表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

12話 そして二人は未来を見つめる

「上尾さん、昇進したんだって? 向こうでも順調そうじゃないか。こっちは上尾さんが仕込んでおいていた仕事のおかげで、何とかやっていけてるけど、また一緒に仕事がしたいね」 


 後藤明彦は車椅子を上尾篤に押してもらいながら話をしていた。


「後藤さんには世話になったのに仕事を回せなくて申し訳ない。立場が変わってしまったのもあるが、まだ景気が良くなったとは言えない。面白い案件があれば回すように言ってはいるんだが、遠隔での仕事が難しいメンバーが多くてね……」


 上尾篤は苦笑しながら後藤明彦に語りかけた。後藤明彦もチームを持つ立場となり、お互いの接し方も変わっていた。


「ところで、息子さんの事はどうなんだ? あの時はあんたは大変そうだったが……」


「あれから8年も経ったんだ……昔より落ち着いてるよ。そうだな、8年も経ったのか……」


 上尾篤は8年前に後藤明彦に申し訳ない相談をしたことを悔やんでいたが、後藤明彦から話をしてもらえた事で気持ちが救われた。



 結婚記念日10年目、上尾篤と上尾洋子は息子を実家に預け、ささやかなディナーパーティーを開いた。結婚の時に10年後のお互いの気持ちを確かめ合おうと言った約束が果たされようとしていた。


「洋子さん、10年ありがとう。洋子さんがいなかったら僕は頑張れなかった。僕は今でも洋子さんの事を愛してるよ。これはその気持ちだよ」


 上尾篤はそう言うとキレイに包装されている箱を上尾洋子に手渡した。彼女がそれを開けると中には小さくダイヤモンドがあつらえられたネックレスが入っていた。


「ありがとう。私も篤さんの事、10年経った今でも同じように愛してるわ」


 上尾洋子はネックレスをみながらお礼を言い、結婚10年を振り返りながら考えた。夫は子供が中学生になったら単身赴任先に呼んで一緒に住もうと言ってくれている。もう少し頑張れば、これからずっと暮らしていける……


「また、10年頑張ろうね」


 上尾篤がそう言った時、上尾洋子は強張った顔で上尾篤の顔を見てから下を向いた。

 しばらく沈黙が流れ、上尾篤は困惑した。そして上尾洋子が呟いた。


「……して」


 上尾洋子の正面で握られた手に、彼女の俯いた顔から流れる涙が落ちた。


「離婚してって言ったの! まだ更に10年頑張らないといけないの? 10年後に貴方の心変わりがあったら私捨てられるの? だったら今、離婚してよ!」


 上尾篤は愕然とした。彼にとっては、記念の節目になれば良いかなという軽い気持ちで発した言葉だった。それがここまで妻を追い詰めるとは考えてなかった。


「そういう意味で言ったんじゃないよ。離婚なんかしない。息子が中学生になったら一緒に暮らせるし、息子が家を出る年になったら二人で仲良く過ごそう」


 上尾篤は少女のように泣きじゃくる上尾洋子の頬に流れる涙を指で拭った。


「本当に私は捨てられる事はないの?」


 上尾洋子の質問に上尾篤は彼女を優しく抱きしめながら答えた。


「そんな事は絶対にしないよ。僕は君の事を愛してるからね。知ってるだろ?」


 上尾洋子は上尾篤に応えるように何度も何度も頷いた。


 こうして結婚記念日10年目は過ぎていった。


 

 その後、上尾篤は妻宛のメールの文章を普通と彼が思っている文章に戻していった。相変わらず、『洋子さん』と呼ぶのは治らなかった。彼は家族を支える事が自分の使命だと考え、仕事に打ち込んでいった。

 上尾洋子は家族で過ごすことを期待しながら息子の成長を見守り、いずれ子供が家を出ていったら老後は仲良く過ごしたいなと思っていた。また、子供も大きくなってきたので夫にパートの相談しようと考えていた。


 お互いの異なる『ものの見え方』で誤解やすれ違いが今後も起きていくかもしれない。それでも2人は未来を見つめて人生の歩みを進めていく。


FIN.

 立ち寄っていただきお読みしていただいた皆様、また、評価をして頂いた皆様、本当にありがとうございます。


 あるエッセイを見て、前書き後書きの書き方を考えたほうが良いとあり、過去の前書きを消しました。


 ここに簡単に感想を書かせていただきます。


 今回、初小説のチャレンジで、書きました。途中で短篇SFを書いたときにご指摘を頂きました。それにより文章が全体的に締まった感じになりました。


 このなろうサイトでは小説の書き方を書いたエッセイが多くありますのでそこを参考にされると良いかと考えます。


 私のスタイルは、始まり方と終わり方をまず決めて、あとを埋める感じです。そこに書きたかったネタを書きながらフラグをどう回収するかを検討しています。


私は良く携帯でみるので1話を1600〜2000文字ぐらいにすることを意識しました。


 私がブックマークしている作家さんから感想を頂けましたし、満足しています。PVも気にはしていましたが、終わってから伸びる事が分かりましたので、これからはあまり気にしないようにしたいと思います。


 ただ、多くの方に見て頂き、その中で感想を頂けるのは本当にありがたい事です。


 まだ、試行錯誤中で、色々なジャンルの小説を書いてみたいと思っているので、面白ければ評価頂ければ励みになります。あと、携帯執筆後のPC校正をしている感じなので、更新が遅くなると思いますが、今後もお付き合い頂ければと考えております。


 皆様がよい小説に出会うことを


茂木多弥

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一気読みしました。 とても面白かったです。 夫婦って難しいんですね……。
[良い点] 夫婦のドラマ、めっちゃ良かったです! 何気ない日常が何気なくない。 自分の事を省みないといけないですね (きっと出来ない) 手に汗握り読ませていただきました! [一言] 今日はた~にゃんさ…
[良い点] 一気読みしました。 モヤモヤも残り、面白いとも言えませんが気になったのです! だから次々と読んでしまって、とうとう最後まで。 妻と夫、どっちがいい悪いってことはありませんが人生色々ですね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