アト5ニン
最近、こんな歌が世の中で騒がれている……。
「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」
誰もが耳にしたことのある「かごめ歌」だ。
これが最近騒がれ出したのには理由がある……。
ある噂が流れたのだ――
もちろん俺は信じていなかった。
…………あの日までは……。
夕方、校舎内で俺は友人達と集まっていた。
「おい聞いたかよ? あの噂……」
最初に噂話を振ったのは髪の毛を茶色に染め、短めの髪を立てている大吾だった。
視線を向けると大吾は机に無造作に座り片足を机に乗せその上に肘を乗っけてニヤリと笑っていた。
「噂話ってかごめ歌の? ハッ、あんなのただの噂でしょ?」
強気に噂を否定したのは金髪でどこかの令嬢を思わせるドリルのようなカールを腰までぶら下げている俺達の中で一番強気な女性、理沙だ。
「でも……ここ最近、行方不明者や自殺のニュース多くない? うち……ちょっと怖いかも……」
すこしオドオドしながら答えたのはショートカットの黒髪、眼鏡がトレードマークの委員長と言われても違和感がない沙知だ。
「確かに多いけど関係ないだろ、あの噂とは……僕は信じないね」
冷静に眼鏡をクイと上げながら否定したのは体育会系の体格を持ち、柔道部の助っ人なんかを頼まれる黒髪短髪、黒縁眼鏡が特徴の啓一だ。
「まぁ気にすることは無いんじゃないかな?」
適当にはぐらかそうとしたのはもちろん俺だ。
「で……でも、うちが小学校だった頃の友達の翔子ちゃん、一昨日から行方不明でうちの家にも電話があったよ?」
「そんなのきっと家出よ、何でもかんでも噂とくっつけようとするのは悪い癖よ沙知」
「そうだぞ? 沙知は臆病だな」
理沙は胸元に両手を抱え夕焼けを眺め、大吾は机の上でニシシと笑う。
「だが、確かに心配ではあるな。噂はどうでもいいが小学校の頃の友人が姿を消したとなると……」
冷静に、そしてこの中で誰よりも人に気をつかう啓一から出た言葉に誰も頭が上がらなくなる。
「大丈夫よ、きっとそのうちひょっこり出てくるわよ」
「そ……そうだよ。俺達が気にしても仕方ないさ」
理沙と大吾が慌ててフォローし、それを聞いた沙知は少し安堵の表情を浮かべる。
「それにしても噂って何でこんなに流行ってるんだろうな……」
ふと疑問に思った事を口にする。
そう、その噂とは授業中でも他のグループが小声で話していたり、帰り道――駅のホームなんかでも他校の学生が噂していたりする程広まっているのだ。
「みんな噂が好きなんだろうさ……それにこのクラスでも一人休んでる奴いるだろ? 確か大吾は中学の頃そいつと同じ学校だっただろ」
「ああ……鈴村だろ? どうせ風邪か何かだろうさ」
そんな事を話していると急に着信音が夕焼けに照らされた教室に響き渡る。
「かーごめ、かごめ。かーごの中の鳥はー、いーついーつでーやーる。夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった。後ろの正面だーあれ」
その着信音に俺は少し冷や汗をかきながら四人の顔を見渡す。
着信音が鳴ったのは大吾だった。
「ちょ、よしてよ気味が悪い! 噂話をしはじめたのも確か大吾だったわよね」
「もう……心臓に悪いですよ」
「全くだ、趣味が悪いぞ」
「まっ、待ってくれ! 俺はこんな着信音に設定した覚えはないぞ」
そんな事を言いながら大吾は慌ててスマホを取り出し誰から電話が掛ってきたのかを確認する。
「……鈴村だ」
「ほら、やっぱりあんたの悪知恵でしょ」
「もう、うち心臓破裂するかと思ったよ」
「全く……お前というやつは……」
「いやいや……本当に誤解なんだってば!」
「いいから取りなよ」
かごめ歌が不気味に鳴り響くのが耐えられなくなり俺は電話を取るように催促した。
それを聞いた大吾がスマホを操作し耳に当てる。
「ひっ」
三秒程して大吾がスマホを地面に放り投げ、その反動でバランスを崩し乗っていた机から落ちる。
「おい、大丈夫か?」
すぐさま啓一が手を差し伸べる……だが、大吾はその手を取ろうとせず、体を小刻みに震わしている。
「どうしたんだよ」
俺は嫌な予感がして大吾に問う。
「…………「あと五人」って女性の声がした後切れた……」
「なによそれ! 悪ふざけはよしてよ」
「そ……そうよ、うちが怖がりだからってそこまでしなくても……」
いつもなら「なーんちゃって」とか言いつつ起き上がるのに今日の大吾は何か変だ……。
それを啓一も察したのか大吾の肩をさする。
「お前……本当に大丈夫か?」
「……何で俺なんだ?」
「鈴村ってやつに電話掛けなおしてみろよ」
「……あ、ああ」
俺の提案に大吾がスマホを拾い掛けなおす。
みんなの視線が集まる中、大吾の顔から血の気が引いていく。
電話を切りスマホの画面を眺める大吾に誰も何も聞けなくなる。
――何があったか、知るのが怖いからだ。
少しした後、意を決し俺は大吾に聞いてみる。
「どう……だったんだ?」
少しの間を挟んで大吾が俺に目線を向ける。
「この電話番号は使われていないって……」
「そんな馬鹿な事あるかよ!」
俺は大吾からスマホを取り上げ着信履歴から鈴村の項目を選択し掛けなおす。
「お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません」
「まじかよ……」
理解不能な事態に陥った俺達はしばらく沈黙する。
沈黙を破ったのは強気が売りの理沙だった。
「やってらんない! 私帰るから」
「ちょ、うちも帰る」
二人が慌てて部屋から出て行くのを見送り俺と啓一は顔を見合わせる。
大吾をこのまま放っては置けないからだ。
「おい大吾、俺達も帰ろうぜ」
「なぁ……あの噂本当なのかな?」
「そんな訳ないだろ? なぁ啓一」
「ああ、噂なんて所詮は噂、気にするなよ」
「でもよ……」
「気にするなって!」
啓一が少し大きめの声を上げ、教室に響く――
「そ、そうだよな……噂なんて……」
啓一が大吾の腕を持ち無理矢理に立たせる。
俺は大吾にスマホを返し今日は帰ろうと提案をし、三人で帰る事になった。
その夜、俺は風呂に上がりテレビを見ていた。
そしてあるニュースが俺の不安を増幅させた。
「今日、午前七時頃に通行人からの通報により川から水死体が引き上げられました。身元は都内に住む少年、鈴村 幸助さんと分かりました」
鈴村……大吾に電話を掛けたであろう人物だ。
それが午前七時にはすでに死んでいた?
俺はその時、最近噂になっている「かごめ歌」を思い出した。