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弐拾七話

○麻目幽衣





嘘つきの悪い子はどーこだ。


________ここです。私です。麻目幽衣です。



夏休みが終わりました。

それと同時に、もっと何か大きな事が終わったような気がするんです。


きっと、たくさんの人達の思いと、時間と、過去が交錯して、一つの終焉に辿り着いた。そんな気がします。


______私も、終わらせました。

先輩に能力のもう半分を託して、砂さんを助けてもらいました。

お姉ちゃんの唯一の気がかりであっただろう白春砂さんを。


4ヶ月前のある日。私達姉妹は"偶然"、世界の規律ルールを変えてしまうほどの力を手に入れました。

神という説話に一生縛られ続ける運命だった私達は、皮肉にも、時を司るという神に匹敵する程の力を得たんです。

と言っても、制約はありました。

私達が時間を改編できるのは私達が力を手にいれた四月のあの日以降。しかしそれでも、その力は私達に_____いえ、姉に無数の選択肢を与えてくれました。

私達はただ困惑し、力をどう使おうにも用途が見つからず、次第に力の事を口にすることもなくなっていきました。


そして、それから半年が経った十月のある日。

私が母と一緒に夕飯の用意をしていた時でした。

姉が帰って来て、ただいまと小さな声で言ってから、そのまま部屋へと駆け込んでいきました。

その日、姉は神社で修行をすると偽りながら、彼氏である何時傘真無目さんとデートに行っていたのです。

その事を事前に聞いていた私は姉のデートの結果を早く聞きたいと心待ちにしていたのですが、帰宅したお姉ちゃんの表情は暗く、思い詰めているようでした。


私は心配になって姉の部屋に行きました。

ベッドで踞っていた姉は私を見上げると、どうしたの?と言って微笑みました。

それから、姉は私にデートの話をしてくれました。

笑みを絶やすことなく、彼氏との一日を詳細に私に語りました。

そんな幸せそうな姉を見て、私まで嬉しくなりました。何せ姉は幼い頃から何一つ自由というものを与えられていませんでしたから。

そんな姉が、可哀想なお姉ちゃんが、一人の女の子として青春を謳歌しているのはとても喜ばしいことだったんです。



しかし今思えば、お姉ちゃんはそんな事で喜んでいたのではないのでしょう。何時傘真無目さんを、先輩を連れていかなかったということは_________きっとお姉ちゃんを"変えた"のは先輩ではなかった。


お姉ちゃんと語り合った次の日の朝。

私はデジタルの目覚まし時計をぶっ叩いて起床し、どことなく違和感を感じました。

それから、時計を見て____________四月一日。時間が遡っている事に気付きました。


結局、お姉ちゃんは自由を摘まみ取っちゃったんです。

生まれてからずっと与えられなかった自由を、ある日突然魔女のお茶菓子のように差し出されて、そしてそれを受け入れた。


私は錯乱し、一方で、どこか冷静な自分がいるのを感じていました。

私にも、先輩にも、白春さんにも何も告げる事なく消え、何を考えたのか時を遡る能力を白春さんに渡していった。

私は自分の力で姉を連れ戻すことも出来ました。姉を失った喪失感に耐えられず、何度も過去を書き換えて姉を自分の元に引き寄せようと考えました。

しかし、それが姉を再び牢獄に引き戻す事を意味するのだと、頭の鈍い私でも理解出来ました。


私は誘惑に負けてしまった時のために、自分の力を他人に移すことにしました。姉と何度か話し合った力の移し方を使って。

結局不器用な私は力の一部分しか先輩に移せていませんでしたが、数ヵ月後までその事に気づくこともなかった私は折角だからと先輩に姉との過去を"断ち切る"事を提案し、その練習に付き合ったりして、それから_________先輩を見届けました。

私の行動が正しかったのかは分からないけど、先輩に再び力をあげて、白春さんを壊させて、その事に意味があったのかは分からないけれど。


ただ、私は後悔なんて一切していません。


だってこれ、"お姉ちゃんのせい"なんですから。



「_________麻目さーん、聞いてる?」


「ん?あぁ、どうした、須月君?」


生徒会の役員である須月君が私を覗き込む。


「文化祭の資料ここに置いておくよ」


「分かった。ありがとう」


「......なんかいいことでもあったの?」


須月君の怪訝な顔に、私はどきっとさせられた。

何故だか分からないけれど、少なくとも恋ではないだろうけれど、私の心の末端を悟られたような気がしたから。


「え?別に何もないよ。寧ろ夏休みが終わって憂鬱だなーって感じ」


「へぇ、そう」


「須月君こそ、どうしたの?しばらく学校休んでたけど」


「僕ですか? 僕は少し、休もうかと思って」


須月は資料を乱雑に机に置いて、椅子に腰を掛けた。


「......学校来てるじゃん」


「いえ、趣味の話ですよ」


一人で朗らかに笑う須月君に気味悪さを感じながらも、私は生徒会の仕事に戻った。


放課後の夕暮れの中の校舎で、どこぞの先輩を思い出させるような気持ち悪い奴と二人っきりで仕事を続けた。



生徒会長の腕章を左腕に光らせて。




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