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11話 手品と同じでタネ明かしを見ると呆然とするものです

 上尾洋子はメールを待っていた。彼女の夫は毎年誕生日と結婚記念日にメールを送っていた。結婚する前、誕生日を忘れそうになった彼に女性は記念日を大切にするものなのと伝えてから、夫から毎年欠かさずメールが送られてきていた。

 しかし、今年は夫からのメールが来ない。結婚9年目を迎えるにあたり、彼女は結婚した時に取り交わした10年経ったらお互いの気持ちを確かめようと言った言葉を思い出していた。夫とは夜の営みもなくなり、一人残された家で子供と過ごす、まるで母子家庭のようだと彼女は感じた。



 妻の誕生日を迎えた朝、上尾篤はメンバーの一人からの電話を受け取った。


『すみません、上尾さん。本日からしばらく休みを取ります。つ……つ……妻が亡くなりました……うぅ……ご迷惑おかけしますが……』


 そのメンバーの妻は病弱だと聞いていた。メンバーには子供もおり、これからの生活をどうするのかも決めなくてはならないはずだ。上尾篤は会社の制度を確認し、出来るだけ彼の生活のサポートができるように会社に働き掛けまわった。


 数日経ちメンバーも一度顔を見せに出社した。メンバーは疲労が濃い顔をしていたが、生きていかないといけないという顔をしていたため、上尾篤は安心した。それと同時に妻へのメールをしていなかったことを思い出した。言い訳のメールを送るぐらいなら週末に帰って話をすれば良いと考えていた。



 上尾篤は週末の金曜日に家族が待つ家に帰ってきた。メンバーの対応もあったため、間に合う最終便を使っていた。その為、既に息子は寝ている時間帯になっていたが、上尾篤はすぐに妻に謝りたかった。


「洋子さん、ごめんね。誕生日のメールを送ることができなかったよ」


 上尾篤は謝った後、自分の身の回りに起きた出来事を話し、妻を抱き寄せようとしたが、上尾洋子はその手を払い除けた。


「浮気してるんでしょう?」


 上尾洋子は冷たく夫を突き放し、我慢できなくなった感情を爆発させた。


「名前も結婚当初は呼び捨てにしていたのに、今じゃ『さん』付けで他人みたいだし、誕生日だって、メールをくれればいいだけじゃない。浮気して別のいい人ができて、私なんてどうでもいいと思ってるんでしょう!」


 上尾篤は妻が浮気と言われて逆に怒りを感じ、強く言った。


「馬鹿な事を言うな! 人が一人亡くなっているんだぞ! それに誰がいつ浮気した! つまらない憶測で、そんなこと言うもんじゃない!」


 上尾洋子は自分が理不尽な事を言っていることは理解していた。でも、寂しかった……夫が自分に興味を持ってくれてないと思っていた。


「もう、貴方は私を愛してないでしょう! 抱いてもくれないじゃない!」


 上尾篤は妻の予想していない反撃に驚いた。でも、彼には理由があった。


「それは洋子さんの事だろ! 僕が求めても拒否したのは君じゃないか!」


 言い返された上尾洋子は彼女が拒否したと言った夫にわかってないと言っていなかった真実を述べた。


「それは、求めてきた日が生理の時だったから! 帰ってくるのも1ヶ月間隔だし、わざと合わせたようにズラして帰ってくることもあったじゃない!」


 上尾洋子は、改めて自分の言ったことに恥ずかしくなり俯いた。その後、夫は何も言ってこなかった。彼女は不思議に思って見上げると、呆けた顔をした夫がいた。その後、我を取り戻した夫は額に指を当てしばらく考えていた。


「つまり、洋子さんは僕の事を嫌いじゃない?」


 上尾篤は、ゆっくりと確かめるように妻に質問した。


「何言ってるの? 愛してるに決まってるじゃない」


 上尾洋子は夫の言葉に困惑しながら答えた。その瞬間、上尾洋子は上尾篤に抱きしめられていた。彼女は何が起きたのか分からなかったが彼女の唇に被さるものを感じ、今までのような軽いものではない、その情熱的な感触に身を委ねた。


「良かった。ところで洋子さんは今日は生理日?」


 上尾洋子は夫の質問に改めて自分が変なこと叫んでいた言葉に恥ずかしくなり、顔が赤らむのを感じながらも首を横に振った。


 その日、二人は数年ぶりの夫婦の営みを行った。こうして、結婚9年目は過ぎていった。

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