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VSレオ ☆

挿絵(By みてみん)


行燈山内部

地下排水施設→1階へ


 タテガミとサエズリは階段室1階に到着した。


『廊下へ出ろ。

 お前達の存在に敵は気付いた』


「はいよ。

 オトリとして頑張りますよ」


『この後しばらく私は交信不可になる。

 最上階に敵幹部がいると推測する。

 タテガミ達は東側にあるエレベーターで上階を目指せ』


「了解」タテガミは施錠されたドアを強引に開ける。


 暗い雰囲気から一変し、まるで高級ホテルのようだった。

 紅のカーペットを歩き、エレベーターホールへ向かう。

 焦げ茶色の壁に、木目調の建具。

 暖色の照明が壁際に飾られた花瓶や絵画を美しく照らす。


 エレベーターは3機並んでいた。

 真ん中は一際豪華なデザインの扉だった。

「ご立派だな。連中は金のかけ方がおかしいのか?」

 タテガミは言った。


 上行きのボタンを押すと3機とも扉が開いた。

「どれに乗れば良いんだ?」

 セロリからの返答はない。


「自分で決めろってことか。

 折角だから一番お高そうなヤツに乗りましょうかね」

 タテガミは真ん中のエレベーターに入った。

 表示された階数で一番上階の20階と閉ボタンを押した。


 扉が閉まり、エレベーターは動き出す。

 窓がなく、画面の階数表示の数字がカウントされていく。


 ガタン


 突然エレベーターが止まった。

 階数はまだ13階である。


『おい、そこの虫。

 俺様達幹部専用のエレベーターに乗るんじゃねぇよ』


 スピーカーから低い雄らしき声がした。


「真ん中が来客用じゃねぇとはな。

 ホスピタリティに欠けてんじゃねんの?」

 タテガミは斜め上を見て話す。

 そこにカメラがあった。

「テメェが止めたのか? さっさと動かせよ」


『上に行きたきゃ、俺様に勝ってからにしろ。

 遊んでやるぞ』


 13階を示したまま、エレベーターの扉が開く。


『良い場所を用意してやった。

 目の前のドアから入りな』


 タテガミはエレベーターを出る。

 エレベーターの扉が閉まった。


 正面のドアは両開きで、金色の模様が施されていた。

 タテガミは言われた通りにドアを開ける。


 中は、宴会などに使いそうな明るく広い部屋だった。

 クリーム色の天井に埋込型照明が規則正しく並んでいる。

 グレーのカーペット床にはテーブル等何も無く、奥に臙脂色の緞帳が降りた状態の舞台があった。


 タテガミが中に入ると、ドアは勝手に閉まった。

 施錠されたようだ。


「よく来たな」

 舞台の緞帳が上がる。

 中央にデニム姿の雄アメリカバイソンが立っていた。


「お前は……」

 南灯で遭遇したあの雄だと、タテガミは気付く。

 以前と違い、白いマスクをつけておらず、額や肩から腕にかけてサイのような皮膚をしていなかった。


「この間は楽しかったぜ。

 俺様の力を存分に出せる相手はそういねぇからな。

 お前、名前は?」

 舞台からの声はホール全体によく響いた。


「タテガミ。

 俺のことはタテガミと呼べ」

 タテガミも腹から声を出して返答した。


「俺様はレオだ。

 タテガミ、俺様達の下で働かねぇか?

 我らの技術を使えば、もっと偉大な力を手に入れられる」


「技術って何だ?」

 レオの音声を拾えるように、タテガミは顔向きを変えた。


「知りたいなら、俺様の足を舐めて、下僕になると誓え」

 レオは裸足の右足裏をタテガミに向けた。


「分かった」タテガミは黙ったまま歩いた。

 舞台に上がり、膝をついてレオの足元に顔を近付けた。


 ドシッ!


 レオは、タテガミの後頭部めがけて足を落とした。

 タテガミの顔面が木の床にめり込む。


「フフフフ、馬鹿だな? こんな誘い文句につられてよ。

 ついでに床も食うか?

