決着1
メルーシュの率いていた軍の作戦は実を言うと最初に出鼻をくじかれていた。
レイの振らせた酸性雨により知性のあるモンスター達は戦意が少し削がれていた。それでもメルーシュが敵の最大戦力をフィールド内に引きずり込み、ドラゴンやゾンビが突き進むことにより、何とか戦線を保っていた。
しかしフィールドがとかれ状況を把握した者は次々と戦意を喪失した。
メルーシュとやり合って生き残った魔法使いその恐ろしさを彼らは十分に理解していた。
七勇士の一人との戦闘後でも服が汚れていることも無い。息も乱れて居ない。そして最初に見せつけられた広域魔法。彼らの心を折るには十分だった。
「逃げろ」
「死にたくねぇ」
もはや統制が取れなくなり敵のモンスターが我先にと逃げ出した。
しかし、逃走が成功することはなかった。
襲い来る炎と機械兵の軍団により彼らは死滅していった。
「後はあのゾンビどもだけだ」
陽炎の作戦参謀の月元 解良が全員進軍の指示を出す。(大まかな作戦自体の指示は司令室が決めるが細かい判断は現場の者に任せられている。隊長である焔が直接作戦の指示を出さないのは焔が烽烟のメンバーのカバーに向かっているからだ)
ゾンビ達には思考が存在しない。また攻撃も近距離のみなので皆それぞれの射程距離があるにしてもゾンビ達よりはリーチが長い。これ以上負傷者が出ない(といっても今のところは軽傷者しかいない)と言うのが解良の考えだった。
「まさか、この姿になるとは思いませんでしたよ。でも神の手先が紛れていたのです。それも仕方ないでしょう」
そこにいた思考をもつもの全てが驚愕した。
その声は間違いなく、先程レイに殺されたメルーシュのものだった。
陽炎のメルーバーは急いでメルーシュにトドメを刺すためレイの前に倒れているメルーシュだったものに突撃する。
「待て!それは罠だ」
レイだけはメルーシュの声がどうして聞こえるか一瞬で理解できていた。
レイの制止とほぼ同時、死体の周りから大量の水が発生し陽炎、ルドラの隊員を合わせて15人ほど飲み込んみ巨大な人型を形成した。
「やはり、貴方は術の能力をすぐに認識できるのですか」
自身にとって不利な情報をメルーシュは得たはずなのだが その声からは何故か愉快さすら感じる。
「まぁ貴方ならこの私すら簡単に殺すことができるのでしょうね。そこで取り引きです」
「取り引き?」
「とぼけないでください。もうわかっているでしょう
私が取り込んだこのモノ達を返すので私を見逃して頂きたい」
「勘違いするな。俺が疑問形で尋ねたのはお前が本当に約束を守ると考えていないからだ」
「私が守る守らないに関係なく、貴方は応じるしかないのでは?」
それが貴方の役目でしょう。と続け気味の悪い笑い声でこの場を掌握するメルーシュ。
「みんな!今助ける」
焔の声が後方から聞こえてきた。
「やめた方がいい。貴方の炎では火力が足りない。
また、前回のような爆発を使えばこの味方もタダではすみません」
焔が悔しそうな表情を浮かべる。
「お嬢さん、いい表情をするようになりましたね。
貴方はまだ意地を張るのですか?
早く土下座でもして私に頼み込んだらどうです?」
まぁ返す気は毛頭ないんですが、と心でつぶやいて
そこでメルーシュは異変に気がついた。
自身の体内から気泡が浮かび上がっており少しずつ多くなっているのだ。
それは呼吸の証拠だった。
彼らは取り込まれた水の中で呼吸をしていたのだった。
「何故こいつらが呼吸を・・・貴方、またなにかしたしたね」
「メルーシュ、お前はお喋りが過ぎるんだよ。
それから、慢心が過ぎる。
目の前の相手の実力が見えているだけで、その恐ろしさを押し図れていないんだ。」
雰囲気が変わる。メルーシュの方から激しい怒りが伝わってくる。
「呼吸ができるからなんだと言うんです。こいつらを殺すのは何も溺死である必要はない。圧死でも十分殺せるんですよ」
その考えが既に甘いと思いつつもこれ以上の会話は必要ないとレイは判断した。
今まで会話に応じていたのはただの時間稼ぎ、全員を助ける方法はとっくに思いついていた。しかし、実行に時間が必要だった。初めての戦闘時、まるで昔から使えたかのように魔法を使ったと言ったが、それは単純な魔法のみに限った話だった。
複雑、精密な魔法にはそれなりの時間がかかってしまうのだった。
レイが使った魔法は現時点で2つ、取り込まれた人に呼吸のための空気を一定量送る魔法、もう1つは先の魔法のために座標を設定する補助魔法。対象が一人または固まっているときは2つ目の魔法は必要ない。
呼吸で使われた空気がそのまま留まり対象者の体を包み込んでいく。全員が包まれたとき空気の塊が破裂し水の巨人は吹き飛んだ。
落下する人を重力緩和のフィールドでゆっくり下ろした。
また投稿間隔が空いてしまいすいません。
遠出をする用事が入ってしまったため、準備をしていました。
コロナ感染に気をつけていきたいと思います。
移動時間に書いているので今週中にあと何本かあげられそうです。
今回の豆知識
「サーバルキャットは耳が良すぎて狩ができないことがある」