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不快

行燈山内部

幹部会合室


 スカイブルーのスーツを着たブランマンジェ。

 ここでは、バルゴと呼ばれる白馬の雄が現れた。


 室内は明るく、デスクと椅子が複数置かれていた。

 マスターこと、クッキーが険しい表情で立ち上がる。


「無価値の説教中に、虫が沢山侵入したようだね」

 バルゴはパソコンのディスプレイを見る。


「ライオンと犬、ヒト二人、ウサギとカバ。

 この他にも虫がいる可能性は?」


「ゼロとは言えないけど、まずはこの6匹を潰しましょう。

 私のセキュリティを突破して堂々と侵入した。

 ほぼ間違いなく化け能力者よ。

 私達ではないと太刀打ちできないわ」


 クッキーの隣に座っていた雌ヒトが言った。

 ステージに立つ前のような、派手な化粧を施している。

 髪の毛は茶色に染め、所々金色のメッシュを入れており、天井に向かって盛り上げていた。


「真っ先に潰すべきは、ウサギとカバよ。

 どちらかが、セキュリティ攻撃の発信元だわ」

 雌ヒトが脚を組みなおす。

 光沢のある緑色のワイドパンツの裾がゆらめく。

 下半身は布を広く使っているが、上半身は水風船のように膨らんだ胸をピッタリと覆っている。

 肩を出した服の上から自身の肩幅をゆうに超える程の大きな銀色の襟巻を纏っていた。

「私がウサギとカバに会いに行くわ。

 この頭の痛くなるノイズからおさらばしたいし。

 護衛を二名つけてちょうだい」


「分かった。でもジェミニ、決して無理はするなよ。

 君の存在はわが組織にとって大きい。

 マスター、すぐに手配を」

 バルゴが言った。


「かしこまりました。

 レオがライオンと犬の相手をしていますが、その後報告が来ておりません。

 レオの意に反しますが、警備員を行かせましょうか?」

 マスターがバルゴに尋ねる。


「何かあれば警報センサーが発動するはずだ。

 彼はプライドが高い。もう少し待っていてやろう。

 あとは、ヒト二人だが……」


「俺が行く」

 バルゴが言い終える前に、声が降ってきた。

 姿は彼らにも見えていない。


「あの雌ヒト。良い女だ。可愛がってやりたい」


「あまり下品なことは控えてくれよ、ピスケス」

 バルゴは軽くため息をついた。


「分かってるって。ぐふふふふふ」


 気味の悪い笑い声を残し、それは去っていった。

 ポチャンと床に水滴が落ちたのを、その場にいた動物達が不快そうに見た。


   ◆◆◆


行灯の高級割烹『蕪』

VIP専用個室


「この部屋は特別でして。

 行燈島北側が窓から見えます。

 生態管理区の自然が一望出来ますよ」


 ホスト役の雄土佐犬が手を揉みながら解説する。


「まぁ素敵ですわね」

 キンイロジャッカルのナデシコが感嘆の声をあげた。

 胸元が開いた真紅のサテンドレスに着替えている。

 秋田犬のしげるは、ナデシコと一緒に腰を下ろす。

 

「やだ、会長。

 くすぐったいですわ」


 見るに堪えないやりとりを、ホスト役の雄犬二人は口角を上げたまま見ていた。


「この度はご迷惑おかけし誠に申し訳ございません。

 会長は我が警察公安の権威と名誉そのもの。

 そのような御方にお手間をかけてしまったこと、私は実に悔しく思っております」

 雄土佐犬が、しげるの傍で酌をしながら頭を下げた。

 しげるがクイと猪口を傾けて飲んだと同時に、もう一人の雄赤犬が風呂敷を広げ、菓子折箱を差し出した。

「これは我々からのせめてもの詫びの気持ちです。

 くだらないものですが、お納めください」

 雄土佐犬が意味ありげに目配せした。


 しげるは霜降りの馬刺しを数枚箸で掴み、口に入れた。

 クチャクチャと音を立てながら、目元を弛ませる。

「君達の気持ちは然と受け取ろう」


 ナデシコは箱を受け取り、荷物入れ用鞄にしまった。

 菓子折りにしては重みがあったが彼女は黙っていた。


「儂は第一ブロック公安の優秀さを誰よりも分かっている。

 しかし悲しいかな。

 警察にはまだムラがある。

 格下のブロックに邪魔されるのはたまらんな」


「そうなんです!

