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4話 貴方が見ている未来に私は存在しますか?

 上尾夫妻は医者から説明を受けていた。


「それほど問題はないね。3ヵ月後の手術で遠目からみれば問題はなくなるし、この症状なら3回の手術でなんとかなるよ。0歳、6歳、18歳というところかな。6歳の手術は骨の補強で、18歳は最終形成だね」


 形成外科というものを上尾篤は知らなかった。有名なのは整形外科だがこれは機能的には何の異常もない健康な部位を治療する分野であり、形成外科は身体に生じた組織の異常や変形、欠損などに対して、機能的および形態的に改善を目指す外科領域となる。

 たった3回の手術…されど3回の手術が既に約束されてしまった息子のことを思い、上尾篤はどうしてよいか分からなくなった。

 二人は医者の話しことを確認し、3ヶ月後の手術に備えて上尾洋子は実家に残り、上尾篤は帰ることにした。その時、上尾洋子は夫に寂しげに話した。


「仕事に復帰することは無理かな……会社辞めるね……」



 3ヵ月後、上尾篤は嫁の実家の病院に行った。もちろん息子の手術に立ち会うためだ。結果から言うと手術は成功した。


「この子は運がいい。形成が今までにないほど上手くいった。大人になったら気付く人は殆どいないだろうね」


 上尾篤と上尾洋子は微笑みながら息子と一緒に我が家に帰った。

 

 上尾洋子は生まれた息子に付きっ切りとなったが、あまり外に出なくなった。上尾篤は仕事で遅い状態は変わらないが、帰ってきて疲れて寝ている妻をみて、息子が夜中にグズることがあったときは、代わりにあやしたり、おしめを替えたりし妻のサポートを出来る範囲でしていた。


 そして迎えた2年目の結婚記念日、二人は息子を囲みながらささやかなお祝いをした。そして上尾洋子は夫にかねてから考えていたことを切り出した。


「ねえ……私の知っている保険会社の人の話を聞いてほしいの。篤さんは私より理解力がある人だからその人が言うことが正しいかが分かると思うの」


 上尾篤は妻がふさぎがちであることもあり、妻からの頼みを聞くことで元気づける事もできるかなと考え、妻の提案に賛同した。



「というわけで、お子様が大学に行くときには生活費が全体的に足りなくなるので、学資貯蓄などをする人も多いんですよ」


 上尾夫妻の目の前でグラフを見せながらライフプランナーは話をした。保険の始まりは昔イギリスで炭鉱扶が何かあったときに自分の葬儀代を払う要請した事から始まる。そんな事を上尾篤は知っているわけではなかったが、自分の葬儀代程度の保険には入っていた。


「つまり、もしもの事があった場合のその人生保障をするということが、今回のライフプランということですね。ところで他の家族はどうなのでしょうか? この費用は安くはないので正直疑問に思います。」


 上尾篤はシステムプロジェクトのリーダーであったので、全体のシナリオのことを考えるのは得意だった。ライフプランナーから提示された金額はある程度の給与を取得していた上尾篤であっても一人の子供の対応をするのがやっとであるようなものだった。


「学資保険制度などで頑張っている人もいますし、基本的にはリスク管理をしない人もいますね。何もなければ問題ないですから……保険というものはそういうものです。私の個人的な話を言わせていただければ、私には子供がいないので、老後のための保険をたくさんかけてます」


 上尾篤にはライフプランナーの言葉が響いた。洋子がどのように考えているかはわからなかったが、すでにディスアドバンテージになるかもしれないリスクを背負った時点での提案は理解ができるものであったからだ。そして、上尾夫妻はライフプランナーの生命保険プランにサインした。

ただ、上尾篤は本質を理解していた。生命保険のプランは自分がいない世界の未来であることを……



 上尾篤は仕事に打ち込んだ。また、上尾洋子は子供に付きっ切りになった。今の二人にはそれしかなかった。夫婦の会話としても一般の家庭と変わらない子供の様子を話し合うようなことであり、仕事を継続したかった洋子としては打ち込む事があったので逆に助かったともいえたが、洋子の頭には休みのない仕事というテレビで主婦業のことを話していた内容がよみがえった。


 結婚3年目の記念日に、上尾篤に対して辞令が発表された。


 「新年度付けで地方転勤を命ずる」


 

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