 結構良い木を使ってんだぜ。

 ああ無理か。てめぇらは養殖肉しか喰わねぇもんなぁ!」


 興奮したレオの声が高くなっていった。

 タテガミはうつ伏せのまま動かずにいた。


「食いもんが違うだけで舐めやがって。

 アンモニア臭え野郎が。

 てめぇらには分かんねぇだろうなぁ。

 『喰うぞ』て言われる動物のことなんか。

 いつもそうだ。

 嘲笑いながら、俺達に『喰うぞ』て言うよな。

 で、言い返せば『冗談だよ』と馬鹿にしやがる」

 

 レオの目には、別の何かが映っているようだった。


「なぁ。俺はまだお前の足を舐めてないが、技術について教えてくれるのか?」

 タテガミが顔をずらして言った。


「ハァ?!

 本当に馬鹿だな? 教える訳ねぇだろ?」

 レオは嘲笑いながら言った。


「そうか……」

 タテガミは右手でレオの左足首を掴んだ。

 足を掴まれたと分かった瞬間、レオは宙に舞った。


 ズシーン!!

 レオの重い身体が、カーペットの床に落ちた。


「んなぁ?!」

 受け身をとったが衝撃が全身を伝った。

 レオは上半身を起こして舞台の方を見やった。

 

 タテガミは鬣についた木片を払いながら舞台を降りた。

 彼の顔のどこにも出血は見られない。


「質問だ。

 お前のどこをしゃぶれば色々教えてくれるんだよ?

 言ってくれりゃあ好きなだけ舐めてやるぞ」


「何言ってんだ、お前?

 草食の下僕になりたいなんて、とんだ変態だな」

 レオの声は沈んでいた。


「さっさと質問に答えろ。

 どうすれば、技術について話すんだ?

 それから、俺の(あるじ)は既にいる。

 俺は主の命令に従い、指示されたものを持ち帰るだけだ。

 もう一度言うぞ。

 どうすれば、技術について話すんだ?

 答えないなら、俺のやり方で話させるまでだ」


 タテガミは拳の関節を鳴らしながら言った。


「ふざけんな。

 誰がてめぇに言うかよ!

 お前はここで俺様に引き千切られて死ね!」


 レオの上半身から湯気が出てきた。

 肩周りの毛が消え、灰色の皮膚が浮かび上がってきた。


「交渉決裂だな」

 タテガミはダウンジャケットを脱ぎ、口元に近付ける。

「しっかり観察しとけよ、サエズリ」

「わかりました」


 タテガミはダウンを後方へ投げた。

 床に落ちたダウンからサエズリが顔を出す。


 黄金色の毛並から、バチバチと音を発生させた。

 全身の毛が逆立ち、鬣の毛先が上向きになる。

 タテガミは左腕をレオに向けて構えた。

「どうせ殺すんだったら遊んでからにしようぜ」


 ブフォー!


 レオの鼻腔から熱した蒸気のような鼻息が吹き出た。

 鼻息が当たったカーペットの繊維が溶ける。


 二人はほぼ同時に動き出した。


 レオの拳がタテガミに向かって伸びる。

 バチバチと音をたてる拳を、タテガミが寸前でかわす。

 触れていないのに、通り過ぎる腕から熱を感じた。


 タテガミはレオの右脇腹を狙い拳をめり込ませた。


「熱っ!」


 攻撃直後、タテガミは後方に跳ねて距離を取った。

 前回の硬さに加え、熱さが彼の手を襲った。

 まるで熱した鉄板に触れるかのようだった。


「こいつは面倒だな」タテガミは呟いた。


 脇に一撃をくらったが、レオは余裕の笑みを浮かべた。

 タテガミはレオに向かって跳ねた。


 二人は拳を振りかざし合った。

 そのスピードは徐々に上がっていった。

 ホール内は揺れ、床や壁のあちこちから煙が昇り、ヒビ割れた。


 パワーもスピードも、レオが上回っていた。

 レオの攻撃は勢いが劣ることなく続く。

 連続攻撃に、タテガミは耐えるしかなかった。

 一瞬の隙にタテガミは再度レオから離れる。

 ガードした腕の所々に水膨れが出来ている。


「さっさとかかってこいよ!