 馬鹿の上司は、あのサルでした。

 第三ブロックは軍のゴミ捨て場に成り果てました。

 我が第一ブロックは何としても、警察の威厳を忘れずにいなくてはなりません」


「その為にも、ゴミ捨て場と同じモノは、使えんよなぁ……」

 しげるは皿に盛られていた馬刺しを全て口に入れた。


「おっしゃる通りです……」

 土佐犬は頭を下げる。

 その口元は笑みを浮かべていた。


「ご存知ですか? あのゴミザル。

 ノシノシと手をついて歩くんですよ。

 アイツと握手なんか絶対嫌ですね」


 土佐犬はウホウホと言いながら、畳の上を手をつきながら歩いて回った。

 しげるはゲラゲラと笑った。


 しげるに酌をするナデシコと、土佐犬に言われて仕方なく同じ動きをする若い雄赤犬の表情が、引きつり笑いになっていることに、二人は気付いていない。


「それにしても本当に素敵な景色ですわね」

 次の料理が運ばれてきたので、ナデシコは話題を変えた。

「心が洗われるようですわ」


「ふむ、ナデシコ君は趣きを分かっているね……」

 しげるはナデシコの腰に手を回そうとする。


 その時だった。

 4人の動物達が見ていた手つかずの山の緑の斜面から、灰色の塊が飛び出し、海へ落ちた。


「んな……?!」


 鬱蒼と繁る木々の隙間から煙が昇っていた。


     ◇◆◇


行燈山内部

従業員用エレベーター内


 サゴシと餡も上階を目指していた。

 しかし従業員用は10階までなので、二人は一旦出る。

 3機並んだ内の真ん中の豪華なデザインのエレベーターは、現在停止中になっている。

 もう1機は稼働中で上ボタンを押しても中々来ない。


「少佐、俺達は引き続き上階に向かう。

 ムギがどこにいるか分かるか?」

 サゴシはタグへ尋ねたが返答はない。

 セロリの通信管理が充分でない今、少佐からの指示を受けることは不可のようだ。


「自力でムギと中枢部を見つけるしかないな。

 エレベーターと階段、どちらを使うか。

 タテガミ達はエレベーター指示だったな」


「私達は階段を使う。

 ルートは分散すべきだ」

 餡は淡々と答えた。


「俺も同じ意見だ。

 階段室へ向かおう」

 サゴシはニヤッと微笑んだ。


 事前に見た立体マップのおかけで、階段室がどの方向にあるか予測出来ていた。

 二人は無機質で明るい廊下を早歩きで進む。


「走らないのか?」

 餡がサゴシに尋ねる。


「目的地に行くには、()()()()()()方が早いからな。

 むしろ待っているのさ」

 サゴシは言った。


 ピタッ


「どうした?」

 餡が立ち止まったので、サゴシは振り向く。


「何か来る……」


「え……? ぐうっ?!」


 サゴシは身体を折り畳み、膝をついた。

(い、息が出来ない……?!)


 口の中が一瞬で水で溢れ、肺と胃まで到達したようだ。

 吐き出そうにも、水は留まり、流れ出ようとしない。


 サゴシは顔を上げ、餡を見る。

 餡は壁に背もたれていた。

 うめき声が漏れているので、呼吸はできるようだった。


「う、うう……」


 餡のタンクトップが伸びて盛り上がる。

 何かが彼女の服の中に入ったようだが、姿が見えない。

 タンクトップが湿っているのが分かった。


(水の……塊?)

