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シブサワくん家で午後五時にお茶を  作者: 浦出卓郎
第八章 撲滅の賦

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エピローグ シブサワ君家で午後五時にお茶を

 庭にしつらえられた大理石のテーブルは綺麗に磨かれて、その上に綺麗なレースの食卓布が掛けられていた。

 ポットが置かれている。

 これは由良が家から持ってきたものだ。その中には篠田が持ってきた何かよく分からない種類の紅茶の葉が入れられている。

 十七時ジャスト。 

 世間で言われるところの午後五時である。 

 僕らは約束通り放課後にお茶会を開いたのだ。

 四月も残すところ、あと数日だった。

 三島は妹にした無礼を詫び、修繕した上で返してくれた。今は再び筺の中に隠れて貰っている。

 「ちょっと、お菓子くらいフォークを使って食べなさいよっ!」由良は篠田に怒鳴り声を上げた。

篠田はチーズケーキを手掴みで食べていた。コイツのお嬢様振りも本当に怪しいものだ。

 「んおおおっ、これ美味しいですわっ、龍くん、どんな店で買いましたのおおっ?」

 「どこでって、普通に駅前の店さ」

 「こんど、是非っ、お教え頂けませんことっ!」

 喜色満面で言われるので驚いてしまった。

 格別評判のところで買った物ではないのだが。本当に元・美食部か?

 「あたしまで呼んで貰って、ほんとにいいの? こう言う文化部っぽい雰囲気の中で余り面白いこと言えないけど」

 多田満津が控えめに言った。

 「多田は文学詳しいぞ、実は」僕はフォローを入れる。

 「いやいやー、全然そんなことないよ。付け焼き刃だしさー」と多田は飽くまで謙遜する。

 「多田さんとは余りお話したことがないので、この機会にお近づきになりたいですわっ」

 多田の顔はちょっと曇った。やはり言っていたように、美食部関係者には良い感情は持ってないようだ。

 由良は几帳面にフォークで切り分けていた。こういうところは本当にきっちりとしている。

 種村はその横で皿のケーキをじーっとにらんでいた。

 「どうした、種村、食っていいぞ」

 「……何で川村がいる」

 種村の横には川村二葉が腰を掛けていたのだった。

 「三才……丸谷部長も誘ったんですけど、忙しいからと断られました。少し、澁澤君たちとは距離を置きたいようね」と川村は笑った。

 「三才もくればよかったのに、ですわっ。おもてなしして差上げましたのにっ」

 「いーだ。あんなやつ来ない方がいいわよ。あの後、しばらく打ち身でのたうち回ったんだからっ! 今度あったら、この借りは返してやるっ」

 「物騒だなあ」と松山が呟く。

 「何であんたもココにきてるのよっ!」由良はツッコミを入れる。

 「そりゃ、あるじが招いてくれたんだからにゃ、こなけりゃならんだろ」

 「良かったら来たらって言った程度なんだけど」僕は頭を掻いた。

 「そりゃ招待と受け取るぜー」と笑って言った。

 僕はノートパソコンをテーブルの脇にある折りたたみ式の小卓の上に置いていた。

 ネット電話が起動していて、何時もの部屋に腰掛けた出口裕子が顔を出している。

 「あっ、美玖だ、元気」

 「裕、久しぶりねっ!」由良が元気よく叫んだ。

 「札幌はどう?」

 「まだ寒いよ。時々厚着していかないとね」

 「おっ、綺麗なお姉さんじゃないですかっ。澁澤、知り合いか?」松山とは高校に入ってからの付き合いなので出口の事は知らない。 「誰? このスケベそうな奴」相変わらず辛辣な答えが返ってくる。

 「おいおい、酷いなあ……」タジタジとなっていた。こいつも何だかんだ言って、気は弱そうだ。

 「そういえば、伊木先輩たちはどうなったの?」由良が思い返すように言った。

 「ああ、それなら、檻から解放されたらしい。しかも猿ではなく普通の服を着た生活を送れるようになったようだよ。まだ休んではいるようだけどね。後、最近なぜか呉の姪の智恵ちゃんがよく僕に引っ付いてくるんだ。突然現れて、タタタタタッって後を追ってくる。漫画を沢山携えてね。折角だからちょっとは読ませて貰っているんだけど、まあこれがなかなか面白いんだよ」僕はやや肩をすくめていった。

