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六話

○何時傘真無目


その巨大な塔は、海原という背景があまりにも不似合いな無機質さを持っている。


ルシエス、という文字を表すネオン菅を見上げて思わず品のない笑みを溢す。


「先輩、暑さで頭やられちゃいましたか?」


幽衣が馬鹿にしたように顔を覗き込んでくる。


「いや……どうしてこんなものをわざわざ建てるのかな、って」


この巨大なショッピングモールは全国にチェーン店を持つ大手企業のもので、本来ならこんな寂れた田舎町には建てられるはずのないものだ。実際客足だって他の店舗と比較すれば芳しくないだろうし。

それに、どうやらこれが建設されるに当たっては少々強引に事が進む事もあったらしい。

例えば、この近くに建っている鉄塔から電線を断ち切って別の鉄塔と接続し直したこともあったそうだ。そのお陰で向こうの浜辺には一切の電子部品を取り除かれた、文字通り鉄の塔が寂しくぽつんと建っている。


だが企業の思惑がなんであれ、これだけの立派な商業施設が町に建てられるなんてのは地方からすれば幸甚なはずだ。町の発展のためには多少の無理をしてでも建設してもらいたかったのだろう。


「でも先輩。これって、いろいろと説があるの知ってます?」


「ん?なにそれ」


建物の中に入って冷房の空気をたっぷりと浴びる。

身体中を突き抜ける幸福感で幽衣の言葉が遠くなる。


「この建物って、でっかい筒みたいな形してるじゃないですか。それで、実はどうやらこの建物にはコイルが何重もぐるーって巻かれてて、全体が巨大な電磁石になってるんですって!ほら、ここら辺ってほとんど海辺で周りに家がないじゃないですか。それもこの建物が磁石として機能したときに周りの金属がくっつかないようにするためのものなんですって!」


「へぇいいね。面白そう」


適当に返事をする。

僕は理系でもないのでそんなことがあり得るのかは分からないけど、面白いことを考え付く人がいるものだ。


「それでその理由なんですけどね___」


相変わらず楽しそうにはしゃぐ幽衣を見て、やっぱり来てよかったなと涼しさに身を包まれた今だから感じる。ここに来るまでの灼熱の道中では後悔しっぱなしだったけど。


ここに最後に来たのは真衣がいなくなる一月程前だっただろうか。彼女と、デートと言えるほど甘い雰囲気でもなかったが、幸せな時間を過ごした。どこをまわったかは明確に覚えていないが、ゲームセンターに行ったのは覚えている。彼女はリズムゲームが得意だった。白く透き通った細い指先が液晶画面を滑る光景に思わず見とれてしまったいた。彼女の清楚さが不思議とあのエレクトロな雑音と調和し、彼女の漆黒の髪が筐体の放つ光を映して彼女を虹の衣で包んでいた。


そうだ______あの時の彼女ほど僕の胸を締め付けるものはない。


「_______それで、先輩の見たい映画って何時からでしたっけ?」


「午後からだよ。まだ時間はあるから、幽衣の行きたい所に行こう」


「そうですか。じゃあ_____」


早足でピンキーなショップへ向かう幽衣。

そのはしゃぎ様には、到底真衣の面影なんて探せなかった。


とりあえず今日は能力を使うこともなさそうだ。



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