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2話 見かたを変えて後悔しませんか?

「お子様に外表奇形の兆候があります」


 上尾洋子は定期エコー検査の結果を聞いた。初め彼女は何を言われたのか理解できなかった。

ただ、夫である篤は物事を知りたがる人なので出来るだけ冷静に医師からの話を聞くことに努めた。


 外表奇形は先天性の症状で500人に1人の確率で発生すること。手術を成人になるまで数回する必要があること。殆どのケースではないが、ごく稀に成長障害を引き起こすことなど。上尾洋子は受け止めきれてない現実を、夫に伝えるという使命に変えることで心を保っていた。夫と2人ならなんとかなると信じて……



 上尾洋子は家に帰ってきた上尾篤に医者から言われたことを伝える。しばらく2人の間に沈黙が流れる。


「洋子。医者からは手術をすれば後は普通だって言われたんだろ。だったら大丈夫だよ。僕たちの子供であることは何も変わらない」


 上尾篤は彼女にそう語りかける。出来るだけ優しく。でも、嘘は付きたくなかった。だから、正直に話した。


「たぶん、洋子もそうだと思うけど、まだ自分の中で受けきれてないよ。だから2人で色々考えていこう。まだ時間はあるよ」


 上尾洋子は夫が一緒に考えようと言ってくれたことに感謝した。そっと抱きしめられる腕の中で今後の不安に対しても前向きに進めるのではと希望を持つことができる……



「上尾さん、最近元気ないね、らしくないよ? どうしたの?」


 後藤明彦は車椅子を漕いで上尾篤に近づき話しかける。後藤明彦は共栄会社のリーダーであり、スーパープログラマーでもある。上尾篤とは仕事の相性がよく、本音を言い合いながら仕事をすることが多かった。


「そんなことないですよ、後藤さん」

「いや……いつもの切れがないよ。困るんだよねそういうのは。俺がいうから間違いないね」


 事実、上尾篤は現実を受け入れられておらず、引きずっていた。どのようにして自分の心の折り合いをつけ、妻を励ますことができるのかがわからなかったのだ。上尾篤は何かにすがりたかった。そのときに車椅子に乗っている後藤明彦をみてしまった。


「後藤さん…相談があるんです」


 上尾篤は後藤に子供の事を話した。そして自分がどうしていいのか分からないことを……

 

「なーんだ、そんなことか」

「後藤さん?」


 後藤明彦はいつもの屈託のない笑顔をみせながら、少し寂しげに上尾篤に話しかけた。


「上尾さん、安心しなよ。たった500人に1人の病気だろ。しかも手術すれば治るじゃないか。何に困ることがあるんだ? 俺は10,000人に1人の病気にかかったけど今は普通に生きてるぜ? あんたらしくないなぁ。いつものようにすればいいんだよ」


 上尾篤は脳天に衝撃を受けた気がした。後藤明彦は先天性の病気で生まれたときから足が上手く動かなかったが、専用の車も運転していた。上尾篤は後藤明彦の努力家であることと実力があることを認め、先天性の病気など関係なしに物事を進めていた。もちろん後藤明彦の部下が色々とフォローはしているが、後藤明彦は上尾篤が仕事上のパートナーとして、変な気を使わない態度を買っていた。


「後藤さん…すまない…」


 上尾篤は大粒の涙を流した。自分が後藤明彦を障害がある人として相談してしまった事を悔いた。後藤明彦の病気は一生治らない病気にも関わらず、まだ可能性がある自分の子供の相談をしてしまったことを……後藤明彦が寂しげな表情をした理由が解ってしまったから……



 その夜、上尾篤は妻を励ますために上尾洋子に言った。


「大丈夫だよ。僕達の子供は2人で何とかしていこう。手術をすればなんとかなるんだし、何かあっても大抵の事はなんとかなるよ。ほら、俺は軽い色覚異常だけど別に生きていることには困っていないからね」


 上尾洋子は、その言葉を聴いて目を見開き、そして静かに顔を伏せて言った……


「ふざけないで……欠陥があったのは、あなたじゃない!」


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