『銀色の髪の乙女』
「私は、勇者さまが大好きです」
勇者さまたちは、今、姫を助けるために、魔王の住む城に攻め込んでいます。
私は力不足なため、城門の前で勇者さまに中に入るのを止められてしまいました。
出来ることなら最後までお供したかったけど、足を引っ張りたくはなかったので、魔王城の城門のそばで勇者さまの帰りを待っています。
『もしものときは、迷わず逃げろよ』
と言ってくれましたが逃げるつもりは一切ありません。
勇者さまが帰ってくるまで、何時間だろうと、何日だろうと、お持ちします。
月がそら高く昇ったとき、城の最上階から激しい爆音が聞こえてきた。
最期の戦いが始まったようだ。
「がんばれ、勇者さま」
風が、私の唯一の自慢である白銀の髪を揺らしていく。
爆音を聞きつけたのか、魔王配下の魔物たちが城外から集まってきた。
幹部クラスはみんな倒したし、強い魔物は城の中にいる。集まってくるのは雑魚ばかりのはずだ。
でも数が多い、あの数で背後から奇襲を受ければ、いくら勇者さまたちでも……
『もしものときは、迷わず逃げろよ』
……ごめんなさい、逃げられないです。
強力武器や高価な回復アイテムのほとんどは、勇者さまたちが持っていってしまっていた。
私は何も持たず、魔物の群へと突っ込んだ。
唯一の特技である足技だけで、魔物たち蹴り飛ばしていく。
魔物の刃に勇者さまが褒めてくれた銀の髪が切り落とされる。とても悲しかった、大切な思い出が傷つけられた、でも――
勇者さまを失う以上の悲しみはない!
明日の朝日が昇れば、この長い旅も終わりを告げているだろう。
どうか、その明日が幸せになっていますように。
いつかまた、勇者さまを背中に乗せて走ることを想い描きながら。
私は城門の前を陣取り、四本の蹄で大地を踏みしめた。