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寄り添う ☆

兵機庁西灯支部

遠隔家畜管理用モニタールーム

※時系列は、典巻が西灯病院に行った同日午前


 雌ジャガーのキャンディはデスクの小物類を段ボールに詰めていた。

 フリルたっぷりのブラウスは新品だった。

 その上に、ジャケットではなく白衣を羽織っている。


「席が空いたわよ、マキ」


 雌三毛猫のマキは下の段の席から段ボールを抱えて来た。


「少佐、やっぱり納得がいきません」


「家畜や部下が違反行為をすれば、責任を取るのは当然よ。

 あと、私は少佐じゃなくて中尉。

 あなたより下になるのよ」


 キャンディは今回の責任を取る形で、特畜管理責任者を辞任することになった。


「私は、少佐と一緒に仕事がしたかったです!」

 マキは涙ぐむ。


「嬉しいわ、ありがとう。大丈夫よ。

 特畜管理から、開発・育成部門に戻るだけ。

 私の本職は元々こっち。

 マネジメントは不向きだったのよ。

 これからは貴女達のサポートに回るわ。

 特畜隊を頼んだわよ、マキ。

 貴女の方が私より向いていると思うの。

 私はついつい特畜を甘やかしてしまうから」


 マキは涙を拭い、肩を張る。

 キャンディの後任で、管理責任者になったのだ。


「お任せください。

 少佐よりもビシバシやりますから!

 正直思ってたんです。

 少佐は親心が入ってるって。

 私はそんな生温いことしませんよ!

 皆と一緒に特畜隊の活躍実績を作っていきますからね!」


 下の席で、雌黒猫のマコ、雄チーターの若葉、雌チーターの医師が、穏やかに二人を見ている。


 マキの台詞と皆の表情に、キャンディは安心した。


「少佐……あ、キャンディ中尉。

 受付に来客です。

 アトリエ・ココソコドコカの加純(かずみ)

 雌レッサーパンダ。

 

 家畜用装備製作の打合せと言っているそうです。


 お約束されてますか?」


 マコが受付からの連絡を知らせる。


「まぁ! 加純さん!

 私がお迎えに行くわ。

 ここの応接室を借りるわね」


 キャンディは嬉しそうにモニタールームを出た。


 キャンディが出た後、ササッと四人は集まる。


「家畜用装備製作に外部の動物が?」


「アトリエ・ココソコドコカって聞いたことあるわ。

 ちょっとマコ、検索してみて」


 マコはパパっとパソコン画面を切り替える。


「公式サイトがありますね。


 加純

 オートクチュール・デザイナー」


「「オートクチュール・デザイナー?!」」


 マキと医師は声をあげる。

 若葉はピンときていない。


「央灯出身。

 世界有数のファッション都市、(ホァン)杏仁(シィンレェン)に留学後、杏仁で人気と実績を誇る老舗メゾン・ド・クチュール『マロン・メダル』で縫製職人、デザイナーとしての経験を積む。

