アト3ニン
朝目が覚め、すぐに理沙に電話を掛ける――しかし出なかった。
「クソッ」
ざわざわと胸騒ぎがする……。
俺はすぐに食事を終え、学校へと早めに向かう。
途中で啓一と出会った。
「おい、昨日理沙からメール来たか?」
「ああ……何だったんだよ、あれ……」
「分かんねぇ……無事だといいけど……」
俺と啓一は黙り込んでしまう。
そんな中、いつの間にか沙知も合流していた。
「ねぇ、昨日理沙からメール来たんだけど……」
「ああ、何度電話掛けても留守電に繋がるんだ」
「お前もか、俺も同じだ……」
「何かあったんじゃ?」
「よせよ、縁起でもない」
どうやら心配で電話したのは俺だけじゃなかったようだ。
「とにかく学校に行こう」
俺は学校へ行く事を促す。
「そうだな、学校に行けば分かるだろう」
「うん、分かった」
三人で早足になりながら学校へと向かう。
途中、踏切でカンカンカンと踏切警報器が鳴り俺達は足を止める。
そして信じられない光景を目にする――
踏切の中央で理沙が顔面蒼白で立っていたのだ。
「お、おい! 何やってんだ! 早く踏切から出ろ!」
俺はすぐさま叫ぶ。
「何やってんだあいつ……クソッ、俺があいつを抱えて――」
啓一がそう言った瞬間だった。
グシャリ――
その音と共に周囲に悲鳴が上がる。
宙に舞う理沙の靴、そして周囲に飛び散る血痕……。
俺達は体が固まり動けなくなってしまう。
そして――
「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」
着信音が鳴る――
鳴ったスマホは…………沙知だ。
「嫌……嫌だよ、こんなの」
沙知がペタリと腰を落としてしまう。
「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」
沙知の周りの人間が離れていく――噂の事を知っているのだろうか……。
「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」
着信音は止まない……。
沙知は震えながらスマホを取り出し画面を見つめ、すぐに地面にスマホを落とす。
俺と啓一は互いを見合わせどちらがそのスマホを取るか悩みこむ――当然恐ろしいからだ……。
「ねぇ……私も死ぬの?」
沙知が涙を流しながら懇願するような顔で俺を見てくる。
俺は渋々地面に落ちているスマホを拾い上げる。
画面には「理沙」の文字が写っていた。
俺はスマホを耳に当て電話を取る――
「……アト3ニン」
間違いなく今、目の前で電車に轢かれた理沙の声だ。
俺は理沙に電話を掛けなおす事もせずスマホを沙知に差し出す。
「いらない! いらない! いらないぃぃぃ!」
沙知が泣きながら学校とは逆方向へと走りだす。
「おい……電話誰だったんだよ……」
啓一が聞いてくるが、俺の顔を見て察したのか恐怖の表情に変わる。
「どうすんだよ、あと何人死ねば終わるんだ……俺……死にたくねぇよ!」
そう言いながら啓一も学校とは逆の方向へと走っていく。
俺も学校へは行かず近くの公園へと行き、ベンチに座り込む。
「……アト3ニン」
これが意味する事――それは恐らく俺と啓一……そして沙知だろう。
その夜、俺は啓一に電話を掛ける。
「何だよ!」
恐怖のためか啓一の声がいつもより大きかった。
「なぁ……沙知の所に行かないか?」
「何でだよ! 何しに行くんだよ!」
「守りに決まってるじゃねぇか」
「誰から守るんだよ! クソッ」
「誰だっていい――この連鎖を終わらせよう!」
「どうやって!」
「…………分からない、でも沙知の傍にいた方がいいだろ」
「…………確かにそうかもしれないな……」
俺達は待ち合わせをし、沙知の家へと行く。
沙知の家に着くと救急車が止まっていた――
その傍らで沙知の母親が救急車の中を心配そうに見ている。
「おばさん、何かあったんですか?」
「ああ、君達かい。それがね…………」
歯切れが悪く口ごもりながら答える。
「沙知が手首を切って自殺未遂をしたんだよ」
「え?」
「まぁ傷口が浅くて助かったんだけども……あの子、虐めでもあってたのかい?」
「いえ……いじめなんて……」
その瞬間だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
奇声ともとれるような声が救急車から木霊する。
すぐに母親が救急車の中に入ろうとするが救急隊員に止められる。
俺達は後ろから救急車の中を覗く――
「痛いぃぃぃぃぃぃ」
沙知の悲鳴と同時に――
バチュン!
まるで腹の中から何かが爆発したかのように救急車の中が血塗れになった――
「沙知! 沙知! 沙知ぃぃぃ!」
沙知の母親が取り乱し救急隊員を振りほどき救急車の中へと入る。
「ああ……ああ……ああああああ…………」
啓一が腰を抜かしその場にへたり込む。
「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」
また着信音が鳴る――
俺のスマホからではない。
となると……。
「嫌だ……嫌だ……嫌だぁぁぁぁぁぁ!」
そう言いながら啓一が闇夜に走りだした。
俺は止めようと思ったが体が動かなかった――