 「花田先生と三島は?」流石に幼女相手には由良も嫉妬しないらしく、単純にスルーして続けた。

 「ああ、それか、三島は週一で奢らされているようだよ。一万円のディナーを」

 「「「「「「「「一万円!」」」」」」」」

 その場の八人が全員声を上げる。確かに高いけどさ。

 「でもまだ、撮影された動画は返して貰っていないらしいよ。花田先生らしいよな。絶対バックアップ取ってるよ」

 「サド趣味ですわねっ!」と篠田。

 サド。

 そうだ、思い出した。SとM。マゾッホの正反対の作家はサドだった。

 種村は恐る恐るフォークを手にとってケーキを食べ始めようとしていた。

 と、道に打ち付けられる蹄の音が聞こえてくる。

 白馬だった。家の向こう側の車道を歩いている。乗っているのはなんと三島である。

 噂をすれば何とやら。

 しかし、おかしいな。三島にまでお茶会のことは言っていなかったのに。

 「やあ諸君、こんにちは」

 「何でお前がこんなとこに」

 「今日は遠乗会でね。今回ばかりは偶然というやつさ。他意はないよ。こいつはぼくの愛馬の白鳥」

 と馬のたてがみを撫でながら言った。

 『遠乗会』とは聞かない言葉だ。それに白馬なのに『白鳥』か。変わってるよな。

 「げっ、生徒会長」先日のことをよく知らない松山はびっくりして身を引いた。

 「やあ、ええと、君は松山君だったか」と三島はちょっと戸惑って言う。

 「あっ、そうだ!」今まで黙っていた矢川がいきなりぽんと手を打った。

 「何よ?」由良が聞いた。

 「澄香、どうしたの?」と多田。

 「実はね、ごしょごしょ」と矢川は二人に耳打ちする。

 「良いわねっ!」

 「面白そう、是非やってみようじゃん」

 「一体なんですの?」篠田は怪訝に聞く。

 「面白いことよっ」と由良は篠田に囁く。

 「キュートですわっ(ハァト)!」と嬌声が上がる。

 すかさず種村に耳打ちする。

 「それはいい」と無表情のまま一言。

 「川村」とちょっと緊張して向き合ったが。

 「二葉、実はですのっ」と篠田がすかさず二人の間に入り込んで耳打ちした。

 「面白そっ!」川村は明るく言った。

 ちょっと種村は俯いて暗い顔になっていた。

 出口はちょっと悔しそうにも見えたが画面の向こうで涼しく微笑んでいた。

 「なんだよ、秘密主義だな」松山が言った。

 「だめっ、女の子だけの秘密よっ!」と由良は言った。

 「おいおい、変なことはするなよ」僕はあらかじめ釘を刺しておいた。

 「変なことじゃないわ」と由良。「とっても可愛いことよっ!」

 幾度か六人が打ち合わせをしたところで、

 「三島さん、ちょっと馬から下りてくれる?」

 いかにも優しげに矢川は言った。

 「いいけど、どうしたの?」

 三島はちょっと驚いて馬から降りた。

 「ちょっとこっち来て」

 素直に三島が付いていくと他の四人が重々しく三島の周りを囲んだ。

 「うわっ! 何をするんだ」

 六人は一斉に三島に飛び掛かる。もつれ合いながら、僕の家の玄関まで歩いて行き、全員で中に消え去った。

 何をしようって言うんだよ。

 五分。十分。

 時間は過ぎていく。

 ちょっと心配になったその時。

 扉が開いた。五人はニヤニヤ笑いながら現れ出てくる。一人種村だけは無表情だが。

 なんだよ、気持ち悪いな。

 その後ろには誰かが隠れている。

 「「「「ジャーン!」」」」由良と矢川と多田と篠田と川村が言った。

 ざっと六人は左右に分かれる。

そこから現れたのは不思議の国のアリスだった。

 しかもブルーの服を着ている。僕らが連想する何時ものアリスだ。豊かな金髪だし。

 よくその顔を見ればすぐに分かった。

 その顔は真っ赤に染まっている。

 「み、見ないでっ!」

 両手で顔を押さえた。

 「可愛ええっ! あれ誰だ、まさか生徒会長?」と松山。

 「やっぱり普通のアリス服もいいよね。でも私じゃ少しだし、三島さんが一番似合うよっ!」と矢川。

 「恥ずかしいっ、なんでぼくが……」と三島はボヤく。

 「私が髪とか整えてあげたのよっ!」と由良が鼻息荒く言う。

 「種村と川村が押さえていた」

 「三島さんったら、ほんとに良い香りなんですのよっ、今日はお煙草は召されてないのかしらっ!」

 「あの生徒会長がねえ」と多田。

 「三島会長がこんなに可愛いなんて思いもしなかった」と川村は素朴な感情を漏らしていた。 

 ともあれそんなこんなで。

 午後のお茶会は和やか? に過ぎていこうとしている。

 こいつらと過ごすのはとても楽しい。

 これが『幸福』という感情か。

 でも、本来なら人はもっと鮮烈な、激しい一瞬の感情を愛するものだ。

 それは『快楽』とでも言えるのだろうか。そういう気持ちを求めてみたくもなった。

 でも、今は『幸福』でいいや、そんな気にもなった。

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