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ナイフ

センターを5階建から10階建に変更します。

スピカも同じくそれ位大きいという設定です。

※元々のスピカの大きさ設定が、5階建物より大きいことに気付いた為の訂正です。

灯のと中央生態保護区管理センター

屋上


 サゴシ、餡、陸稲はスピカを見る。


 スピカは、もぞもぞと頭を抱えたり、足の踏み場を変えたりと、手持ち無沙汰な様子でいた。


「ケーブルは2本使う。

 1本は俺のタグに繋いでスピカに刺す。

 もう1本は俺と餡の耳を繋ぐ。

 俺のタグで流れ込む情報量を調整してから餡に送る。

 この方法なら、俺の意識も保たれるし、餡が混乱することも防げるはずだ」


 サゴシが言うと、餡は頷いた。


「問題はスピカにこのケーブルが刺せるかなんだよな。

 鱗がどれ位硬いか確認しないと。

 それに、あいつの耳の場所が分からない。


 サエズリ、一般的にイグアナの耳はどこにあるんだ?」


 サゴシはタグ通信で質問した。


『イグアナの耳は、首にある丸い鱗の上辺りだ。

 しかし、スピカの場合、感覚受信をしているのは、頭部の2本の突起物だ。

 通常イグアナはあのような形の突起物を持たない。

 あの形状と性質は、馬の耳に近い』


 セロリの機械的な声が流れてきた。


 サゴシはスピカの頭の方を見上げる。

 目の延長上に鱗に覆われた突起物があった。

 今は少し後方に傾いている。


『映像データから、スピカが暴れている時は突起物も回転するように動いている。

 落ち着くと少し傾く。


 ブランマンジェの精神状況とも連動してると思われる』


「承知した。


 頭の上なら、スピカを寝かさなくても繋げそうだな。


 まずは、あの突起物の鱗を一部剥がす。

 陸稲、俺の拳銃とお前のナイフを交換するぞ」


 陸稲はベルトから鞘ごとナイフを渡す。

 ナイフはショルダー型ホルスターに収まった。


拳銃(そいつ)じゃあ、スピカを攻撃出来ないけど、多少の威嚇誘導にはなるだろ」


 陸稲も拳銃をズボンの太腿ポケットにしまった。


「先に俺一人で行って、突起物に傷をつけてくる。

 その傷口にケーブルを差し込む。


 感覚や意思が直結する部位だ。

 少しの傷でも奴は反応するはずだ。

 

 餡、俺がお前を呼ぶまで、お前はなるべくスピカの寄り添って、スピカに慣れてもらえ。


 陸稲は俺達が攻撃されそうになったら、空気圧で防御してくれ。

 一瞬でも確保してくれたら、自分で回避する」


「「承知した」」

 餡と陸稲が返した。


    ◆◆◆


 餡は屋上から周囲を見渡す。

 来客用駐車場側の柵は、スピカの尻尾が倒し済だ。

 反対の職員出入り口側から並ぶ柵は、斜めに倒れかかっていた。

 建物と真隣の柵が内側に向いて傾いていた。

 柵の上部が建物よりも中に入っている。


 餡は強化した脚で柵に向かって駆けた。

 飛び跳ねて、ガシっと柵の一部を掴んだ。


 縦に並んだ骨部分の間は金網になっている。

 餡は傾いた柵を登る。

 餡一人の体重ならビクともしなかった。


 金網の隙間にブーツの先を入れ、バランスを取りながら、餡は立ち上がる。


 スピカとの距離は幾分近付いた。

 餡はスピカと目を合わせようと試みる。


 ぐりぐりと動かしていたスピカの首が止まる。

 自分より遥かに小さい()()に気付いたようだ。


    ◆◆◆


 サゴシも屋上フェンスから飛び跳ねた。


 中央に位置する尻尾の付け根辺りに着地する。

 上体と違い黒く、予想通り硬かった。

 12階建て縦長建物一棟並の大きさがあるスピカの尾の付け根は、足場として十分な幅があった。


 サゴシはスピカに触れて観察する。

 鱗の壁を目の前にしているようだった。


 表面はコツコツと音がしそうなほど硬いが、すぐ内側はしなやかに皮膚と筋肉が伸びている。

 爬虫類とは思えない程、その表面は暖かった。


 サゴシは手を上にずらしていく。

 鱗の色は徐々に黒から灰色、白にグラデーションになっていた。


「ん?」


 手の届く範囲で一番白い部分に触れると、全く違う感触があった。

 むしろ慣れ親しんだ感触だ。


「体毛……?」


 鱗状に象られた皮膚に、白い毛がビッシリと生えていた。

 逆撫ですると、桃色がかった灰色の皮膚が見えた。


「白い鱗に見えたのはこれか。


 サエズリ、セロリ。

 ブランマンジェに質問してくれ。


 スピカを造る際に身体の一部を提供しているかどうか」


 1分待たずして、セロリから返答が来た。


『ブランマンジェはキメラ開発にあたり、身体の提供は一切していない。


 しかし、ブランマンジェの身体情報が必要だった為、代わりに自分の精子を提供した』


「精子……?!

