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3話 その見かたは人を傷つけていませんか?

「あなたのお義母さまから何を言われたと思う? 私の時は二人ともそういうことがなかったし、親戚にもいないからって言われたのよ。まるで生まれてくる子の原因が私にあるように……私だって姉もそうじゃないし、親戚にもいないわよ! 問題があるのは貴方じゃない!いい加減にしてよ!」


 上尾洋子は嗚咽をしながら、泣きじゃくった。上尾篤は困惑するしかなかった。彼女の両親が住む家は都市部には遠く、彼の両親が住む家は2人の家に近かった。何かあったときは彼の両親に相談したらいいよといったのは彼だったからだ。


無自覚で無意識の悪意…… 


 上尾洋子は夫の両親に相談しようとしたのだ。夫が両親にも話をして負担をかけないように言っておいたからと聞いていたから……でも、結果として無自覚で無意識の悪意が放たれ彼女の心を蝕んでしまった。愛してやまない夫に対して回避しようがない言葉で攻撃するまでに……


「洋子……さん……ごめんね……目の事は既に話をしていたと思っていた。会社の人は皆知っていることだし、伝えていなかったって思ってなかったよ」


 上尾篤は既にお腹が大きくなっている妻に、過度な精神的な負担をかけることはできないと考えた。後に出てくる妻の言葉を全て受け入れる選択をした。家族を守っていくのは自分だという気持ちだけが彼を支えていた。



 「出産は私の実家の病院でいい?実家のそばの病院と都市部の病院を兼務されている名医さんがいらっしゃるのよ! 私の実家なら、産休中に貴方のお仕事にも迷惑かからないから」


 産休が近くなり、上尾洋子は夫に話を切り出した。正直な所、夫の母親に会いたくなかったというのが本音だ。洋子の実家は弟びいきだったので昔はあまり実家に居たいとは思っていなかったが、弟が結婚したこともあり、出産を控えて実家に戻りたいと考えていた。


「洋子……さんが希望するなら、そのほうがいいと思うよ。調べていた名医さんの一人だよね。いい考えだと思う」


 彼らは、子供に少しでも良い治療をさせたいと考えて、一緒に病院を調べていた。中には名医といわれる人もおり、色々候補をあげていたのだ。

 上尾篤は無力の自分を責めながらも、自分の意志をはっきり言ってくれる妻に感謝した。彼自身が妻に対して後ろめたさがあったため、何をしたらよいかが分からなかったのだ……


 そして、上尾洋子は出産6週間前の産休に入り彼女の実家に戻っていた……


 上尾洋子が実家に戻ってから、上尾篤は仕事に打ち込んでいた。彼からすれば仕事は先が見えるもので、答えが見えやすいものであった。彼の中では、自分がしっかり働いて、妻と生まれてくる子供を支える為に金銭的に苦労をかけないという位の回答しか見出せなかった。


 上尾篤は妻がいない家に帰って、ふと滅多に視ないテレビを付けた時があった。放送されていたのはドラマで、子育てをする母親が『○○君ママ』と呼ばれだし自分をみて欲しいというような内容だった。彼はそのドラマをぼうっと眺めていた……



 朝、上尾篤はスマートフォンをみたら、生まれましたという妻からのメッセージが届いていた。よくドラマなどで昼に陣痛がという話があるが、実際には24時間いつでも生まれる可能性があり、上尾篤は油断をしていた。大急ぎで車に乗り込み愛する妻の元へと駆けつけた。



「申し訳ありません。上尾篤といいます。妻の洋子から出産したと連絡があり来ました」

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。お子様も奥様と一緒にいらっしゃいますよ」


 上尾篤が向かった先には、子供を抱いている妻の姿があった。遠目からみれば普通の子供であるが、近づく事で表外奇形は明らかになる。二人は目を合わせるとお互い寂しそうに笑った。


「話していた名医の先生が2日後に来てくれるんだって」

「洋子さん、よく頑張ったね。これから3人で頑張ろうね。あと、先生の話は2人で聞こうね」


 上尾洋子は、夫の性格として次に何をするかという事を話すことが多いことを理解していた。だから、夫の望んでいると思った言葉を紡いだのだが、夫からの言葉は労いだった。素直に嬉しく感じたのだが、何か違和感を感じていた……

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