星
陽が沈み終わるころ、足を引きずるように山道をゆっくりと歩いていた。
花粉を撒き散らす木々が葉を揺らしながら圧力をかけて来るたびに、僕は自身を鼓舞して足取りを強くした。
何度か倒れ込みそうになるのを歩いていると、突然横道が現れた。
細く薄暗いその先には、微かな光があった。
光に吸い込まれるように、なんとなく、足取りが横道へと向かっていった。
そこには、滑り台が一つにブランコが二つ、鉄棒が二つある小さな公園があった。僕を吸い込んだ光の正体は公園唯一の街灯だった。電球色のものが一つだけ、道路側から心細く公園を温めていた。
ふと視界の隅で何かが揺れたのを感じたので、恐る恐る目を運ぶとブランコに小さな影があった。不気味に思い、恐る恐る足を運んでみると、そこにはブランコに座っている少女がいた。
やあ、と風にかき消されそうな情けない挨拶をすると、少女はこちらに笑顔を向けて挨拶を返してくれた。
少女は星を見ていたようだった。街から遠いこの公園からは星がきれいに見えた。僕も少女と一緒になって、夜空を眺めた。長時間歩いて棒になった足を、ブランコに座って休ませようと思ったが、流石にこの状況で少女に近づくことをためらい、Gパンのポケットに手を突っ込んだまま上を向くことにした。
しばらくの間、二人でそうしていると、空を見ながら少女が口を開いた。
「ねぇおじさん、なんで星は光ってるの?」
唐突に空に投げられた質問に、おじさんなんて歳じゃあないぞ、と不機嫌に返そうと思ったが、それ以上の少女の純粋さ、まっすぐな質問に苦笑を漏らしてしまった。それを見た少女は、首を傾げて僕をまじまじと見つめてきた。
僕は、上手く温かい声が出るように息を整えてから、いや違うんだ、と詫びるように苦笑の理由を答えた。
「大人になると、子供のころ疑問に思ったことを疑わなくなって、反対に疑問に思わなかったことを疑うようになるんだ。」
少女はしばらく星を見て考えたあとに、何言ってるのか分からない、と目尻を上げて眉をひそめながら僕に目を向けた。
「ごめんごめん。そうだなあ、大人になると、信じるほうが、疑うより難しくなるってことだな。」
「ふーん。」
私の質問の答えは?とまたもや不機嫌になり、そのまま空に浮かぶ無数の光たちを目で追いかけだした。
僕も顔見知りの星がいないか空を見上げたが、視界の隅に街明かりがぼやけて入ってくるせいか中々見つけられなかった。
少女は時々、空を指差して光をなぞっていた。星同士の距離を測っているのか、それとも友達同士をつなげているのか、どちらかは分からなかったが、脚をばたつかせてブランコから落ちそうなぐらい身体を仰け反らせていた。
向こう側が見えそうなほど純度が高い少女に当てられて緊張が解けたのか、ふいに口走ってしまった。
「おじさんは人を殺した。それで、今、逃げてる最中なんだ。」
少女の目線が空の光から僕へと向けられ、空中で星を繋いでいた指はゆっくりと重力に引っ張られていった。
少女の目線はまっすぐと僕の両目を捉えていた。街灯で微かに逆光になっていたおかげで、僕は容易に目を泳がすことができたが、突き刺さるような目線はそれを許してくれなかった。
少女の口が微かに動く。開く瞬間の口の動きがゆっくりしていて、言葉が届くのに時間がかかると思ったが、それは風の音に怯むことなく鋭く僕の耳へと入ってきた。
「そんなことしてないでしょ。」
僕は、堂々たる少女の真っ直ぐな線から逃げるように夜空を見上げた。
視界の隅にいた街明かりはもういなくなっていたが、行き場を失った液体のせいで星の光はぼやけてしまっていた。
「信じてくれるのかい?」
と情けない声で言うと、少女は頷き、夜空の光を結びだした。
情景描写の練習です。