 じゃあこいつはつまり……」


 スピカは餡がいる方に身体も向けた。

 頭がセンターに近付く。

 尾の付け根にいるサゴシの存在は気付いていないようだ。

 ゆっくりと大きく揺れる巨体にサゴシはしっかりしがみついた。


「餡、陸稲。

 俺はこれからスピカの頭頂に向かい、ナイフで刺せるか試してくる。

 こいつの動きに充分気を付けろ」


 そう言うとサゴシは、手足をバチバチと強化し、鱗の中でも突起が目立つ部位を掴む。

 突起を素早く見極め、手足を引っ掛け登っていく。

 途中で足を踏み込ませてジャンプする。


 スピカが背中を曲げ始めたので、斜面が緩やかになった。

 サゴシはスピカの頭頂に辿り着いた。


 乗用車の車長程ある幅の頭部の両端に突起物はあった。

 近くで見るとサゴシの背丈位はある。

 周辺はかなりデコボコしている。

 鳥の糞や泥で、凹みに汚れが溜まっていた。


 サゴシは右側の突起物に近付き、ホルスターからナイフを抜き取った。

 ナイフを握る手を強化する。


 大きく斜め上に振りかざし、突起物の下部分を、ザクッと切り込んだ。


 白い体毛が生えた鱗の肌から、赤黒い血が飛ぶ。


     ◆◆◆


 ギエエエエエァァァ!!!


 ぬらぬらした口内を見せながら、スピカは悲鳴を上げた。

 餡は耳を押え、耐えた。


 スピカは頭を上げ、肩の真下にある両腕で自分の頭辺りを振り払おうとする。

 胴体についた腕達も、バタバタと動かしている。

 頭部の突起物が大きく回転している。


 餡は、サゴシがスピカの背中を伝って降りていく様子を視認した。


     ◆◆◆


 サゴシは鱗に傷をつけた後、数回刺してから離れた。


 スピカの背中のデコボコに掴まり、落ち着くのを待つ。

 スピカの六本の腕は、どれも背中を触れることが出来ず、身体の横側で空を割いていた。


 サゴシは顔についた血を袖で拭う。

 撥水加工されたダウンの袖についた血液は軽く振るとサッと落ちる。


「突起物に傷をつけることに成功した。

 スピカが落ち着き次第、餡も頭頂に……」


 サゴシは言い終えることが出来なかった。

 スピカの尻尾が、サゴシめがけて飛んできたのだ。


「うわっ?!」


 サゴシは飛び跳ねて避けた。

 尻尾は大きな音を立てて、スピカの背中を打つ。


 キシャアアアアーーー


 その衝撃風で、サゴシの身体が更に飛ぶ。


 サゴシは別の動く尻尾に掴まり、身体を回転させる。

 動く複数の尻尾を何度か踏み越え、背中に戻った。

 今度は尻尾が届かないだろう辺りに着地する。

 下を見ると、白い鱗から血が滲んでいた。


「力の使い方も分かってねぇのかよ」

 サゴシは舌打ちした。


 サゴシが着地して間もなく、背中のデコボコがぐにゃぁと伸び始めた。


     ◆◆◆


『餡も頭頂に……うわっ?!』


 サゴシの指示が中断した。

 餡はまだ柵の上に立っていた。


 上体を起こしたスピカは6本の腕と5本の尻尾を闇雲に振り回していた。

 やがて尻尾の1本が、スピカの背中を激しく打ち付けた。

 

 キシャアアアアーーー


 スピカの悲鳴が空を切り裂く。

 餡はスピカを見つめ続けた。


 やがてスピカは餡がいる柵に方向に向かって倒れてきた。


 餡は金網を駆け、センター屋上に戻ろうとする。


 内向きだった柵の上部とスピカの顎が衝突し、柵ごとスピカは地面に倒れ込む。


 尾の1〜2本が、センター2〜3階部分に接触した。

 コンクリートの壁に大きくヒビが入り、窓ガラスが割れた。


「うくっ……?!」


 衝撃風と砂埃が、飛び跳ねた餡を襲った。


 餡は空中でかろうじて体勢を変え、屋上の端の縁取るように取り付けられている配管を掴むことが出来た。

 そして素早く屋上に戻る。


「隊長?!」


 陸稲は屋上で両手を前下方に差し出していた。


「サゴシをこちらに引き寄せる。

 受け止めろ!」


 陸稲の腕の方向を見下ろすと、5階辺りの高さにサゴシが浮いていた。

 緑色のダウンがボロボロになっている。

 彼の下には、倒れたスピカの背中があった。


 餡は屋上フェンスを軽々と乗り越えた。

 フェンスを左手で握り、建物端ギリギリまで身体を運ぶ。


 陸稲が唸り声と共に両腕を上げる。

 サゴシの身体が屋上に向かって飛んで来た。


 餡は飛んでくるサゴシの手首を掴んだ。


 サゴシも掴まれて直ぐに、靴底を壁に当て、片方の手で屋上の縁を掴んだ。


 二人は一緒にフェンスを越えて陸稲の元に戻った。

 陸稲は荒く息を吐きながらしゃがんでいた。


「ありがとう。

 陸稲、餡」


 サゴシはボロボロに破れたダウンを脱ぎながら言った。


「こちらサゴシ。

 3人とも屋上にいる。

 負傷者無し。


 セロリ、タテガミ、状況を伝えろ」


『こちらセロリ。

 管制室は問題ない。

 電気も通っている。システム異常無し』


「承知した」


 タグ通信を済ませ、サゴシはスピカを見下ろす。


「変形が始まるぞ」

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