忍とココロ
「それで?なんて言う名前の怪異なの?」
「マヨヒガじゃ」
「迷い家?」
「マヨヒガでマヨイガと読み、発音する由緒ある日本の怪異じゃな」
「日本?」
そんなのがあったなんて知らなかったな。
「まさかとは思うが、日本家屋が嫌いとかではないじゃろ?」
「別に平気だけど」
「なら何が疑問なのじゃ?」
「単純に驚いただけだよ」
「それならば良いのじゃ」
「それでマヨヒガはどんな怪異なの?」
「今で言うところの岩手県遠野市の遠野物語に出てくる怪異じゃな。山中の幻に包まれた家でな、欲無き者に富をもたらすとされておるのじゃ。これ以上は自分で調べるのじゃな」
山中の幻に包まれた家?つまりは
「街中で迷っても意味ないよね?」
「乱数次第ではたどり着けるはずじゃぞ」
「私の場合別のフラグを踏みそうなんだけど。現に裏路地で迷子になってたら百鬼夜行を継ぐ事になったし」
「主様、マップを見ながらだと迷子判定にはならんぞ」
「そうだったの?」
驚きの新事実。そりゃそうか。街中でGPSによる現在地付きの地図を見ながら行動していたら迷子ではないか。よし。
「山に行くよ、忍」
「ところで主様、付近の山への道は理解しておるのか?」
「この街から出れば山くらい見つかるでしょ」
「ふむ、護身用の武器はどこじゃ?」
「マヨヒガで作るけど?」
「マヨヒガまでの護身用の武器はどこじゃ?」
「ココロに護衛してもらいます」
「妹君は頭が良いのじゃろ?迷子になることが出来るのか?」
「うぐっ」
なかなかに痛いところを突いてくるな。ならば。
「ココロに護衛を紹介してもらいます」
「条件に合うちょうど良い護衛がそう簡単に見つかるかと思っておるのか?」
「ココロの人脈なら一人くらい居ると思うけど」
「それは妹君を過信し過ぎではないか?」
「余程の事じゃなければココロの事は基本的に信じるよ」
「どうやら余程硬い絆があるようじゃな」
「まあ、根拠としては、ココロは大好きな私に嫌われたくないはずだから知り合いに居なくても知り合いの知り合いを紹介してもらうとかして私の期待に応えてくれると思うけど?」
「それは悲しい信頼のされ方じゃな」
「私でもそう思うけど、仕方がないよ。あ、ココロに連絡しなきゃ」
「すでに連絡済みじゃよ」
「いつの間にやり取りしていたの?」
「主様とこうして会話している裏でじゃ」
「ものすごく器用だね」
「我じゃから簡単に出来る事じゃよ。まあ一部のトッププレイヤー共は必須技能と言っておるがな」
「私には無理ですね」
だって私、昔から不器用って言われてきてるからね。
「主様も一応トッププレイヤーへの階段を上り始めておるがな」
「なんで!?」
「プレイヤー初のクランマスター」
「あー。そんなのもありましたね」
「プレイヤー初の特殊な限定ユニーク種族」
「何それ聞いてないんだけど」
「表に出てくる称号が全ての実績ではないのじゃ」
「マスクデータとしての称号があると?」
「黙秘権を行使するのじゃ」
「ジーク君に聞けば教えてくれるかな?」
「…………」
「忍?」
「…………」
「忍なんか喋ってよ!」
な、忍が無言のまま私の影の中に入って行ったんだけど。ひどくない?せめてココロとの合流場所ぐらい教えてくれてもいいじゃん。
私はそのまま扉に手を掛け、出ていった。