表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シブサワくん家で午後五時にお茶を  作者: 浦出卓郎
第八章 撲滅の賦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

第八章 撲滅の賦(1)

 朝の光が部屋を満たしてきていた。

 起きて早々、何故か嫌な予感がして、僕は妹を隠していた筺を開けた。

 居ない。

 居るはずの妹がそこにはいないのだ。

 信じられる訳がない。

 僕は不安になってあたりを見回した。しかし、ベッドの下も、机の上にも、どこにも妹の影もかたちも見えなかった。

 「龍、どうしたの! 声が聞こえたけど」

 由良がドアを叩く音がした。僕は急いで鍵を開けた。

 「妹が、いない」

 「妹って?」由良の顔に驚愕の色が浮かんでいた。

 「妹って、ミサさ?」僕の方が驚き呆れていた。

 「ミサって誰? それに、龍の妹さんは……」由良は暗い顔になって黙り込んだ。

 「あの人形」と脇から顔を出した種村が言った。

 後ろで控える矢川は別段動じていないらしく、少し薄笑いにも見えるような表情をしていた。

 「人形じゃないっ! 僕の妹だっ」声も限りに叫ぶ。

 僕は二人を外に出して素早く着替えを終え、階段を下りた。

途中で篠田の部屋を通り過ぎたがまだイビキが聞こえる。それには目もくれず駆け抜ける。

 「龍! どこ行くの。今日は日曜よ」と由良は必死に叫んだ。

 「学校だよ、こんなことするやつは一人しか思い付かない。三島だ。やつに会って何としてもとっちめて、妹を返して貰うっ!」

由良は何度も後ろで呼び止めるが、我慢ならない僕はそれを無視して走り抜けた。

 朝食も取らずに家を飛び出した。

 学校への道程を普段の倍ほどの速度で歩き始めた。休日だからか人通りは少ない。

 学校の校庭はがらんとしていた。

 今日も練習があるだろう運動部はまだ来ていないらしい。

 僕はすぐに生徒会長室に向かう。

 三島は学校で寝泊まりしているらしい。ということはそこにいる可能性が高い。

 ドアは開いていた。僕はズンズン中に入っていく。

 机の上にはまだ吸いさしのピースが残っていて、灰皿の中で薄く煙を立てている。

 その横には紙切れがあった。

 

 体育館に来られたし


 と達筆で一行だけ書かれている。これが僕に宛てたものであることは間違いないだろう。

 急いで廊下に出て、体育館を目指した。靴のままだったことに気付いたが、この際そんなことはどうでもいい。

 体育館はがらんとしていた。

 先日の狂躁が嘘のようである。

 「澁澤ッ!」

 高らかな声が響いた。

 僕は振り向く。

 三島だった。軍服を着用し、両足を揃えている。右手を後ろ側に隠していた。

 眼光が赫奕かくやくと光輝き、こちらを睨み据えている。

 「君は、『五箇条』違反した! だからぼくがこの手で粛清してやるッ!」

 何時もなら保っているはずの冷静さを完全に無くし、叫んでいた。それに当てられたのか、僕の怒りは反対に萎んでいった。

 「何を言ってるんだ? 僕はそんなことなにもしていないぞっ! 三島、お前の方がどうかしてる。僕の妹をどこへやったんだ? 返してくれっ!」

 「これか、これが、君の妹だと。笑わせるんじゃないよっ!」

 と、三島は隠していた方の手を前に出した。その先には妹の脚が握られていた。

 ミサは宙にだらんとぶら下げられている。

<<オ兄チャン……>>

 「やっぱりか、なんでこんなことやったんだ!」また怒りの感情が蘇ってくる。

 「こんな人形が妹だとまだ信じ込んでいるのか。そんな妄想は捨てろっ! 君の妹は死んだんだッ!」

「いや、僕の妹は生きているっ!」

 「これでもかッ!」

 三島はミサを床に投げつけた。そして、関孫六を抜き放った。しかし、力なく若干蹌踉めいて、いつものような覇気がない。顔色も悪いようだ。

 「止めてくれっ」

 刀はミサに突き立てられた。

 しかし、悲鳴も何も聞こえてこない。

 「幾ら刺しても血もでないだろっ、それもそのはず、これは人形だ! 血も涙もない人形なんだっ! 何故君はそれが分からないんだっ! 何故君はそれを認めようとしないんだ!」

 僕は頭を抑え、床にくずおれた。

 「あ、ああああっ!!!!!!!」

 訳が分からなくなり大声を上げる。何なんだ。ミサは一体何なんだ。ぼくは、三島は、いったいどうだと言うんだ。

 「君は、『五箇条』を破った。君は幻想を共有した。幻想文学部の部員達とっ! 君は彼女たちを支配し、彼女たちの恋愛感情を煽っている。彼女たちと魂まで結び付き合おうとしているっ! それは僕の『五箇条』違反だっ!」

 いささかヒステリックなまでに三島は喚き散らした。豊かな髪を振り乱して、何度もこちらを指さして論難している。

 それで僕にはまた冷静さが戻ってきて、こう言うことが出来た。

 「三島、お前は言ってただろ。『五箇条』は手前勝手なものもあると」

 「そ、そんなの知らない。君は破った、だから粛清だっ」やや焦りの色が感じられ始めて来ていた。

 関孫六を地面に突き立てる。

 「さあ、ぼくの<<音楽>>を聞けっ!」

 「幻想展開ファンタスマゴリア・ディプロイメント

 途端に件の大きな鋏の影が姿を現した。

 「もう一つ使わせてもらうよ、<<剣>>を!」

 そう言ったが早いか、軍刀は三島の手を離れ、影の中に吸い込まれていった。

 それと共に影が床から立体的に起ち上がって、実際にこの空間に姿を現したのだ。巨大な鉄製の鋏が目の前にあった。

 ユックリと鈍い音を立てて、鋭い刃を打ち合わせながら、鋏はこちらに迫ってくる。

 何も分からないまま終わるのか。

 「ハハハハハッ……」

 僕は自嘲した。こんなところで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