただくわ。あなたがマリーで間違いないわね?」


「はい。私がマリー·ロークです。」


「マリー·ローク。ウェスラード村生まれの16才。碧い瞳に、ストレートのブロンド。うん、間違いないわね。」


 まあ、、そうですね。


「私は、アナスタシア·クラウディ。クラウディ公爵の娘よ。」


 ほほー、、公爵様、、とても偉い方なのは分かりますが、なにしろ田舎者すぎて、それ以上のことが、分からない!!


「それで、公爵様のお嬢様が、なんの御用ですか?」


「そんなに警戒しないで。でもとても大事な話なの。実はね、私、異世界から転生してきたのよ。」


 は?


「お願い、頭がおかしいとか思わないで最後まで聞いて。とにかく、私には前に生きてた場所があって、生まれ変わってというか、こっちの世界にやってきたのよ。」


「それは大変でしたね。」


適当に話を合わせて、さっさと帰っていただこう。


「私の転生に関する顚末はさておき、この世界は乙女ゲームの世界だということが分かりました。」


「はあ」


「簡単に説明すると、王都にある『聖ブライティア学園』在学中に、ヒロインが攻略対象5名と愛を育み、ハッピーエンドを目指すというものです。」


「ふむふむ」


「ヒロインの恋愛を邪魔する悪役令嬢もおります。ラインハルト王子の婚約者です。」


「なるほど」


「ちなみに、悪役令嬢はこの私、アナスタシア。ヒロインは、あなたです。」


うわー、私がここで登場するのね。凄い妄想だわ。


「ヒロインは、攻略に失敗すると、死にます。」


「へっ!?」


「そういう声を出すのは、品がありませんわよ。おやめなさい。ちなみに私も、たった1つの攻略ルート以外では死にます。ざっくりいうと、ギロチン、毒殺、メッタ切り、または国外追放、となります。」


「そうなんですねー」


なんだか穏やかでない言葉が並んでいるけれど、妄想だから仕方ない。ここは暖かく見守ろう。公爵令嬢を追い返すわけにもいかないし。

 私はそう思って、にっこりと微笑んでみせた。


「信じてらっしゃいます?」


「はい」


笑顔。


「やはり、信じられませんわよね。」 


アナスタシア様は、ふう、とため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