食後
※暦が読者様の世界と異なる為、ナンバリングで時系列表記します。
事件発生は行燈山でムギが自爆してから3日後とします。
そこから約2週間の間に起きた出来事です。
1:【速報】
灯のと中央生態保護区周辺にて未確認生物を発見。
政府は家畜か野生動物かの判明に急ぐ。
2:北灯中村にて、未確認生物が村民・家屋を襲う。
生物巨大化。被害甚大か。
3:【速報】環境省が発表。
灯のと中央生態保護区管理センター職員と、連絡不通が続いているとのこと。
4:灯のと中央生態保護区管理センターで未確認生物を発見。
現地調査に赴いた環境省職員と警察機動隊員数名が負傷。
近隣でセンター職員数名を発見保護されるも重症。
5:緊急総理大臣会見
「保護区周辺広範囲にて緊急避難指示。
生態観察圏内に警察機動隊出動決定。
生態保護区内侵入も視野に入れることを示唆」
6:避難対象区域の住民は混乱。
保護区侵入示唆に国民反発。
央灯他都市部でデモ発生。
7:【速報】警察機動隊、生態観察圏を撤退。
巨大未確認生物封じ込め失敗。犠牲者多数。
8:政府公認上空カメラより、巨大未確認生物が生態保護区に接近していることが判明。
9:【速報】巨大未確認生物はキメラである可能性が高いと、環境省が発表。
現場で採取した排泄物や分泌液を調査し判明。
10:巨大キメラ問題で、現政権支持率過去最低に。
軍との癒着を指摘。与野党から総辞職解散を求める声も。
11:巨大キメラ問題。海外からも批判の声。各国首脳からのコメント。意見分かれる。
ヴァージャーランド『動物の安全確保優先を。生態観察圏内での武力行使も示唆』
黄『黄製造のキメラ対策用麻酔液の提供を公言』
◆◆◆
サゴシは瞼を上げ、溜息をついた。
気付くと既に食器はさげられていた。
「デザートの用意をする。
各自必要ならトイレを済ましていくように」
夏が言うと、何人か入口と反対側にあるトイレマークのついたドアの方へ向かう。
サゴシも立ち上げる。
「皆、行っておいた方が良いぜ」
まだ座っていた特畜達はサゴシの方を見て、黙ったままトイレに向かう。
(ここは静かだが、外は大騒ぎしているんだろうな)
サゴシは用を足しながら、セロリに話しかける。
二人は別のトイレを使用しており同じ空間にはいない。
『軍を使えないことが、足かせになっている。
ダイダイ疑惑に加えての事態だからな。
未確認生物も軍が関与していると疑われ、嫌軍感情が国民全体に拡がっている。
いち早く救援にかけつけた陸軍隊を、現地住民の一部が攻撃し、避難所支援が遅れている』
(バッシング覚悟でも、軍を現地に派遣すべきなんだがな。
軍じゃなきゃ、抑え込みも無理だろ。
でも、現総理にその根性はないか。
ヴァージャーランドの提案に乗って協力してもらったら、躊躇いなく保護区に向かって爆撃されるな。
あいつらからすれば、灯のと保護区なんか、無い方が管理コストが減って良い位の認識だろう。
黄の麻酔液支援が妥当な落とし所かな)
『そうもいかないんだ。
兵器庁に原材料を卸している会社が黄にもある。
ダイダイ疑惑で黄への嫌悪感が高まっている中、この方法も難しくなっている』
(ああ、ダイダイは反灯のと・黄返還思想だったもんな)
『そうだ。
ダイダイはそのように振る舞うことで、黄指示の団体や企業関連から支援金を集めていた』
サゴシはニヤつきながら食堂に戻る。
タイミングが被ったタテガミが怪訝そうに彼を見た。
(セロリ、質問だ。
特畜達は、生態保護区についてどう認識しているんだ?)
サゴシは席に戻る。
目の前に熱い緑茶と羊羹二切れが置かれた。
餡の羊羹より大きいので、視線が少し痛かった。
『任務や家畜としての性質上、我々は動物の一般常識もテキストとして修得している。
よって生態保護区の意味も知っている』
(保護区を知った時、特畜達に何か反応や感想はあったか?)
『タテガミが「めんどくせー」と、
ムギが「動物も色々悩んでいるのよね」と、
言っていた。それ位だ』
(そうか、分かった)
サゴシは羊羹を口に放り込み、緑茶をすする。
◆◆◆
出された菓子類を食べ終え、特畜達は一息ついていた。
夏と冬は、次のスケジュールの準備と確認をしていた。
「少佐と話がしたい。
繋いでくれ」
サゴシが座ったまま言った。
「理由は?」夏が問う。
「いいから繋げと伝えろ」
サゴシは声のトーンを落とした。
『何ですか? サゴシ』
天井のスピーカーからキャンディの声が聞こえてきた。
「要求する。
俺と特畜達を今すぐ灯のと中央生態保護区へ連れて行け。
巨大未確認生物の始末は俺達がやる」
夏と冬の表情が強張る。
『……』スピーカーから沈黙が流れる。
『却下します』キャンディの声だ。
「では、命令する」サゴシが素早く返す。
『あなたに命令出来る権限はありません』
「動物の命が関わっても?」
再び沈黙が流れる。
「サゴシ、何を言っているんだ。
もう通信はお終いにする」
夏が空気を遮り、業務に戻ろうとする。
「この後のトレーニングだが、サゴシは……ギャッ?!」
夏が倒れる。
冬が震える表情で立っていた。
右手の爪が剥き出しになり、血に染まっている。
『どうしたの?』
キャンディの音声が響く。
「あ、あ……??」
「冬、お前何を考えて……ウワァ!?」
夏の上に冬が襲いかかり、取っ組み合った。
爪をちらつかせた冬が優勢だった。
夏の動きを封じた状態で、二人は立ち上がる。
冬は夏の後ろに周り、夏の首に噛み付いている。
夏は顔の横を血に染め、両手を挙げている。
「今すぐ特畜隊を出動させろ。
運搬機とパイロットを用意し、服や武器を機内に入れろ」
『サゴシ、あなたは自分が何をやっているのか、分かってはいるわね』
「違反だろうが、関係ない。
保護区で生物を何とか出来るのは、特畜しかいない。
動物が行けないんだからな」
『承認はしません。
ですが、動物の命を優先する行動は取りましょう』
「サゴシ、ふざんけんなよ!」
タテガミが唸り声を上げる。
「落ち着け。
下手に動けば、サゴシの催眠に作用する。
ミストレス、私と恐らくタテガミも、冬と同様、既に催眠術をかけられております。
サゴシを攻撃しようとすれば、夏もしくはサエズリを襲うようになっております」
「機内で夏をサエズリに治させるさ」
サゴシが言った。
『……移動しなさい。
パイロットと航空機整備担当者の手配が出来ました』
キャンディの声は非常に落ち着いていた。
「夏、冬。
歩きにくいだろうが、俺達を案内してくれ」
冬が噛み付いた状態で二人は出入口ドアへ向かう。
冬の目から涙が溢れていた。