 てめぇのパンチなんざ、マッサージ程度だけどよ!」

 レオの息は少し上がっているが、問題ない様子だ。


 タテガミはしばらく黙ってレオを見つめた。

 やがて身体を構え直し、レオの攻撃を待った。


「次でお前の腹をブチ抜いてやるぜ!」

 レオの全身から一層湯気がたち、バチバチとした音も激しくなった。


 再びレオの連打がタテガミを襲った。

 避けきれず、タテガミは身体を吹き飛ばされる。

 天井の高いホールの壁上部に激突した。

 目を開けた瞬間、今度はコンクリートの塊が飛んできた。

 タテガミは咄嗟に避けながら落下する。

 そこに、壁を伝ってきたレオが蹴りを入れてきた。

 タテガミは内臓(なか)を抉られる心地がした。


 タテガミは両手足をついて壁から床に着地した。

 しかし立ち上がる時にフラついた。

 後方を見上げると、塊は壁を関通したらしく、穴から空が薄っすら見えた。


「やっぱり大したことねぇな!」

 レオが笑いながら言った。


「本当だな」タテガミもニヤリと笑った。

「お前、大したことねぇな」


 レオは目を見開いた。

「は? 何言ってんだ?」


「身体強化と格闘技の心得があるのは分かった。

 だけど、身体強化はその変な皮膚頼りだし、格闘技はスポーツクラブレベルてところかな」


「何、だと……」


「格闘技に関しては、そこそこ練習してるのも分かった。

 だけど残念だな。センスが無い」


 レオの表情が強張り、顎が小刻みに動く。

「黙れ……!」

 レオはタテガミに突進する。

 しかし振りかざした拳は簡単に避けられた。

 足元を払われ、レオの膝が床につく。


「実戦慣れしてねぇな。

 特にその身体強化の負荷がデカい。

 お前自身がもたねぇぞ」


「うるせぇ!

 これは俺様だから与えられた偉大な力だ。

 俺様は選ばれし、崇高なる動物だ。

 お前らとは格が違うんだ……」

 レオは自分に言い聞かせるようにしながら立ち上がる。

 灰色の硬い皮膚が赤くなる。


「こっからは、保護目的の強化はするが、運動神経は化け無しでいくぜ」

 タテガミは楽しそうに言った。

 逆立っていた毛並みがスッと落ち着く。


「舐めやがってぇぇ!

