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6話 一緒に見たい未来とリスク管理は違います

 上尾洋子は子供の成長を心配していた。2歳になる自分達の子供が全然しゃべらない。夫にメールで相談をしても『男の子は遅いというし仕方ないんじゃないかなぁ』と返信される。夫は頼りにならない……それは仕方ない……あの人は仕事で忙しい。でも、出来ることをしないといけない。


 洋子は夫の篤に相談した。私が読み聞かせをしたいから絵本集を買いたいと……正直高い金額だ。全部で20万円近くかかる。自分が会社勤めしていたときの手取りから考えればかなりの大金になる。でも、あきらめたくなかった。


 結果を言えば、夫の篤は何も言わずに買ってくれた。夫の理解に幸せを感じつつも、何も言わない夫に対して不満があった。夫からのメールは『うん。洋子さんが良いと思うことに協力するよ。それぐらいならなんとかなるよ』という文章だった。

 


 上尾洋子の誕生日の日に夫からのメールが来なかった。彼女は凄く寂しかった。もう愛する夫からメールが来ないのかと思った。だが、数日後にメールがあった。メールにはお詫びの記載があった。もう忘れられてしまったのかと心配していたが、そのメールが逆に嬉しかった。洋子は自分で単純だなぁって思った。


 しかし、上尾篤が単身赴任先から戻っていた時、上尾洋子は夫に問い詰めた。夫は色んなことがあって日付感覚が狂っていたと言った。スマートフォンがある時代にそんな言い訳をいう夫が可愛いなと可笑しかったが、まじめな顔でタイマー設定しておけばいいじゃないってワザと冷たく言った。夫は『ごめん』と素直に謝った。彼女は少し可愛そうだったかなと反省した。



 ある単身赴任帰帰省の日に、上尾篤があまりにも元気がなかったので、上尾洋子は何かあったのかを聞いた。すると夫は『友が死んだ』といった。意味がよく分からなかったので話を聞いてみた。


 死んだのは錦野悟。同じ会社のデザイナーとのことだった。彼はバイクが好きでよく一人で乗っていたのだという。しかし、右折時にトラックの陰から飛び出してきた車に撥ねられたそうだ。即死だったらしい。上尾洋子は寂しそうにしている夫を励ました。夫は悲しそうに微笑みながらこう言った。


「もし、俺が死んでも生命保険に入ってるから大丈夫だよ」


 その瞬間、上尾洋子の心にドス黒いものが渦めく。愛する夫が死ぬ? なに? 彼女は頭がパニックになり叫んだ!


「ふざけないで! 何が大丈夫なの?残された家族の気持ちは?お金の問題じゃないのよ!なんなの?本当になんなの?」


 上尾篤は突然泣き崩れる妻に驚いた。妻は自分を拒んでいたのではないのか?そもそも生命保険を勧めてきたのは妻だ。その意味は妻だって知っているはずだ。あの契約は自分の死んだ世界の為のもの……


「一緒に暮らして、老後も仲良く過ごそうね……って、お互いに言ったじゃない……なのに……さ……最初からいきなり別々になって……それでも、子供の治療が落ち着いたら……い……一緒に暮らしていけると思っているのに……し……死んだらなんて……」


 嗚咽をしながら呟いてる妻を見て、上尾篤は彼女に酷い未来を見せてしまった事を後悔すると共に、自分はまだ愛されていることに安堵していた。


「洋子さん、ごめん。僕が馬鹿なことを言ったよ。そうだね。仕事も息子の手術も落ち着いたら家族で楽しく暮らそうね。もう、自分が死んだらなんて事は言わないよ。これからもっと健康に気をつけるよ」


 上尾篤はそう言って妻を抱きしめ、彼女のオデコに軽くキスを落とした。



 上尾篤は、帰省の時に妻とのキスを欠かさなくなった。妻のなんとなく切なそうな顔を見る度に安心させる様にと幾度もなくキスをした。


 こうして、結婚記念日5年目は過ぎていった。




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