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かごめ歌  作者: 月影之命
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アト4ニン

 次の日、目を覚ました俺はすぐにスマホを取り出し大吾に連絡をする。

 昨晩のニュースが気になったからだ。


 今噂の「カゴメ歌」を真に受けたわけではない……。


 「カゴメ歌」……着信音で「カゴメ歌」が鳴った人は数日中に行方不明、もしくは自殺するという噂だ――

 そんな噂に踊らされるわけではないが、昨日の大吾の着信音の「カゴメ歌」、それに死んでいるはずの人間――鈴村からの電話が気になったからだ。


「大吾め……まだ寝ているのか?」


 伝言サービスに繋がれ俺は苛立ちを覚える。


「おい、大吾! 寝てるなら起きろ。でないと遅刻するぞ!」


 伝言に少し怒りをぶつけてしまう。

 俺は伝言を残し朝食を食べに下の階に行く。


「おはよー早くパン食べなさいよね」

「分かってるよ、母さん」


 いつもの朝だ。

 テレビを見ながらパンをちぎり口に放り込む。

 牛乳を飲みながらチャンネルを変えていく。

 特にこれといって鈴村の事を取り上げた番組はなかった。

 パンを食べ終え俺は学校へと向かう。




 学校に着き、教室に行くと啓一が席に座っていた。

 俺は大吾が心配になり啓一に尋ねに行く。


「なぁ、朝から大吾に電話してるんだけどあいつ出ないんだ。何か知らないか?」

「ああ、俺も今電話かけてたんだ。でもあいつ全然出やしねぇ……」

「やっぱりあの噂――本当なんじゃ……」


 いつの間にか横に来ていた沙知がそんな事を言う。

 俺は無性に不安に襲われる。


「やめろよ、噂は噂だって」

「そうだといいんだけど……」


 教師が教室に入ってきて一時限目のチャイムが鳴る。

 俺達は仕方なく各々席に戻った。

 …………大吾の席は空席だった。




 授業が終わり啓一の所にすぐに行きお互いのスマホを取り出し大吾に連絡するが繋がらない。


「一体何してんだ、あいつ――」


 心配そうにスマホを眺める啓一と同じ気持ちになる。

 噂なんて信じたくない――だからこそ電話に出てほしい……。

 いつもの明るいおちゃらけた声が懐かしい――


「ばっかじゃないの? 結局ズル休みっしょ!」


 そんな呑気な事を理沙が言ってくる。

 大吾がズル休みなんてする奴じゃない事は俺達は知っていた。

 だが、そう考える事で噂を否定したいのだろう……。

 二時限目のチャイムが鳴り渋々席に戻る。

 三時限、昼休みになっても大吾は電話すら出なかった。

 状況が変わったのは昼休みの終わり頃だ。

 担任が汗だくで教室に入ってきたのだ。

 普通、昼休みに担任が教室に入ってくることは稀だ。

 何かあったのだろうか?


「みなさん、落ち着いて聞いて下さい」

「せんせー、何かあったんですかー?」

「ええと……宇津宮 大吾君が…………」


 歯切れが悪く口ごもる担任……ゆっくり決意したように――


「自殺しました」

「え?」


 ざわりと室内が同様に包まれる。

 もちろん俺も困惑する……昨日確かにショックを受けていたが噂を真に受けて自殺? 考えられない。


「お通夜とお葬式は家族内でするそうですが……」

「そんな――」


 一体大吾に何が起きたんだ?


「先生、俺達はお通夜に行ったら駄目ですか? 仲が良かったので――」


 啓一の言葉に担任がコクリと頷く。


「そうですね、君達は仲が良かったみたいですし家族の方に聞いてみます」

「ありがとうございます」


「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」


 教室内に着信音が響き渡る。

 ざわりと教室内に不穏な空気が一瞬立ち込めた。


「だ、誰だよ……こんな時にやめろよな」


 誰かがふいに声を上げた。


「こら、スマホの持ち込みは禁止してないが、ちゃんとマナーモードにしなさい」


 担任の冷静な言葉――そしてその着信音が鳴った先は…………理沙だった。


「なんで……ちゃんとマナーにもしてたよ! それになんで私なの? なんで――」

「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」


 また着信音が鳴る。


「おい、聞いてるのか? 天城」

「嫌……私取りたくない!」


 俺と啓一がすぐさま理沙の所に駆け寄る。

 そして理沙のスマホを俺は取り上げる。

 着信履歴には……「大吾」の文字があった――


「すいません先生、ちょっと母親からみたいで……とってもいいですか?」

「勝手にしなさい」


 大吾の自殺で忙しいのか担任は廊下へと出て行く。

 俺と啓一は互いを見合わせスマホのボタンを押しスピーカーにする。


「……アト4ニン」


 すぐに電話は切れた。

 だが、聞きなれた言葉……大吾の声だった――


「あいつ……生きてたのかよ、驚かしやがって……」

「掛けなおしてみろよ」

「ああ」


 俺はすぐさま理沙の電話から大吾に掛けなおす。


「お客様の電話番号は現在使われておりません」

「え?」


 俺は驚きスマホを耳から離す。


「どうした?」


 心配そうに啓一が聞いてくる。


「電話番号使われてないって……」

「おい、冗談はやめろよ!」


 啓一が俺から理沙のスマホを奪い掛けなおす。

 だが、同じ返答がスマホから帰ってきたのだろう、啓一もすぐに耳からスマホを離す。

 それを見ていた理沙が啓一からスマホを奪う。


「嫌……嫌よ! 私死にたくない! 嫌ぁぁぁぁぁぁ!」


 理沙が叫びながら教室を出て行く。

 それを見ていた教室のクラスメイトがざわざわと騒ぎ始める。

 沙知は怯えた顔でこちらを見ていた。




 その夜、俺と啓一と沙知だけが大吾の通夜に参加した。

 理沙は…………電話にも出なかった。

 俺達は一言も喋らずに線香を上げてお互いの顔を見ずに別れた――

 ただ沙知がボソリと呟くように……。


「噂――本物なのかな……」


 俺と啓一は何も答えなかった。

 いや……答えたくなかったんだろう……。




 家に帰った俺はベッドに寝転がりスマホを見る。

 メールが一件入っていた――

 その差出人は……理沙だ。

 中身を確認する。

 たった一言――


「ダズゲデ」


 俺は背筋が凍る様な悪寒を感じすぐさま上半身を起こし電話を掛ける。

 もちろん理沙にだ。

 留守電に案内されるがすぐ切り、また掛けなおす――

 だが、その夜理沙が電話に出る事は無かった……。

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