 餡に憑いているそれをよく見ると、濡れた筋が出来ており、サゴシの口に続いていた。


 化けかキメラによる攻撃と判断したサゴシは、脇下に収めた拳銃に手を伸ばす。


(クッ……!)

 ()もそれを察したのか、水がサゴシの喉から鼻奥へ動く。

 頭蓋骨に侵入され、激痛が走る。

(脳をやられたらマズイ……)


「あ、ああ……」

 一方、餡は見えない敵からの()()に抵抗出来ずにいるようだった。

「いやっ、やめてっ、あ……あん!」

 その声は甘さと熱を帯びてきている。


「ふふふふ、予想以上だ」

 やや高い雄の声がした。

 餡のタンクトップから水のような塊が出てくる。

 一部が細長く伸び、茶色い毛並みの腕に変わった。

 腕は餡の頬を撫で、顎を持ち上げた。

「良い反応だ。元々こういうプレイがお好みか?」

 雄の声も興奮を抑えられないという風になってきた。


「あ、駄目……。変になっちゃう……」

 潤んだ瞳で餡は漏らすように言った。


「ぐふふふふふ……!

 もっと可愛がってやるよ!」

 水の塊は更に形を変え、濡れた毛並みのカワウソの上半身が現れた。

「今日は大当たり……だ……は……」


 バチン!!!


 雄カワウソの頭部が破裂し、肉片や血が飛び散る。

 水の塊がズズズと縮小し、濁った色に変化していった。


 餡は素早くダウンを脱ぎ、タンクトップを破って脱いだ。

 白く濡れていたタンクトップは、茶色い毛と赤々とした肉片が複雑に絡み合い、ズッシリと重くなった。

 頭部の形がタンクトップにくっつくように残った。


「オエエエエ!!」

 サゴシは体内に侵入されていものを吐き出した。

 こちらもドロリと濁った肉塊に変わっていった。

 餡の前にカワウソが姿を出し始めた頃から、こちらの容積が減っていたらしく、幾分呼吸はしやすくなっていた。

 鼻をかむと、毛の混じった赤黒い粘液が出てきた。


「頭さえ、視認出来れば良いからな……」

 サゴシは最早動物の形をしていないモノを見下ろした。

「ここまで形状変化させるとはな。

 やはり動物にキメラ技術を植え付けていたのか。

 完全にアウトだな」


 餡は黙々とタンクトップの一部を切り取り、採取用ビニール袋に入れてウエストポーチにしまった。

 残りは消失の化け能力でジジジと焦がすように破壊した。

 次に消毒綿で腹部やスポーツブラの中を拭き取る。

 ベルトのバックルを外すと、腰回りが濡れていた。

「ミストレス、大陰唇・陰核と肛門周辺に接触された。 

 消毒綿拭き取りで処置する」

 そう言って餡は新たな消毒綿を下着の中へ入れた。


 サゴシは餡から目をそらす。

 自分も消毒液を口に含む。


「分かっていると思うが一応言っておく」

 餡が拭き取りを続けながら言った。

「私は兵用(ひょうよう)家畜だ。

 だが、愛玩用(ラブドール)をベースに創られている。

 状況に応じられるよう、あれ位の演技は訓練している。

 それに保護膜で、刺激や痛覚は軽減される。

 勘違いするなよ」


 サゴシは肉塊にベッと消毒液を吐きかけた。

「分かっているよ」サゴシは言った。

 怒りを滲ませた目で、ドロドロとした肉塊を睨んだ。


 拭き取りを終えた餡は、床の肉塊に触れようとする。


「よせ、そんな汚いゴミに触るなよ」

「証拠隠滅は必要だ」

「違法医療の証拠になる方が、こいつらにとっては痛い。

 放っておけ。行くぞ」


 苛立ちを残したままサゴシは歩き出した。

 餡もダウンを拾い、黙って歩き始めた。


 餡のダウンのジッパーを上げる音が静かに響いた。

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