能力の発現
西暦2800年、超能力を持つスーパヒーローの存在が世間に認知されてから400年後。文化・化学・経済の最先端国家として世界に認められた国Tokyo。2450年に起きた日本大再構成計画により建国され、人口は600万。再構成以前の北海道に位置し、留まることを知らない発展を続けている。
そして、その国から約1,200km離れた旧東京ではある能力に目覚めた人間がいたー
『眠い』
左腕を振り、右手で目を擦りながらそう言う彼の顔は本当に今にも眠ってしまいそうだ。眠いと言ったことに対して教官に小言を言われた彼は目を擦っていた右手を腕を振る動作に戻し、ランニングを続ける。顔こそ整っているが、筋骨隆々でも体力がある訳でもない彼にとって毎日のランニングはきついものだった。今日のコースは地下鉄の旧渋谷・上野間。距離にして約13km。彼が所属している反政府組織革命軍『プロリビルド(Pro-Rebuild)』は東京全ての地下鉄に基地を持っていてそれぞれの駅が大きな拠点となっている。教官に小言を言われてから数十分たった頃、彼はようやく上野拠点にヘトヘトの足を踏み入れた。
飯が上手いと噂が立っている上野拠点には多くの革命軍徒が滞在し、ほかの拠点とは違う賑わいを見せている。ランニングから解放された彼はさっきの眠さを忘れ、空っぽの腹に上手いものを入れようと店に向う。ステーキ店「牛肉太郎上野拠点店」の扉のついていないただの入口を通り、席に座った彼は「ギューニク・サーロインの旨み」をライスとセットで注文し、他の騒がしい客をよそ目に飯を口に頬張り始める。発現科に友人のいない彼の食事はたいてい1人だ。寂しさを感じ、友人が訪ねてこないかなと思っていた時、足並みの揃った革靴の音が聞こえ店の前で止まった。店の中は驚きで静まり返る。そして、そのうちの1人が店の中を覗き込んで、
『軍徒ナンバー240、発現科の渉はいるか。』
確かに訪ねには尋ねられたが、友人でも何でもない。革靴からして恐らく上層部の人間だろう。そんな人間がなぜ彼を。自分の名を呼ばれた彼は首だけを動かし、牛肉を食べ続ける口をその声の主に向けた。
『いるのか。』
5秒ほど遅れて、いると返事した渉は唾とステーキから出た肉汁を飲んだ。上層部がわざわざ呼びにくるのだ。渉は何かやらかしてしまったのかと思い、頭に除隊の2文字が浮かぶ。
『君に超能力の発現が確認された。』
店内はさきほどの静けさを破り嘘のような騒がしさになった。ヒュポンッ、という聞きなれないシャンパンの栓を開ける音が何回か連続する中で、彼は上層部の言葉を理解するのに時間がかかっていた。数年に1人と言われている超能力の発現が自分だった時の驚きは半端ないだろう。そして、頭に冷たいシャンパンをかけられているのを感じながら渉は1つの疑問にたどり着いた。
『俺の超能力はなんなんだ。』