 アンモニア野郎がぁぁ!!」


 今度はタテガミがレオに向かって跳ねた。

 レオは構える。

 だが、狙いを定めたレオの拳に手応えはなかった。

 視界から敵が消える。


「ぐおっ?!」

 背中の中心に痛みが重く響いた。

 硬化した皮膚と元の皮膚の境目を狙われた。


 振り向くと、顔側面にブーツを履いた足を打ち込まれた。


 脳内がグラつく。

 レオはかろうじて立っていた。


「オシャレセンスはゼロだけど、機能性はバツグンだな。

 確か、火山も歩ける仕様だっけな?」

 タテガミはブーツ底をレオに見せながら言った。


「セコいところを狙いやがって……しかも足で……」

 レオは歯を食いしばる。

 口元から血が流れている。


「実戦で美しい正拳突きなんかするかよ。

 だからお前のはスポーツクラブなんだよ」


 レオの怒りは頂点に達したようだった。

 雄叫びをあげると、硬い皮膚が広がり赤みが強くなった。

 湯気の量が増し、膨らんだ筋肉は弾けそうだった。


 レオはタテガミに一瞬で近付き、顔面を殴ろうとする。

 タテガミはガードしたが、先程と比べものにならない程の熱さが腕を襲った。


「こいつはヤベェ。何度も受けきれねぇな」

 タテガミは後方に跳ねてからレオを見る。

「ん?」


 レオの耳から湯気が昇っている。

 先程まで見られなかったものだ。

 舌がダラリと緩み、涎が垂れている。

 目は充血し、焦点が合っていないようだ。


「おい、化けを解くんだ! 危険だぞ!」

 タテガミは言った。


「だま……れ……!」

 レオはおもむろに床を殴る。

 歩きながら床を足裏で壊していく。

 床下のコンクリートの破片が足に刺さり血が滲む。

「殺す……こ……ろ……す」


 レオは意識を保てていない様子だった。

 タテガミは戸惑いながらレオと距離を保つ。


「グオオオオ!!!」

 レオは両足を踏ん張り、跳ねようとした。

 

「なおします!」

 二足歩行姿のサエズリが飛び出し、レオの足首に触れた。

 ビシッと音がすると、レオはその場に倒れ込んだ。

 全身が痺れて動けない様子だった。


「なおします!」

 サエズリはレオの首筋に触れた。

 全身に広がった赤みが引いていき、湯気も消えた。


「や、やめろ……。

 

 ギャアアアア!!」


 レオは悲鳴を上げた。

 サエズリの手は、レオの肩の付け根に食い込み、そのまま腕に向かってズズズと焼き切るように動いていった。

 焦げた肉の臭いが漂う。


 ゴトッ

 レオの左肩から腕を覆っていた灰色の皮膚が落ちた。

 それを目にしたレオの表情は青ざめた。

 動揺し口元を震わす。


「なおします」

 脱力したレオの巨体に乗り、サエズリは作業を続けた。


「こちらタテガミ。

 雄アメリカバイソンの硬化した皮膚を、サエズリが切除している。

 バイソンは気絶してないが、静かだ。

 サエズリは、最初黙らせる為に痛覚をそのまましたみたいだが、今はちゃんと麻痺させているみたいだ」


 タテガミはタグ越しにキャンディへ状況報告をした。


 サエズリはボトボトとレオの皮膚を削ぎ落としていく。

 レオは剝き出しの皮膚の痛々しい姿に変わっていく。

 しかし止血をしているらしく、出血はほとんどない。


 やがてサエズリの手が、赤い身体を削ろうとしていた。


「おい、サエズリ!

 俺達は動物への攻撃は認められてないぞ!」


「なおします」

 サエズリはそう答え、手を動かし続けた。

 その手はレオのデニムを破り、脚も触れた。


 皮膚と体毛の修復が済んだレオは、アメリカバイソンとしてはあまりにも華奢な姿だった。

 身長もかなり縮んでいた。

 病的な理由ではなく、薄い筋肉を纏っており、元々の骨格が細身で小柄なようだった。

 

 最後にサエズリはデニムでレオの両手首と足首を縛り「なおしました!」と言った。

 ウエストポーチからピンセットと袋を取り出し、外れた皮膚や肉を一部収集する。


「お疲れさん」

 タテガミは二人に近付いた。

「なおしますか?」サエズリが尋ねる。

「いや、俺は後で大丈夫だ。

 お前は力を温存しておけ。

 きっと、こいつみたいな連中が他にもいるだろうからな」

 タテガミは横向きに寝ているレオを見た。


 レオの顔は涙と鼻水で溢れ、カーペットは染みていた。

「さっさと殺せよ。それがお前等の任務だろ?」


「俺達が認められているのはキメラと家畜の殺傷だけだ。

 ただの動物に戻ったお前に、これ以上手は出さねーよ」

 タテガミは言った。


「ただの動物だと?

 どうせ俺様のヒョロさに呆れてるんだろ?

 お前には分からねーよな、俺様の気持ちなんて」


「ああ、分からねぇ」

 タテガミはダウンジャケットを拾って戻ってきた。

 サエズリが4足歩行姿に戻り、背中ポケットに入る。

「もし俺がお前みたいな体格で生まれてたら、とっくに廃棄処分されてるからな」


 レオは顔を上げた。

「どういうことだ?

 お前らは何者なんだ?」


 その問いにタテガミは答えずにドアに向かった。

 施錠されたドアを強引に開けて部屋を出た。

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