幕間
ああ、いらっしゃい。
珈琲でいいかい?
そうか。
なら、いつもの席で待ってておくれな。
――しかし。
本当に珍しい客だな、あんた。
どうしてこんな客足の遠い店に、わざわざ顔を見せるんだ。
大して広くもなければ、洒落てるわけでもなく、椅子だって窓際にポツンとある一脚だけだ。
もしこの店になにか特別なものがあるとしたら、どうやって営業しているのか分からないほど客が来ない事と、知らぬ間に物語が増えていることぐらい。どちらにしても、店主が言うことではないだろうけど、そのくらいさね。
以前同じようなことを聞いた時には話を途中で打ち切っちまったが、まさか〝私塾〟の関係者さんだったりするのか。
……。
はい、お待ちどうさん。
今日もミルクだけで?
ふん、そうかい。
いや別に責めてるつもりも、追及するつもりもないんだ。
店に来てくれることはとても嬉しい。間違いない。
ただ、気になってね。
この店に来てくれている理由が。
辺鄙な場所の寂れた本屋。
その店主は臆病なんだ。
はは――っと、店の電話が鳴るなんて珍しい。
まあ、その気になったら教えてくれると嬉しい。
じゃあ、今日もゆっくりしていってくれ。
飲み終わったら、お替りもあるからな――。
次回 二章 【 二人四脚 ―― 想像破綻 】 一話 『 顔のない顔 』