 その後満を持して、故郷央灯で独立。

 灯のとでは珍しいオーダーメイド専門の洋装店『アトリエ・ココソコドコカ』を設立。

 今、注目を集めるデザイナーの一人」


 マコが読み終え、一同顔を合わせる。


「洋服のデザイナーてことは、活動服の打合せですかね?」

 とマコ。


「それをわざわざ、オートクチュール・デザイナーに依頼したってこと?」

 医師も首を傾げる。


「少佐……いや、キャンディ中尉はいつどうやって、そんな予算を軍からもぎ取ったんすか?」

 若葉も困惑する。


「よっぽど、タテガミやサゴシにダサいって言われてたの、根に持ってたのね……。

 でもやることが斜め上過ぎるわ」


 マキの言葉に全員ウ~ンと納得した。


     ◆◆◆


兵機庁西灯支部

家畜棟


 中央生態保護区から戻ってきた特畜達は、2日間みっちり休息と検査と脳内情報収集(ヒト二人除く)に当てられた。


 3日目の朝、食事を集合して摂るように指示されたので、各自食堂に向かう。


 サゴシが部屋を出ると、丁度タテガミも廊下に出たところだった。


「よう、久しぶりだな」


「ああ、見たくねぇ顔の1つだぜ」

 タテガミは頭を掻く。


 二人共、白の室内着を着ている。


「こないだはお疲れさん。

 お前が機転を効かせてくれたから、作戦が遂行出来たぜ」

 サゴシは並んで歩きながら話す。


「あれはもう忘れろ」

 タテガミは気まずそうに言った。

 サゴシはその表情を見てニヤつく。


「苦しいのね。辛いのね。

 よく頑張っているわ。

 良い子ね。

 さぁ、こちらにいらっしゃい。

 私にその顔を見せて」


 タテガミの顔周りの髭や毛先が一気に逆立つ。


「ガキの頃空腹訓練してる時に、少佐から言われたのか?」


「お前には関係ないだろ」

 タテガミは手で口元を覆う。


 サゴシは笑みを浮かべたまま、タテガミに近付き、左腕で彼の肩を抱いた。

 右手の指で、タテガミのたくましい右腕をトントンと叩いてメッセージを送る。


『お前、少佐に惚れてるだろ?』


 タテガミはバッと離れる。

 鬣まで逆立っている。


「何てことしやがる!

 俺は定期的に記憶を見られるんだぞ!」


「じゃあそれまでに忘れときなよ」


 サゴシはスタスタとエレベーターの方へ歩いて行った。

 

    ◆◆◆


兵機庁西灯支部

家畜棟

中庭


 朝食前の時間に、餡は中庭に出て空を見上げていた。


「餡」陸稲がやって来た。

「何をやってるんだ。

 上着も羽織らず、日向に出たら駄目だろ」


 餡は白のタンクトップとショートパンツ姿だった。


「日焼け止めは塗ってる」

 餡は返した。


 陸稲は餡の隣に立ち、一緒に空を見上げる。

 四方を囲まれているからか、雲が一層高い所にあるように見える。


挿絵(By みてみん)


「隊長」

 餡はギュッと陸稲に抱きついた。

 陸稲も応えるように抱き返す。


 餡の指がトントンとメッセージを送っている。

 陸稲もそれに指で返事する。


「お前は、陸軍にいた頃からの付き合いだ。

 遠慮するな」


 陸稲は言った。

 餡はコクンと頷いた。


 陸稲は大きな手で、餡の背中を優しく撫でる。

 数年前に自分の下にやって来た家畜。

 訓練も任務もずっと一緒にやってきた。


 陸稲に家族という考えはない。

 しかし本人に自覚は無くとも、餡に対して娘のような妹のような接し方をしているようだった。


    ◆◆◆


兵機庁西灯支部

家畜棟

特畜用食堂


 サゴシの隣に陸稲が座った。

 幅のある陸稲に隣に座られ、サゴシは少々窮屈に感じた。

 タテガミはサゴシから一番離れた席に座っていた。

 餡はおらず、席が1つ空いている。


 無言で皆食事を始める。

 そんな時、陸稲が自分の足元をトンとサゴシに当てた。


 サゴシは足元を当てられたことに気付くが、食べ続ける。


 陸稲の足はトントンと繰り返し当たる。

 それがメッセージだとサゴシもすぐ判った。


 夏と冬がテキパキと食べ終えた食器類をさげる。

「朝食後休憩したら、各自トレーニングを始めるように」


 タテガミは逃げるように食堂を去った。


 サゴシも立ち上げる。


 陸稲、セロリ、サエズリはのんびりお茶を飲んでいた。


「先に失礼するぜ」

 そう言ってサゴシは陸稲の肩をポンポンと叩いた。


 それは『承知した』の意味だった。


 サゴシはエレベーターに向かう。

 下行きのボタンを押す。


 陸稲が伝えたメッセージはこうだ。


『朝食後、中庭に行け。

 餡が待っている』

次回最終話12/20 7:00投稿予定です。

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